インターバル 3
「あっははは! 負けちゃったね!」
ほかの魔法騎士たちに魔力を分けてもらったポースは、あっという間に立ち直った。アネモス以上に精神年齢が幼いこの機体は、再会した4機を見るなり、じゃれついてきた。
「みんな、みんな! やっと会えたね!」
「それはいいんだけどよ、俺はお前のこと知らないぜ?」
「私も……なんだか新しい家族が増えたみたい」
「ごめんね。僕は最近やっと作られたばかりだったから、会いに行く前に無理やりここに連れて来られちゃったの」
どうも、最近になってようやく技術が追い付いて、彼らの生みの親は四期にサプライズ発表するために存在を伏せていたようなのだ。人に優しく、悪に厳しい光魔法は、まさに正義にふさわしい機体になる予定だったのだろう。
「だからね! 私も、仲間に入れて! ね、いいでしょ!」
「ええ、私からもお願いするわ。これからは5人で一緒に戦いましょう」
「わーい! ネロ大好き!」
「あれ、本当に兵器なのか?」
「俺に聞かれてもな……」
まるで家族のようにじゃれあう5機だったが、それを見る人間たちからしてみれば、6メートルもの巨体がガションガションじゃれあっているのだから、恐ろしいことこの上ない。あと、顔がないせいで表情がわからないのも気になる。
「そういえばファラ」
「どうしたの?」
消耗したファラも、少年からもらった特製プロテインを飲んでいたが、セーフが一つ気になることがあり、ファラに尋ねた。
「さっき言ってた、お前の親友のポーラって? あのロボットと似てるのか?」
「似てる……かもしれない。あの人は「テイコク」の人だったけど、小さいころから仲が良かった。あの子は自分のことを、一番高いところにある星の生まれ変わりって言ってた。だから「
「しみじみしているとこ悪いが、結構痛々しいな……」
どうも、ポーラというのはファラと仲が良かった敵国の女の子のことらしい。ちなみにその女の子は、どうも占星術を独自に学ぶために、ファラが住むジャングルに単身乗り込んで、意気投合したらしい。
すると、その話を興味津々に聞いていたのが、ほかならぬポースだった。
「
「違うと思うぞ」
なにやらポーラという単語が、ポースの中二――いや、乙女心の琴線に触れたらしい。冷静にツッコミを入れるギーだったが、ポースは意に介さない。
「じゃあ今日から僕はポーラ! 遍く星空の中心! 極北星のポーラは正義のために戦うよ!」
そう言って、びしっと決めポーズをするポース改めポーラ。
いったいどこの世界に、自らの名前をノリで変更する兵器があるというのだろうか。
「私も、そっちの方がいいと思う」
「でしょ! でしょ! さすが筋肉は、話がわかるっ!」
ファラとしては、単純に言語の関係でポースが発音しにくいだけなのだが、ポーラはすっかり新しい名前が気に入ってしまったようだ。
「ねえねえ! みんなもこれからは僕のこと、ポーラって呼んで!」
「もう、しょうがないわねぇ。わかったわ、ポーラ」
「ま、顔合わせしたのは今日が初めてだしね! よろしくポーラ!」
「まあ、好きにするといいんじゃないかポーラ」
「研究所にはちゃんと言っとけよ、ポーラ」
四大魔法騎士たちも、特にこだわりがなかったからなのか、自然に彼女の改名を受け入れたようだ。
こうして、ファラ一向に新たに四大魔法騎士の「5機目」が加わった。何かおかしい気もするが、きっと気のせいだろう。
「そういえばさ、ポーラがさっき戦った時、私たちの魔力を勝手に吸収したよね」
「え! あ、ごめん。新しい力が欲しいなっておもって、つい」
「それは構わない。私はな、ポーラの魔法がファラの筋肉と同じ要素だとするのなら、ファラにもまた同じことができるのではと思ってな」
「どういうことだ?」
ここで、四大魔法騎士の知恵袋、ギーが意外な提案をした。
「ファラの筋肉に、我らの属性魔法を分け与えることができるかもしれない」
「なるほど、それはいい考えね」
「あの筋肉に属性が加わわれば、まさに鬼に金棒だな!」
この提案を受けて、さっそく四大魔法騎士たちは、ファラを中心に陣取り、魔力を分割してファラに与えた。
ポーラが、魔力供給がスムーズにいくように特別な光魔法を流し、それに四属性を同調させることで、筋肉に活力を与えるのだ。
「元気が出てきた」
こうして、ファラの筋肉は四大魔法騎士の力を得て、さらなる高みへと昇った。
ポージングを決めれば、その後光に虹が輝き、さらには拳が炎を、風を、氷を生み出し、大地を盛り上げて砕く。
さらには、筋肉が光を放ち、不死者への浄化能力をも身に着けた。
大規模な筋肉のアップグレード。これには、セーフと少年も、ただただ神々しい光を見守るだけだった。
「もう全部あいつ一人でいいんじゃないか?」
「まったくだ」
××××××××××××××××××××××××××××××
同時刻。J陣営に割り当てられた、オペレーター専用宿舎にて。
「なんとなく嫌な予感はしてたんだ、納得はしてねぇけどよ」
「話が早くて助かるわ。忘れ物はないかしら?」
「もともと俺は、カメラと筆記用具くらいしか持ってきてねぇ。あとは金さえあれば何とかなる」
「甘いものの補給もばっちりだよ!」
ファラのオペレーターだったアルバレスとスミトは、何やら帰り支度を始めている。一応、オペレーターの途中退室は認められているが、それにしては準備が慎重かつ厳重だった。
アルバレスは、最低限持ってきたものと貴重品だけ、スミトはカンパニー支給のノートパソコンをわきに抱え、少女はシエラザードの身体をくるんだ布と槍を背負う。
「まったく、早めに気が付いてよかったわ。さ、ファラに行きましょう」
「やれやれ、こんな時でなければ嬉しかったんだがな」
荷造りを終えた3人は、そそくさと逃げるように部屋を後にした。
部屋に残っているのは、アルバレス――――の形をした精巧な人形と、スミト――――の形をした人形だけ。
30分後、彼らがいた部屋にどこからか砲弾が撃ち込まれ、爆発した。
両隣の部屋は、すでに対象の代理が脱落してオペレーターがおらず、人的な被害はなかったものの、直撃した部屋の焼け跡からは人間二人の遺体が見つかった。
どこかの陣営がオペレーターを直接攻撃した……
その情報が流れると、J陣営を含む各陣営の社長候補は、血眼になって犯人の捜索を開始した。
不思議なことに、どの社長候補にもそのような命令を下した覚えはない。
しかし、このままではほかの陣営に罪を擦り付けられかねない。
三日目昼。ちょうど、大会延長のアナウンスが流れたばかりであった。
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