第53話 不機嫌エルフ

年下の猫娘に物凄い勢いで迫られて、俺は困り果てた。


「単刀直入に言うと結婚ニャ、入籍ニャ! ミーとユーで二人の帝国を作るニャ!」

「ちょ、それは……オカンにも相談しないと」


「じゃあ、オカンさんに御挨拶に行こうニャ!」

「いや、俺達まだ付き合ってもないし……」

「電撃婚ニャ! まさにビビビ婚!」


 レベッカはもうその気だ、花嫁モードだ。

 だがこのスウィートタイムは、すぐに強制シャットダウンされてしまう。


「レベッカさん! 早くワラビさんを持っていかなくていいのですかぁ!?」

 

 フィーリアが珍しく声を荒げて、レベッカに詰め寄った。

 勢いに気圧されて、レベッカはワラビを抱いたまま後退する。


「借金さんをしているという自覚が薄いのではないですかぁ!?」

 

 レベッカの様子などお構いなしで、フィーリアはぐいぐいとレベッカに厳しい口調で捲し立てた。


 何か様子が変だ。


 流石のレベッカも、フィーリアの剣幕に押されタジタジである。 


「確かにそ、そうニャね。借金返済は早い方がいいニャ……」

「なら、ここで無駄話している場合ではないのでは!?」


「でも光一と大事な話してるニャ……」

「ほら、早くしないと飛行船が出ちゃいますよぉ!」


 フィーリアに追い立てられ、レベッカは問答無用で村を追い出された。

 レベッカがちゃんと飛行船に乗るか監視するため、わざわざ見送りに行く始末である。


 彼女の旅立ちを見届けると、フィーリアは俺にキッと鋭い眼差しを向けた。



「……マスター」

「は、はいっ」


 思わず声が上ずってしまう。

 なんか、怖い。今日のフィーリアはすごく怖い。


「……お腹空きましたです」

「お、お腹?」


「クエストで腹減りになっちゃったのです、何か作って欲しいです」

「お、おう」


 若干ビクビクしながら、フィーリアと共にハンターの家に戻った。

 何故フィーリアがピリついているかは不明だが、彼女をなだめるにはとにかく飯を作るしかない。

 ビビっているのを悟られないように、平静を装いながら話しかける。


「そ、そうだフィーリア。ワラビが採れ過ぎて余ったし、それ食おうか」

「はい、です」


 椅子に座ってプイッと横を向きながら、フィーリアは答える。


「……特産ワラビって、特別な食べ方とかあるのか?」

「新鮮な物はそのまま塩茹でにするって、聞いたことあります」 


「そのままって、アク抜き無しで?」

「アクって、何ですか?」


「ワラビにはエグみがあるから、それを出すんだ」

「知らない、です」


 フィーリアはとうとうソッポを向き、ヘソを曲げてしまった。 

 

 ちょ待てよ、何でそんなキレてんだよメンドクセェ!


 仕方なく、一人で調理に取り掛かることにした。

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