第7話 おっさんのシャツ

 ――フィーリアと一緒に、キッチンに移動する。


 俺の家は古い建売住宅だ。

 ちゃぶ台が置いてある茶の間とキッチンが一間に繋がっており、そこにただカーテンを一枚引いて、区切ってあるだけの造りである。


「とりあえずそこに座ってろ……ああ、その服きつくないか?」


 俺は出来るだけイヤラシくない眼で、チラリと彼女の服を見た。

 フィーリアの豊満な身体は、しょぼいドングリアーマーに無理やりねじ込まれている。パツパツな胸当ての部分など、今にも弾けそうだ。


「ええと……確かに窮屈さんですけどぉ」

「けど?」


「フィーリアはこれを脱いじゃうと、ブラとショーツしかなくって……」

「お、おう」

 

 清らかな俺の前にいきなり下着イベントが来襲した。

 しかししつこいようだが、俺は紳士だ。


「そしたら、オカンの服でも着るか? ちょっと待ってろ」

 

 状況に便乗してちゃっかり女の子の下着を見ようなどと、浅はかな考えは持たない。というよりポリシーに反している。


 俺はエロスのプロフェッショナル、無から有を生み出す職人だ。

 がっつきエロになど、興味はないのだ!


 そう自分に言い聞かせながら、オカンの部屋に入る。

 オカンの部屋はいつも汚い。

 彼女は料理だけじゃなく、掃除も絶望的に苦手だった。


「ええと……クローゼットは……」


 オカンのクローゼットを荷物の山から掘り出して開ける。

 中には洋服や下着がびっしりと入っていた。


「シャツ的なもん、あるかな?」

 

 ぶつぶつ言いながら物色するが、出てくるものと言えば……。

 露出多めのチュニック、極彩色のブラウス、紐だらけの下着たちである。


「ダメだー、ロクなもんがない!」

 

 オカンは職業の関係もあるが、元々こういった派手な服が大好きなタチだ。

 それでも俺はなんとか、比較的「清楚そうな」服を引っ張りだした。


「フィーリア、これ着てみろ」

 

 茶の間でちょこんと待っていたフィーリアに手渡す。


「はいですぅ!」

「俺はキッチンで飯作ってるからな、終わったら教えろよ」

 

 フィーリアはニコニコしながら服を受け取った。「ちょっと覗きたい」というヨコシマな気持ちをなんとか押さえこんで、キッチンに入る。


「んしょんしょ、ぷはぁ」

 

 フィーリアがアーマーを脱いでいる音が、カーテン越しに聞こえてきた。


「これは……ブラウスさんですね」

 

 独り言を呟きながら着替えているようだ。


「あれ、あれあれ」

 

 不穏な声が聞こえてくる。

 

 ビリッ! 


 決定的な音が茶の間に響き渡った。


「ふぇーん、マスター!」

 

 フィーリアがキッチンに飛び込んできた。


「お、お胸で裂けちゃいましたぁ!」

「えええええ!?」

 

 彼女の大容量メロンは、現実世界には不向きだった。

 オカンのブラウス(ちょっと高そう)は無残に敗れ、裂け目からフィーリアのブラとおっぱいが盛大に覗いている。


「どうしましょう、マスターぁ!」

「わ、わかったから! とりあえず胸を隠せ!」

「せ、せっかく……ヒック、マスターが出してくれた……ヒック、お洋服がぁ」

 

 きめ細やかな肌の上を、涙の粒がハラハラと落ちる。

 女ってのは、何故こうもすぐ泣くのか。


「持ってきた服が小さかったのも悪い。だからそんなに泣くな」

「わーんどうしよう!」

「とにかくそれ脱いどけ。もっと大きい服持ってきてやる」


 泣きじゃくるフィーリアをなんとか茶の間に押し戻して、俺はデカイ服を探しに出かけた。


 確かにオカンは小柄な方だった。

 一方フィーリアは顔こそあどけない少女のようだが、身体はしっかり「オトナ」である。最初から無理があったのだ。


「オカンのではアカンな。となると……」

 

 ……俺の服しかねぇじゃねえか!

 

 結論にたどり着いた俺は、またもこのエロゲ的な状況にゲンナリした。


「美少女に男物シャツだと? 古典的すぎる!」

 

 自分の衣装タンスに手を突っ込みながら叫んだ。

 あまりにも、わかりやすい展開である。


「こんなの俺の求めるエロじゃねえ!」

 

 狂ったように白いTシャツを引っ張りだすと、フィーリアの元に急いだ。


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