インターバル
村での連戦の後、ファラは結局村に入ることを許可された。
ファラのことを野蛮な山賊と侮っていた村人たちは、素手で機甲兵を圧倒する姿を見て恐れをなしたのだろう。下手に彼女の機嫌を損ねると殺される……勝手にそんな勘違いを、彼らはしている。
「そろそろお昼」
『このところ戦い続きだったからな、休めるときに休んどけよ。何か近づいてきたら、俺も知らせてやるから』
ファラは中央広場でおもむろに焚火を起こした。
湖のときと同じく、燃え盛る炎で豪快に調理しようというのだろう。
『あいつ、いっつもあんなことして飯食ってるのか? やれやれ……この戦いで無事生き残ったら、かつ丼でも食わせてやるか』
「アルバレス。かつ丼って何」
『白米の上に、卵でとじた、衣で揚げた牛の肉をのっけて食うものだ。食わせてやるから楽しみにしとけ』
「うん、楽しみ」
ファラは安上がりで助かる……と思っていたが、よく考えればファラは常人の何杯も食べることをすぐに思い出した。
(やべえ、安請け合いしちまったが、金は大丈夫かな……? ボーナスが出れば何とかなるか?)
まあ、かつ丼の10杯くらいなら、破産するほどの値段にはなるまい。
アルバレスもまた、オペレーションルームで注文したハンバーグ定食を黙々と食べ始めた。
一方で、焚火を用意したファラは、湖のときと同じく、調理する者を串にさして、塩コショウだけして火にくべた。お昼のメニューはどうやら焼き肉のようで、道中で仕留めた魔獣の肉を何十本も日の周りに突き立っている。
『…………………』
匂いにつられたのか、村民たちがファラを遠巻きにして眺める。
中には、分かりやすく指をくわえて徐々に近づいて来る者もいる……
そして、ファラが焼けた肉を順番に頬張りはじめると―――――村人の何人かが、我を忘れて焚火に駆け寄ってきた。
「ヒャッハー! 肉だー!!!」
『またこのパターンかよ。こいつら……あの難民どもと違って農作物食い放題なのに、我慢できねぇのか?』
ソウ村の住人たちは、動物性たんぱく質に飢えている…………肉の喰いたさに、子供を拉致監禁して食べると噂されるほどだ。
いや、ソウ村だけではない。旧王国の支配地の住民たちは、カンパニーがこの世界に来てからというものの、ロクなものを食べられなかった。
村人たちは、ファラの目の前で、彼女が調理する肉に猛烈に齧り付き始める。ファラはやはりそれを黙ってみているだけ。道中で仕留めた獲物の肉を次々と出しては、ひたすら焼いていく。
「あなたもたべる?」
「あ? いいのか?」
怪我の治療をしているディアスにも、ファラは骨付き肉を差し出した。
焼いた肉は、そこまで美味しいものではなかったが、それでも空腹の腹には肉の重さが心地いい。
こうして、焚火の周りには大勢の村人が集まった。
ファラからもらった肉を各自で好きなだけ焼き、好きなように味付けして食べる。彼らは、本当は人の肉なんて食べたくない。こうして、普通の肉をみんなで囲んで食べる―――――なんという幸福だろう。
「あの………ファラさん? よかったら、これ、召し上がってください」
一人の村人の女性が、炊いた米をファラに差し出してきた。
「勝手に食べ始めてしまって、本当に申し訳ありません。ですが、久しぶりに天国を見た気分です。せめて、私たちにも少しはおもてなしをさせてください」
「ありがとう」
開催された肉祭りをモニターから眺めるアルバレス。
ハンバーグ定食を下げて一服しながら、彼は深くため息をついた。
『腹満たされずして、心もまた満たされず――――か。あいつはアマゾネスの女王だったんだっけな。支配者になったのも、何となく納得できる気がするぜ……』
ファラと違い、彼は一人だ。
この戦いが終わるまで、彼はこの豪華な檻の中から出ることはできない。
こんなところで、一人寂しくタバコを燻らせるよりも、あのキャンプファイアーの輪の中に入れたらどれだけ楽しいことか。
『そういえば…………俺はまだモニター越しにしか、あいつと話していないんだよな』
オペレーターに用意されたホテルの一等室が、この日は若干寂しく感じた。
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