後日談:後の祭り
王国新聞見出し
〇月〇日
・怪物、封印の地を脱出
〇月〇日
・魔族の蝙蝠女、北海岸に上陸
〇月〇日
・悪霊、旧魔領に出現。討伐軍が派遣さる
〇月〇日
・食人鬼、カンパニー社長戦争に名乗
〇月〇日
・魔王位簒奪者、社長戦争で圧倒的劣勢
〇月〇日
・悪辣魔王、ラジオで独裁演説。恐怖のため市民の抵抗は無し
〇月〇日
・僭主、他陣営を逆転しつつあり
〇月〇日
・フーダニット、プレゼンへ出席。勢い増すも社長就任は不可能か
〇月〇日
・姫君、明朝王国へ帰還
〇月〇日
・プリンセス・フーダニット様大勝利! 希望の未来へレディ・ゴー!!
「元々こういうことをしていた俺が言うのもなんだが、反吐が出るな……」
「同感ね。こういうところから信用は失われるものよ」
「それに踊らされる庶民も庶民だがな」
とある地方都市にある大衆酒場。
夕暮れ時で、仕事を終えた大人たちがアルコールに癒しを求めて足を運ぶ中、店の一角にスミトとアルバレスとセーフの3人が集まって、安酒を飲み交わしていた。
3人が集う机には、今日にいたるまでの王国新聞の記事があり、その言論の変節ぶりにあきれ返っている。
「あなたは別の世界の帝国に移住するんですって?」
「なに、ちょっとした仕事の後のバカンスだ。いずれまたこの世界に戻ってくるさ」
社長戦争が終わって1週間が経過した。
アルバレスは社長戦争についての記事を週刊誌に投稿したものの、ここ数日前まではカンパニーの怒りを恐れた各国から、ほとんどの記事が検閲の末出版禁止となった。
ところが、フーダニットが満を持して王国に帰還すると、まるで手の平を返すように各紙がアルバレスの記事を載せたいと申し出てきた。その態度が、かえって彼の機嫌を損ねたのは言うまでもない。
そんなアルバレスは、その反骨精神が買われたのか、J陣営の代理の伝手で一時的に別世界に移住することとなった。
全てが落ち着くまで、彼は新天地で仕事をするんだとか。
「で、お前さんは軍人を続けるのか」
「まあな。俺はそれ以外の生き方を知らん。俺にとっては軍人こそが一番「安全」な職場さ」
そう言ってたばこの煙をふーっと吹かすセーフ。
彼はカンパニーから利敵行為を行ったことで解雇となったが、幸いソリティア・ウィードが事実上失脚したため、処分されることはなかった。退職金は得られなかったものの、そのかわり改造カプコン機は今もなお彼のもとにある。
今後はフーダニットの下で、空軍兵士として堅実に仕事をこなしていくつもりだ。
「そういうお嬢さんは、なんでこの世界に残っている?」
「休暇をどう過ごそうが私の勝手でしょうに」
大図書館のエージェント、スミトはすべての任務を終え、想定以上の結果を持って帰った。彼女はその労をねぎらわれ、数年にも及ぶ有給休暇を獲得した。
そんなスミトがまだこの世界に残っているのも、ひょっとしたら彼女なりに、この世界の行く末をなるべく見てみたいと思っているからだろう。
任務のためとはいえ、数年にわたって滞在したこの世界に、愛着がわいたのかもしれない。
「ま、何はともあれ、カンパニーはこの世界から撤退、そしてフーダニット姫がこの世界の頂点に君臨することになった」
「喜べるうちに喜んでおきましょうか」
「そうだな。これは終わりじゃなくて新しい始まりだが、始まれたことを幸運に思おう」
社長戦争が終わり、カンパニー内でのプレゼンに移った。
プレゼンはカンパニー本部で行われたため、この世界にはその内容が知らされることはなかった。
最終結果を見れば、驚くことにJ陣営の優勢で終わった。
特に、他陣営に対してのキルレートが凄まじく、他が平均で1.5程度なのに対し、J陣営の平均レートは驚愕の7.7。しかもこの数字は、半分以上の代理が戦果を挙げることなく散っていったせいで大幅に下がっており、上位20人ほどの代理は2桁撃破という偉業を成し遂げている。
次期社長を決めるはずが、まさかの外野の勝利は、おそらくカンパニーのスポンサーたちに大きな衝撃を与えただろう。ひっかきまわすだけの役割のJ陣営の勝利…………それは言うなれば、国家間戦争で山賊の集団が勝ってしまったようなものだ。
そして、彼らは「社長戦争の結果の反故」か「カンパニーの解体」という悪夢のような選択肢を突き付けられたことになる。
もっとも、ここでスポンサーたちや役員たちが談合して、どこか一つの陣営を勝たせるという可能性もあったのだが……そのような結論に至れるほどの妥協と求心力を持っていたのなら、そもそも「社長戦争」自体が起きなかったはずだ。
「とりあえずフーダニットには、いくつかの世界からカンパニーを撤退させるという条件で納得してもらって、現社長のモナリザ・アライ続投でその目付け役にリンドが食い込むことで手打ちと言ったところかしら」
