19試合目:死闘! 聖域ナロッシュ 前編
巨大な血の池スライム――――ドュイの相手を少女……エルに任せたファラたちは、四大魔法騎士5機の力でドュイの上方を飛び越え、ついでに捕らえようとする血の触手を払いのけた。
ハーフトラックが着陸したのは、鬱蒼と生い茂る森の中に点在する石造りの遺跡群。ここが「伝説が始まってしまった聖域」と呼ばれるナロッシュ。元王国が異世界召喚の儀式を行った末に、カンパニーに扉を開いてしまった場所だ。
「こうして直にファラと話すのも、なんだか感慨深けぇものがあるな」
「アルバレス。意外と小さい」
「うるせぇよ。お前が逆にデカすぎるんだよ」
相変わらずのやり取りだったが、アルバレスはどこかうれしそうだった。
ファラを始めてみた時、あれだけ嫌悪感を現していた彼が……藪蚊と呼ばれ、人々に忌み嫌われていた彼が、ここまで変わってしまったのは驚きである。
「感動の再会ね。さて、亡命希望者代表のリューリッカ技師はどの子かしら」
「俺だ」
いちゃつき始めた二人の横で、スミトは赤髪の少年――――リューリッカ技師と対話する。もともと、彼らの亡命に一口噛んでいるのはスミトの方だったのだが、彼らもまた顔を合わせるのは今回が初めてとなる。
「多少予定は狂ってしまったけど、約束通りあなたたちは私たちが保護しましょう」
「恩に着る。もうカンパニーで働くのはたくさんだ。頼りにしてるぜ『大図書館』」
「こちらこそよろしく。じゃあ、早速最後の作戦に移りましょう」
こうしてスミトは、森の中を慎重に進みながら、自分たちの正体と目的について語った。
「私たち「大図書館」は、カンパニーと同じようにこことは別の世界に本拠地を置く組織なの。あっちと違って、私たちは一応国家機関なんだけど、それでもだいぶ自由にやらせてもらっているわ」
スミトが所属する「大図書館」は、その名の通り書籍をはじめとする知識の収集と貯蔵を目的としており、設立から現在に至るまでの1000年以上の間、自国のみならず世界各地の知識をかき集めていた。
彼らの知識収拾の情熱と執念はすさまじく、敵国の王室秘史から個人の日記に至るまで、本という本はすべて収蔵し、原本を接収した相手には写本で返すなど、なかなかとんでもないことをしている。
そんな彼ら大図書館が、ふとしたきっかけでカンパニーと接触することになると、事態は急変する。
「知っているかしら。カンパニーには現在でも7大失策と言われる、盛大にミスった事例があるの。7つのうち1つを除いて公表されていないけど、その7つのうちの一つこそ、私たち大図書館との遭遇ってわけ。カンパニーにしてみれば、私たちはまさしく害虫のような存在でしょうね」
組織の規模は、当然のことながらカンパニーの方が圧倒的に上で、しかも出会った当時の大図書館は、世界の覇権を握る巨大国家に所属しているとはいえ、国の一機関に過ぎなかった。
カンパニーは油断していた。今までやってきたように、何も知らない土人たちの世界を、自分たちの支社とすべく、積極的な介入を行った…………のだが、大図書館とその所属国は、カンパニーの異世界転移技術をあっという間に窃盗してしまい、こともあろうか進出予定の支社を乗っ取る暴挙に出た。
それだけではとどまらず、彼らは奪った転移技術を利用して、別の支社がある世界に攻撃を仕掛け、さらなる技術窃盗、知識収拾を繰り返し、カンパニーの怒りを買う。
カンパニーは大図書館に反撃を企てるも、カンパニーの意思決定の複雑さが仇となり、ベトナム戦争さながらの泥沼化に陥り、終わってみれば多くの最新技術が大図書館に渡ってしまった。
「そんなわけで、カンパニーの方から私たちにちょっかい掛けることはなくなったんだけど、あいつらは私たちが関わったと知れば、全力を挙げてつぶしに来るでしょうね」
「なんだかなぁ……カンパニーは確かにやりすぎだが、お前さんらも大概だな」
「あら、これでも私たちは、知識さえもらえれば、敵対する気はないわよ」
そしてこの言い草である。
彼らはまさしく、正真正銘の知識泥棒。
カンパニーは異世界を股にかけるので、労働法や独占禁止法に縛られることなく好き勝手に商売ができるが、大図書館はそれを逆手にとって、彼らの違法行為の上から甘い汁だけを吸い取っていく。これを外道と言わずして何と言おう。
「だからお前は……いや、俺たちは命を狙われたわけか」
「そういうこと。どうやら外部スポンサーのかなり上の方に、細かいことに気が付く人がいたみたいね」
