前日譚1:ファラさ都会へいぐだ

 国王から指定された場所に向かったファラが見たのは、見たこともない灰色の岩のような立方体(※ビルです)がいくつも立ち並ぶ、不思議な光景だった。

 そこには大勢の人であふれかえっていて、その服装には統一感が全くない。


 ファラはもう一度、もらった紙に目を通す。

 どうやら、初めに行くべき場所は、中心部にあるようだ。


 故郷の世界で敵対した帝国を、遥かに上回ると思われる文明度……

 しかし、人々の表情はあまり明るくない。皆、どこか疲れ切っているように見え、生きている事の意味すらも見失っているようだ。


「お、おい……そこの怪しいやつ!」


 ふと、背後からファラへ向けられたと思われる声が聞こえた。

 振り返ってみると、変わった形の黒い鎧(実際は防刃ブレザー)を装備している一団が、ファラを包囲しようとしていた。


「さては貴様、賊だな……! その野蛮な恰好、そしてその顔……! 逮捕する!」


 どうやら彼らは警官のようで、ファラの背格好から、不審人物だとみなしたようだ。


「賊…………? 私は、ここの人に呼ばれたの。賊じゃない」

「よ、呼ばれた? お前如きが……代理ヒーローだとぉ…………」


 警官たちはバカにしたような口調でまくしたてるものの、ファラがあまりにも大きいので、かなり逃げ腰になってしまっている。


「ちょうどよかった。この場所がどこか教えてほしい」

「げっ!? こ、この紙は……! まさか本当に…………い、いやさては何者からか盗んだな!」

「盗んではいない。国王さんからもらった」

「ええい! だ、だまれだまれ! この賊をひっとらえるぞ!」


 リーダーの命令で、おっかなびっくりながらも10人の警官が一斉に組み付いた……が、10人がかりでもファラはびくともしなかった。


「ふんっ」

『ヴぁあああああぁぁぁぁぁ!?』


 逆に、ファラがまるで独楽のように一回転すると、警官たちはまるで犬がブルブルして弾いた水滴のごとく、四方八方に吹っ飛ばされてしまった。



「おい、これは何の騒ぎだ」


 すると、騒ぎを聞いて、身なりがやや立派な警官が部下たちと共に駆けつけてきた。


「た、隊長! そ、その賊が……盗んだ許可証で代理ヒーローを自称しておりまして……!」

「何、本当か? よしお前、許可証を見せろ」


 ファラは再び、許可証を見せた。

 すると、隊長と呼ばれた警官は顔を真っ青にして驚いた。


「バカモン!! 許可証をよく見ろ! この者のサイズの手形が押してあるではないか! すまない、部下たちが失礼なことをした。お詫びと言っては何だが、我らが司令部まで案内しよう」


 ひと悶着あったものの、ようやくファラは案内人を得ることができた。


「では、すまないがこれに乗ってくれ。君では窮屈かもしれないが……」


 隊長は、屋根なしのジープに乗るよう、ファラに勧めた。


「この生き物は?」

「生き物!? い、いや……これは生き物じゃなくて「車」だ。今まで機械を見たことはないのか?」

「きかい……? 私食べたことない」

「俺も食べたことないけどさ…………と、とにかくこいつは、鉄やらなんやらで出来ていて、命はないが動くことができる。落ちないようにつかまっとけよ」


 ファラを乗せたジープは、エンジンの唸りと排ガスを盛大にまき散らし、発進した。


「これ……動く!」

「君の住んでいるところはよほどいなか……ゲフンゲフン、自然が豊かなところなのだな。これがあれば、遠いところでも疲れることなくひとっ走りできる。便利だろう?」


 初めて乗る「車」に、ファラは驚きっぱなしだった。

 元の世界には、馬車があるということは知っているが、これは牽引する動物がいなくても動くのだ。


「便利」

「ああ、便利だとも。ただ、使うのは難しいから、勝手に動かしちゃだめだぜ」


 こくんと頷くファラ。

 圧倒的なスピードで流れていく景色に、彼女は未知の世界への期待を膨らませていった。

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