18試合目:誰が為の戦い
社長戦争の規模は激化の一途をたどり、各地で家を焼け出された住民たちが、助けを求めてさまよっていた。
そして、彼らを助けていたのは、ほかならぬJ陣営の面々だった。
友軍のエースが必死で戦線を押し上げている中、ファラをはじめとするグループは、あえて地元住民たちの救出を優先した。なにしろ、他陣営では無辜の民を虐殺し、あまつさえ取り込んで力にしようとする外道が後を絶たない。それに、アルファ・ウォーリアーズのような、遊びで一般人に銃を向ける連中までいる始末。
この行動は一定の功を奏し、戦場での蛮行に眉を顰めるような潔癖なスポンサーたちが、若干J陣営に好意的になりつつある。情けは人の為ならず……とはよく言ったものである。
「ありがとう。これでみんなが助かる」
「お礼を言うのはこちらの方ですわ。よく彼らを導いてくださいました」
ファラは、同じJ陣営の主にサポートを行っている、ヴァイスシルト・リリア・ヴァレンティア女王と会談し、大勢の難民の保護を頼んだ。ヴァイスシルト王女――――通称ヴァイス王女は、この情勢にもかかわらずファラの言葉を聞き届け、友好国の戦闘艦を手配して一時的な避難シェルターとして開放してくれた。決して余裕がある事情ではないというのに、ヴァイス王女は努めて優雅にふるまっている。
「いつの時代も……戦争の犠牲になるのは、力のない民たちです。ですが、彼らがいなければ、王である私たちの存在も、意味なきもの。上に立つ者として、彼らを守って見せますわ」
ヴァイスとファラ、性質は違えども、上に立つ者として持つべき心得は同じだ。
もうすぐで戦争は終わる……それまで二人は、自分たち以上の命を背負うことになる。
さて、難民の確保を行っているのは、実はJ陣営だけではない。
♦陣営の一部もまた、戦場で一般人が巻き込まれるのを嫌うものが多かった。今はもう敗退してしまったヴェリテをはじめ、モナリザ・アライに近しい人格者たちもまた、各地の避難民たちを自分たちの領域にかくまっていたのだ。
「みなさん、大丈夫です。神は私たちを見捨てません……」
白い鎧を着た長身の男性が、テンプレ墓場で疲労困憊になっている難民たちを、必死に誘導していた。
二本の角が生えたような白いグレートヘルムをかぶり、サーコートを羽織っている彼は、♦陣営の代理の一人、ルカという。現在彼は、襲撃されている味方陣地からかくまっていた人々を安全な場所に逃がすべく、北へ北へ向かっていた。
(私はどうなってもいい。彼らの命が優先だ)
難攻不落と思われた、♦陣営たちの拠点は、陣営の主力たちが相次いで脱落したことを知られ、乾坤一擲を狙った♣陣営の集中攻撃を受けた。
次々と降り注ぐミサイルと、荒々しく突入するカンパニーの兵士により、戦線は混乱し、安全と言えなくなった。そこで、拠点の防衛をしていたルカは、一つの賭けに出た。
そう、避難民たちを、J陣営の拠点に預けるというのだ。
当然彼らの本拠地に乗り込むからには、ルカはただでは済まないだろう。けれども、彼らの命が助かるのであれば安いものだ。
そんなとき、ルカは墓地の遠くからこちらに向かってくる集団を発見した。
巨大なロボット兵器が5機、それにトラック……ルカは彼らを♣陣営の集団だと判断した。
「みなさん、此処で待っていてください! 私が、彼らを排除いたします!」
ルカが、柔らかい地面を蹴って飛ぶ。その跳躍力は人間の物ではない彼もまた……ドーパントと呼ばれる、あのリュウジとおなじ機械生命体なのだ。
一方で、難民たちを預けたファラたちは、四大魔法騎士と技術者たちだけを連れて、テンプレ墓地に続く道を南下していく。難民を預けた際、セーフもカプコン機を持って戦場から離脱している。彼とは意外にも長い付き合いだった。
「う~、不気味だねここ! お化けとか出そう!」
「ポーラ……ロボットが幽霊怖がってどうするよ」
「まあ、ポーラちゃんは光魔法だから、その当り敏感なのでしょうね」
ポーラの言う通り、墓石が並ぶ広大な墓地は、生命が全く感じられない土地あった。ここまでくると、幽霊の一体や二体いてもよさそうなものだが、そんな魂の気配すら感じられないのが、却って気味が悪い。
