――――戦闘開始――――

1試合目:驚異の大型装甲巨人、現る!

 この日、カンパニーの命運を決める戦争が、ついに開始された!

 試合開始のアナウンスが流れたと同時に、各地で轟音と噴煙が上がり、すでに激しい戦いが繰り広げられていることを示していた。

 そんな中、我らがアマゾネスの女王、ファラはというと―――――


「よし、いっぱい獲れた」

『おーい……のんきに素潜り漁やってる場合か?』


 南西エリア――クリスタルレイク西岸で、ファラは暢気に湖に潜って魚取りにいそしんでいた。どうやらファラは、まず食料と水を確保して、体制を整えるつもりなのだろう。ほかの代理が命を懸けて鎬を削っている中、あくまで自分本位で行動するファラ。その姿を見て、オペレーターのアルバレスは、のっけから呆れていた。


『この分じゃ、まじで先が思いやられるな…………ん?』


 と、通信中のアルバレスが、レーダーが何か感知したことに気が付いた。

 しかも、熱源はかなり大きい。


『お、おい、ファラ。後ろの方から何かくるぜ』

「わかってる。さっきからがしんがしん音がする」


 言われなくても、ファラの耳はかなり前から――――それこそ水中にいるときから気が付いていたようだ。

 待ち構える彼女の前に姿を現したのは―――――


『なっ……で、でけぇ…………! ちょっとまて、いきなりこんなのかよ!』

「おおきい……」


 大きさは、目測で8メートルを超えるだろう。全身を紫色の金属装甲に覆われた、猫背の巨人が迫ってきている。おそらく、直立すれば10メートルを超えるだろう。

 手や背中に砲を装備しており、遠近両方の戦闘に対応しているようだ。


《両者、合意しますか》


 二人が見合った時、どこからかアナウンスが聞こえた。

 戦闘相手がマッチングしたことを示すアナウンスだ。


「私は構わない」

「(黙って頷く)」


《『石器時代の勇者』ファラ代理 及び 『試作用改造巨人改良型』ゲニスロト、戦闘合意が交わされました。交戦を開始します》


『あーあ、ファラの出番はもう終わりか。見てらんねぇなぁ……』


 アルバレスはやや残念そうに首を振った。

 同じような大きさならまだしも、相手の装甲巨人とは大きさで圧倒的な開きがある。ファラがどれだけ超人でも、素手で倒せる相手ではない。

 この時アルバレスは、心の底からそう思っていた。


 ―――――――だが違った。


『あ? そういえばファラはどこに行った?』


 アルバレスが一瞬カメラから目を放している間に、ファラの姿が消えた。

 まさか逃げたか…………そう思ったアルバレスだったが、次の瞬間!


「ふんっ」


 メキッ!!


 何かがひしゃげる音がした。

 見よ! なんとファラはいつの間にか、ゲニスロトの右肩に背後から踵落としを食らわせていたのだ! どうやら、一瞬のスキをついて資格から背後を伝い、肩関節を狙ったようだ!


『――――――――――』


 痛みに身をよじる、巨人ゲニスロト。

 右肩の装甲は粉砕され、むき出しの素肌から血が噴き出す!

 しかし、ゲニスロトもやられっぱなしではない。その巨体を生かし、長いリーチのローキックをファラめがけて仕掛ける。

 ファラはなんとすさまじい跳躍でこれを回避! だが、これこそゲニスロトの思うつぼでもあった! 人間は空中で回避することは基本的にできない!


 DOKOKOKOKOKOKOKOKOKOKO


 まだ健在の左腕から、アームショット砲が狂ったように発射される!


「むんっ」


 ここでファラ、まさかのマッスルポーズ! まさか、死に際の姿勢はマッスルポーズにしようというあがきか…………いや、違う!


 QWANQWAQWANQWANQWAQWAN


『うっ! なんてことだ! 筋肉が弾丸を弾いてやがる!!』


 なんと、ファラが全身に力を込めただけで、すべての弾丸が身体に傷をつけることなく散っていったのだ! 恐るべき肉体! これには、アルバレスは目玉が飛び出さん限りに驚愕した。そして、一番驚いたのは、相手をしているゲニスロトだろう。


『―――――――――!!!』


 怒っているのか、はたまた恐れているのか……

 ゲニスロトはいったん後方に跳躍して距離をとると、思い切り身を屈めて、背中のガトリングを乱射した…………が、これもファラの身体に傷をつけることは叶わない! しかも――――