「うーむ、泥棒の片棒を担ぐようでいい気はしないが、協力すると決めたからには最後まで付き合おうではないか」
「そうね。私たちの祖国に危害を加えるつもりがなければ」
「いいじゃねぇか! 義賊みてぇなもんだろ! カンパニーに一泡吹かせてやろうぜ!」
「そうだよそうだよ! なんならうちの国も大図書館と契約してみちゃう?」
「でも、酷いことしたら僕たちが黙っていないからねー!」
四大魔法騎士たちの反応は様々だったが、彼らも当面は協力してくれるようだ。最も、下手なことをすれば彼らは見限ってしまうかもしれないので、慎重にならざるを得ない。あくまで彼らを、元の世界に戻す。そうしなければ、拉致同然で連れてこられた彼らは、元の世界に戻されることなく利用されてしまうだろう。
「さあ、ついたわ。ここが私たちのゴール。異世界転移の魔法陣」
枝分かれした道をいくつも超えた先、木々が開けた場所にある巨大な円形の遺跡が姿を現した。広場の直径はおよそ20メートル。そして、中心部には石畳に刻み込まれた直径15メートルの魔法陣がある。
魔法陣はつい最近書かれたようで、古い魔方陣に上書きするように彫られているのが分かる。
「社長戦争が始まる前に、私がこっそり新しく彫っておいたの。ここから、まずリューリッカたちを別の世界に逃がすわ」
「それはいいんだが、カンパニーの奴らが異世界転移して追ってこねぇか心配だな」
「すでに向こうに別の人員が待機しているわ。彼らが無事なら大丈夫よ」
研究所を脱走した少年少女技術者たちは、ようやっと安全な世界に逃げられる。
そう思っていた矢先のことだった。
「話は聞かせてもらった! 君たちを生かして返すわけにはいかないな!」
上空から声が聞こえた矢先に…………魔方陣に近づいたスミトの背中を、ビームが撃ち抜いた。
スミトは声を上げる間もなく、体を上下真っ二つにされ、即死してしまった。
「な…………!?」
突然の出来事に、アルバレスたちは言葉を失った。
そして、代わりに魔方陣の中心に姿を見せたのは…………体長10メートル近くある、赤錆びた色の人型兵器だ。
手に持つ光線剣をはじめ、バズーカや機関銃、さらに装甲盾も装備した、完全戦闘用の機体である。
「このシャムロを出し抜こうとは、甘く見られたものだな。だが結局、あのオペレータールームで死ぬか、ここで死ぬかだけの違いだったわけだ」
「ってことは、まさか貴様が!」
「僕は勘のいい者があまり好きではないのだよ」
機体の操縦者シャムロは、背負っていた遠距離狙撃用のバズーカを構えた。
宇宙空間でも使用できるこのバズーカは、10数キロ先の標的にも届く能力を持つが、ふつうはそこまでの距離を狙撃することは不可能だ。そう、シャムロ以外は……
「…………まさか俺たちを狙ったのが♦陣営とはな。予想外だったぜ」
「ふっ、それはどうかな?」
「何? どういうことだ?」
「チャンスは最大限に生かす、それが僕の主義だからな!」
アルバレスとシャムロが問答を繰り広げているさなか、ファラがすっとアルバレスの前に出た。
《両者、合意しますか》
「あなたは、仲間を殺した。許さない」
「生身で僕の前に立つか。では、筋肉量の違いが、戦力の決定的差でないということを教えてやる!」
《『石器時代の勇者』ファラ代理 及び 『紅の流星』シャムロ代理、戦闘合意が交わされました。交戦を開始します》
目の前で仲間を殺された怒りで、ファラの筋肉が盛り上がる。
対するシャムロも、一切のスキを見せず光線剣を構えた。
するとその時、ファラのベルに通信が入った。
《ファラ、驚かずに聞きなさい》
聴こえてきたのは、目の前で死んだはずのスミトの声。ファラは一瞬目を丸くしたが、驚くなという言葉に素直に従い、取り乱さずに済んだ。
《なんとしてでも、あの機体の動きを止めなさい。かなりの強敵だけど、今までロボットと戦ってきたあなたなら、きっと攻略法は自ずと思い浮かぶはずよ》
ファラは敵を見定めたまま、ゆっくりと頷いた。
「それにしてもまさか、君と戦うことになるとは予想外だった。足止めのために、あの悍ましいスライムを誘導したはずなのだがな!」
そう言ってシャムロはブースターを吹かし、ファラを押しつぶそうと迫る。
エルは足止めされ、スミトが倒れた今、残りのメンバーの運命はファラの双肩にかかっていた。
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