そんな彼らの前に、一体の人影が、立ちふさがるようにして飛び出してきた。
墓石を崩さぬように飛びながら着地したのは、長身で中性的な男性の戦士だった。
「待たれよ! この先には、私が行かせません!」
「んぁっ! なんだお前!?」
目の前に立ちふさがるルカに、真っ先に反応したのは、ハーフトラックを運転していた赤髪の少年だった。
「君たち、狙いはこの先の一般市民でしょう! そうはさせません、彼らは私が命を懸けても守ります」
「難民?」
「待ちなさい、何か勘違いしていませんか?」
双方の間に入ったのは、四大魔法騎士のネロだ。
彼女は目の前の人間が何か重大なものを抱えていると、すぐに悟ったのだ。
《両者、合意しますか》
「私たちもまた、南の方に彼ら技術者を送り届けるのです。この先にも避難民がいるのであれば、私たちが一時的に預かりますわ」
「え………ま、まさかあなた方は♣陣営ではなく……J陣営だというのですか?」
ルカは「しまった」という顔をしたが、もう遅い。
《『石器時代の勇者』ファラ代理 及び 『バッファロードーパント』ルカ代理、戦闘合意が交わされました。交戦を開始します》
無情にも、アナウンスが開戦を告げた。こうなってしまえば、もはや二人は戦うほかない。
「あなたは……リュウジとおなじ?」
「そうか……貴女が彼を倒したのですね。私の兄弟たちは、皆血気盛んでしたからね…………迷惑を掛けたかもしれません」
「でも、あなたは人間を守るの?」
「人間かそうじゃないかなんて、私にとっては関係ないことです。私たちドーパントだって、平和な世界のために役に立てると、信じていますから」
今まで数多くの敵と戦ってきたファラだったが、此処まで戦いにくい敵があっただろうか。ファラもルカも、構えてはいるがなかなか攻撃に移らない。
「モナリザ・アライさんは、約束してくださいました。この戦いに勝ったら、この地に「
ルカの目が鋭く光り、足が地面を蹴った。
相互の距離は約10メートル。その距離を、ルカは8歩でファラの目の前に到達、対するファラも構えていた拳に力を籠め、正面から繰り出した。
だがルカは一瞬で身を屈めると、地面すれすれの態勢でサマーソルトキックを放つ。ファラはそれを回避、ルカは更に手の指で身体を支え、強烈な後ろ足蹴りをしてきた。
DOM!!
ルカの後ろ蹴りをファラが腕で防御した瞬間、乾いた音が鳴り、ルカの身体が吹っ飛んだ。
「驚きました、風の障壁とは」
相手が筋肉一辺倒だと思っていたルカは、目を丸くして驚いた。
筋肉の「気」が風の障壁を生み出して、突風の反動を生み出したのだ。まさか術まで使えるとは思ってもいなかったのだ。どうやら、さっそく四大魔法騎士から受け取った力が役に立ったようだ。
「はぁっ」
ファラが、拳を地面に叩きつけると、叩きつけたところから地面が3方向に猛烈な勢いで地割れが走り、亀裂が入った地面から炎が噴火した。筋肉の「気」が魔法と組み合わさり、大地すらもマッスルしてしまったようだ。
「ならば私も!」
ルカは、その手に巨大な
「なんつーレベルの高い勝負だよ……」
人知を超えた筋肉を持つファラと、ドーパントの中でも特に近接戦闘に長けたルカの殴り合いは、常人には理解できない域に達している。
もちろん、四大魔法騎士と闘ったのを見た時から、ファラの強さが凄まじいことは知っていたが、対する敵も強者ぞろいだった。
「とうっ」
「はあぁっ!」
ルカの戦斧が風車のように回り、ファラの身体を断とうとするも、ファラの拳が真正面からぶつかり、斧の方があっという間に砕け散った。武器を失ったルカは、いったん一歩引いたが、ファラの掌が赤くなるのを見て慌てて横に飛びのく。
筋肉の炎が噴火し、ルカの顔を掠める。これぞまさに、筋肉と大自然の理の融合。もともと大自然の中で生きてきたファラにとって、四大魔法の力はかなり相性が良かったのかもしれない。
「ならば………」
ルカは更に3歩飛びのくと、両足で大地に亀裂が入るほど強く踏みしめた。
それでもファラの動きは止まらない。右腕の筋肉が盛り上がり、思い切りルカに叩きつけられる。ルカはそれを――――回避しなかった!
