ファラ ~古代が産んだ究極の筋肉~

南木

プロローグ

「蛮族軍団、突撃してきます!」

「第2防衛ライン、崩壊しました! ここ、最終防衛ラインまで来るのも時間の問題です!」


 前線の味方から次々にもたらされる悲報を聞きながらも、軍団長は溜息一つだけついて「そうか」とだけしか答えなかった。

 砦に、アマゾネスの大軍が迫っている。ここを突破されたら、彼女たちは街になだれ込み破壊の限りを尽くすことだろう。慌てる周囲の軍人たちを尻目に、軍団長はおもむろに立ち上がり、傍にいた魔術師に命令を下した。


「オペレーション・プラセル、起動せよ」

「直ちに」


 その命令を最後に、軍団長は周囲の魔術師たちと共に忽然と消えた。


 ――――その数分後、砦は謎の光の爆発に包まれた。

 その場にいたアマゾネスの戦士たちと、軍団兵たちは、砦もろとも消滅し、戦場には大きなクレーターだけ残った。


 帝国は、守られたのだ。




××××××××××××××××××××××××××××××



 ところ変わって、とある国の山岳地帯。

 p.w.カンパニーの侵攻に晒されているこの国は、産業の崩壊と食糧難により崩壊の危機に面していた。


「本当にこんなところにいるのか?」

「探すしかないだろう。あの占い師は胡散臭いが、予知を外したことは殆ど無い」


 ボロボロの鎧を着た兵士二人が、赤褐色の土を、疲れた足取りで踏みしめながら、何かを探して歩く。

 王国専属の占い師から、この地に王国の命運を決する人物がいると知らされた国王が、この兵士二人を派遣して探索させていたのだ。広大で不毛な山岳地帯で一人の人間を捜し歩くのは、まるで雲をつかむような話だ。

 が、そんな二人の目の前に、岩陰からのっそりと巨大な影が現れた。


『GUUUHHHHHAAAAA』


「げぇっ! ま、魔獣!?」

「お、お助けーーーっ!」


 出現したのは、二足歩行する巨大な黒い毛皮の猿の魔物だった。

 腕は筋肉が盛り上がっており、手の先からは爪が鋭く伸びている。


 猿の魔物は、久々の獲物を前に涎を垂らしながら、一気に詰め寄る! 哀れ二人の兵士は目的を果たせぬまま魔獣の餌食に―――――――と、その時だった!

 魔獣の爪が兵士に届く寸前に、ものすごい勢いで横に吹っ飛んでいった!


「な……なんだ……?」


 兵士が見上げると、そこには巨躯の女性が立っていた。

 褐色の肌に、無造作に伸びた金髪、全身筋肉の塊で、女性の大事なところのみ毛皮で適当に隠している。


 突然背後から襲われ、激怒した猿の魔獣だったが、先ほどの一撃ですでにいくつかの骨が折れているのか、ほとんど動けないでいる。

 そこに大女がつかつかと歩みより、その首をまるで水道の蛇口か何かのように捻った。哀れ魔獣は、首の骨を折られ絶命した。

 二人の兵士は、その光景を黙ってみてるほかなかった…………。



 突然王国に現れた、この謎の大女は、自らをアマゾネス族のリーダー、ファラと名乗った。なんでも、元居た世界で謎の爆発に巻き込まれ、気が付いたらこの世界に居たそうな。

 救世主が現れたと聞いた国王は、てっきりイケメンか美少女の戦士が来るものだと思っていたらしく、初めて彼女を見た際、その容貌に驚愕し、そして失望した。

 なんという野蛮な風貌…………顔の彫は深く、巨乳ではあるがセクシーさの欠片もない全身筋肉の塊。その上、ファラは仕留めた猿の魔獣を生で食い尽してしまった上に、一度の食事で国の食料の備蓄を大量に消費してしまった。


「人助けだと思って、我々に力を貸してほしい」


 たまりかねた国王は、かねてより魔族の王「プリンセス・フーダニット」から参戦要求を受けていたことをいいことに、ファラを国の代表として出場させることにした。


「もし戦いに勝って帰ってきたら、好きなだけ食べ物を食べさせてやろう」


 この魅力的な提案に、ファラは二つの返事で了承。彼女自身もともと、一宿一飯の恩義には報いるつもりだったため、特に細かい説明も聞かないまま、過酷な戦場へと足を踏み入れることとなった。


 密林のアマゾネス女王ファラ

 彼女の死闘が、今幕を開ける。

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