「とおっ」

『!!??』


 屈んだことで、むしろファラの姿を見失ってしまったことで、彼女の接近を許したばかりか、腹部に潜り込まれ、強烈なアッパーをに叩きこまれた。

 腹部を覆う装甲が大破し、あまりの衝撃に巨体が宙を舞って吹き飛んだ。


『――――!!』


 確かに、巨人ゲニスロトの怪力はすさまじい。左右の砲も、背中のガトリングも、生身の人間には過剰威力だろう。だが、巨体ゆえの弱点……死角の多さをファラは一瞬で見破ったのだ。

 内部にまでダメージがいき、血反吐を吐きながらも、ゲニスロトは止まらない。

 叩きつける拳は地面に亀裂を走らせ、振り回される蹴りは、周囲の木々や岩を、まるでおもちゃのように破砕し吹き飛ばした。


『おっかねぇな……あんなになっても動けるなんて、化け物だ……。しかしあの巨人……痛がってるのか? なんとなく、顔が苦しそうに見える…………』


 食い入るように戦闘の様子を見るアルバレスは、なぜかファラよりも、ゲニスロトの姿に、悲壮感を感じた。


(もしかしてあいつは……自分の意思じゃなくて、無理やりたたかわされているのか? だとしたら……カンパニーの奴ら、なんてことを…………!)


 ゲニスロトは止まらない。

 巨人の頭の中には「敵を殺せ 潰せ 砕け」としきりに信号が飛んでくる。ほかのことは一切考えられない。敵を殺した先に何があるのか? なぜ自分が戦っているのか? そんなことを考える余地すら、彼には与えられない。


 ゲニスロトは左腕を大きく振りかぶり、手刀をファラに向かって振り下ろす。

 ファラは避けない。巨人の手刀を、なんと両手で受け止めたのだ!


「ぬぅん」


 ファラの筋肉が山脈のように盛り上がる!

 そして、受け止めた腕を一気に振り上げると、約3tの巨体が―――宙に浮いた………!


 BAKOOOOO―M!!


 ゲニスロトは訳が分からぬまま、頭から地面に叩きつけられた。

 頭部装甲が粉砕され、毛の一本もない、のっぺりした巨人の頭が現れる。

 ゲニスロトはすでに満身創痍……先ほど投げられた衝撃で、左腕の関節も外れ、もはや立つことも精いっぱいな有様だ。


「この、なかなか頑張るね」

『は? 車?」


 そしてファラは……とどめを刺すべく走り出す。

 ゲニスロトは、最後に残った己の武装――――背中のガトリングを、効かないとわかっていながらも、猛烈な勢いで乱射する。


 DOKOKOKOKOKOKOKOKOKOKO


 銃弾の嵐が、周囲の地形を巻き込んで地面を耕す。

 そんな中、ファラは死をもたらす雨の中を悠々とかいくぐり、破損して動かせない右腕から一気に背中まで駆け上がる。

 そして――――――


「さようなら」


 ファラの鉄拳が、巨人ゲニスロトの延髄を撃ち抜いた!


『―――――――!!!』


 ゲニスロトは、声なき叫びを……せめて己が生きた証を示さんと、大きく空を見上げ……口のあたりから泡を吹いて目のめりに倒れた。


 『試作用改造巨人改良型』ゲニスロトは生命活動を停止。死んだのだ。



《『試作用改造巨人改良型』ゲニスロト代理の鼓動停止を確認しました。この度の戦闘の勝者はJ陣営のファラ代理です》


 アナウンスが、ファラの勝利を淡々と告げる。


『ま、マジで勝ちやがった…………!』


 一部始終を見ていたアルバレスは、開いた口がふさがらなかった。

 まさかファラが……素手であの巨人を倒すとは、誰が想像できただろうか?


「勝ったよ、アルバレス」

『あ、ああ……よく頑張ったな。しかも無傷だし……』

「このも、結構強かった」

『その、くるまってのは? なんだ?』

「警察さんから聞いた。くるまっていうのは、鉄でできてて、生きてなくても動くって」

『あー…………そういう。こいつ、車だと思われて倒されたのか。かわいそうにな…………』

「?」

『とにかく、車については、後でじっくり教えてやるよ』


 なにはともあれ、初戦を無傷の白星で飾ったファラ。

 銃弾をも弾く、彼女の筋肉の戦いは、まだ始まったばかりであった。



記事『今日のファラ代表』

・初戦で巨人を沈める。筋肉がすごかった。

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