そんな彼女の予想が当たったかどうかは定かではないが、結局フーダニットはこの世界のリーダーとなり、カンパニーは完全に撤退した。
今回の「戦争」は、急激に拡張を続けたカンパニーの矛盾が一気に現れた形となり、そう遠くないうちに派閥争いが勃発すると彼女は見込んでいる。
現社長モナリザは、今までの失点を回復できるほどの戦績を挙げられなかった。
ソリティア候補は、過剰な前評判が仇となり、期待外れとみなされた。
ビンイン候補は、「社長にすると危険」という印象を内外に与えてしまった。
リンド候補は、やる気がなかった。
カンパニーは結局後継問題を解決できなかったのだ。
どうやらカンパニーがまともになるには、まだまだ時間がかかりそうだ。
しかし、そんなカンパニーでも、まだ「恨む」余力はあるようで…………
「あんた、アルバレスだな」
「お?」
3人がいる席を、いつの間にか10人ほどのガラの悪い男が取り囲んでいた。
「お前はカンパニーに唾を吐いた。楽に死ねると思うな?」
「おとなしくしてればよかったものを。その女に騙されて余計なことをしちまってな」
「とりあえず、表出ろや」
彼らはこの町のチンピラだったが、どうやらカンパニーに買収されて、3人を始末しにきたのだろう。
彼らに絡まれたアルバレストセーフは、その場に徐に立ち上がると――――――筋肉が膨張して、上に着ていた服が爆発したかのようにはじけ飛んだ。
「口だけは達者なトーシローばかり、よく集まったもんだな」
「その小物臭がする口は閉じとけ。ここが戦場なら、貴様らの命はないぞ」
いきなりマッチョになった2人。
悪党たちは驚く間もなく圧倒的な筋肉に叩き伏せられた。周囲の席は破壊され、飲みに来ていた客は悲鳴を上げて右往左往するばかり。
そんな中、一人の挙動不審な男が何かから逃げるようにして店から出ていこうとするのを、ずっと椅子に座っていたスミトは見逃さなかった。
「そこのあなた、これ忘れものよ」
スミトは、いつの間にか自分たちの席の近くに放置されていた、何の変哲もない革製のカバンを、出ていこうとする男に向かって、魔法の力か何かを使って放った。
「あ、あわわ…………!」
鞄が戻ってくると思わなかった男は、顔面蒼白になって慌て鞄を放り投げようとしたが……次の瞬間、ボンッという音と共に鞄か白い煙が立ち上った。
男はその場で腰を抜かして倒れ気絶、しめやかに失禁した。
鞄の中には―――――タイマーが0:00になったプラスチック爆弾が入っていたそうな。
「あら、不発ね。ついてるわ」
「これはまたいい記事になりそうだ」
「この時世に自爆テロとはな」
こうして3人は、犯人一味と爆発物を官憲に引き渡し、別の場所で改めて飲みなおした。それが、この3人が最後に集まる機会かどうかは、神のみぞ知る。
××××××××××××××××××××××××××××××
「ねえユカリ。この女生きてるの?」
「生きてますね。呼吸も鼓動も正常っす」
効きなれない声が聴こえた。
ファラが目を覚ますと、目の前には2人の人間がいた。
「あらほんとね! よかったわ、せっかく召喚したのに死んじゃってたら意味ないしね!」
そう言ってはしゃぐ1人は、フーダニットと同年代ほどだがかなり育ちの良さをうかがわせる女の子だった。
まるであの槍使いの女の子のような輝く金髪に、一目見て気が強そうと分かるお嬢様らしい顔つきで、彼女の魅力が十二分に映えるような、豪華な赤いドレスを着ている。
「よう、立てるか?」
手を差し伸べてくれたもう一方の人間は……真っ白な日本武士の鎧のような装備で全身を覆った男性。身長はさほど高くないが、かなりがっしりとした体格で、気さくな性格をしている。
「ここは……?」
ファラは、武者鎧を着こんだ男性の手を取って立ち上がると、周りを見渡した。
石造りの壁や床に、豪華な装飾や絨毯があつらえられた部屋。ふと足元を見ると、大きな魔方陣が書かれていた。
「あなた、名前は?」
「私はファラ。アマゾネスの女王」
「そう、ファラっていうのね。私はアリアンロッド! いずれ天下を支配する定めを持つ者よ!」
アリアンロッドと名乗った女の子は、ない胸を反らして鼻息荒く名乗った。
「早速だけどファラ、私と友達になりましょう!」
ファラの大きな手を、アリアンロッドの小さな手がギュッと掴む。
掴んだその手は、小さいながらも…………なぜかふわりと包み込まれるように大きく感じた。
「わかった。私、友達になる」
「何の説明もしなくて友達になるのか……あんた凄いな。俺はユカリ、お前と同じくこの世界に連れてこられたんだ。ま、よろしく頼むぜ」
こうして、ファラの新しい世界での生活と戦いが再び幕を開けることになるのだが、それはまた別の話―――――
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