BAGOOOOOM!!
隕石が衝突したようなすさまじい爆発!
しかし、ルカは耐えた! 服や皮膚の下から装甲が覗き、体の節々からバチバチと電流が漏れている。実際、耐久力はほぼ限界に近い。
しかし、彼はドーパント。致命傷以外はかすり傷だ!
「ああああぁぁぁぁぁぁっ!!」
そしてとうとう、ルカが体内で溜めにためたエネルギがファラの至近距離で爆発した。
GON!!
「くっ」
強靭な角が付いた兜を纏った強烈な頭突き。ファラの身体が猛烈に押し戻され、かろうじて踏ん張った足が、大地に轍を刻む。しかし間髪入れずさらに頭突き。ファラは腕をクロスして防御するも、さらに後ろへ薙ぎ払われる。
バッファローのサーバント、ルカの面目躍如。猛牛のごとき突進攻撃は、新幹線が最高速度でぶつかる以上の破壊力があった。むしろファラは、よくぞ耐えていると感心できる。
3度目の突進。軋みを上げる全身をもって、ファラを粉砕すべく二本の角が迫る。
「ぬぅん!」
ファラも同時に突進し、ルカの角を掴んだ。
「ふぅ……」
「ぬぐぐ……」
見よ、これぞ筋肉の闘牛! 赤い布は必要ない。筋肉は、すべてを正面から受け止める。それは、激情の暴れ牛ですら例外ではない。
ルカが、首を振り上げ、ファラの腕をはね上げようとした。しかし、一瞬だけファラの方が早く角から手を放した。
ルカの角が空を切る。そして、身体が前のめりになったところを――――
「ぬぅん!」
BTHOOOOOOM!!
ファラの光魔法を纏った掌底が炸裂!
筋肉の剛掌波が、ルカの装甲を中心部からぶち破った!
「か――――はっ!」
高層ビルすら壊しかねない一撃を受けて、ルカはとうとうその場に膝をつき、前のめりに倒れた。
《『バッファロードーパント』ルカ代理のベル喪失を確認しました。この度の戦闘の勝者はJ陣営のファラ代理です》
「わ……私の、まけ…………か」
ルカの身体が苦しそうに震え、回路がショートし始めているのか、生体電流がバチバチとあふれている。ドーパント特有の超耐久があったからこそ、あれだけの攻撃に直撃してもまだ生きていたのだが、その再生力にも底が見え始めている。
ところが、意外な人物が、彼に救いの手を差し伸べた。
「ファラ、今のうちにこいつが守っていた避難民の確保を頼む! こいつは………俺が助ける!」
赤髪の少年が、ハーフトラックから何人かの技術者たちと共に駆け寄ってきた。
ファラはルカの介抱を少年に任せ、自身は四大魔法騎士たちを連れて難民たちの下に向かった。
「君は―――――」
「お前のような奴に、俺はずっと会いたかったんだ。力にならせてくれ」
そう言って、少年はほかの技術者たちと協力して、彼の身体をハーフトラックへと運び込んだ。
「すまない……。ただ、私のことよりも…………避難民たちを」
一方で、難民を助けに向かうはずのファラの方では、件の難民たちが大勢こちらの方に走ってくるのが見えた。
「見ろよ、ただ事じゃないぜ!」
フローガの言う通り、誰もかれもが、恐怖で顔を引き攣らせ、息を切らせながら…………まるで何かに追われたかのように逃げてきている。
「に、逃げろ! 赤い津波に飲み込まれるぞ!」
パニックになりつつ叫ぶ人々。はたして彼らが見たものは――――
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