第13話 天然人妻VS天然エルフ

「きゃあああああああ!」

「ひゃあああああああ!」


 夜も開けようとしているボロ家に、オカンとフィーリアの叫び声が交互に響き渡る。かれこれ十分間、同じことを繰り返していた。

 

 流石の俺もウンザリだ。


「二人ともいい加減にしろ!」

「だ、だって光一……ぃやあああ!」

「ま、マスター……ぁあああああ!」

 

 こうなったら仕方がない。

 オカンを黙らせる、鉄板のセリフを吐いてやった。


「これ以上叫んだら朝飯抜きだぞ!」

「えっ」

 

 オカンどころか、フィーリアもピタリと黙った。

 二人とも相当喰い意地が張っている。


「ま、マスター……朝ごはん無くなっちゃうですか!?」

 

 フィーリアが慌てて俺に取りすがる。

 だがご存知の通り、フィーリアはブラの上に男物シャツだけという、とんでもない姿だ。その痴態に、オカンがカンカンに怒りだす。


「ちょっと! ママの光一君に、なんてことすんのよ!」

 

 オカンは仕事柄誤解されやすいが、こういうところは昔カタギの奥ゆかしい女性だ。


「この変態め!」

 

 真っ赤な顔でフィーリアを俺から引き剥がそうとする。

 だが、そういうオカンも素っ裸だ。

 まったく人に言えた義理ではない。


「い、痛いですぅううう!」


 身体を掴まれて、フィーリアは涙目になっていた。

 助けを求めてますます俺にしがみつく。

 

 それにオカンがまた怒る。悪循環のループだ。


 お泊りさながらの美少女と、全裸ロリ人妻のおっさんを巡る取っ組み合い。

 まさに地獄絵図だった。


「ええい、お前ら! 一回座れ!」

 

 俺もたまには、男を見せなくては。

 二人の腕を力任せに引っ掴んで、ちゃぶ台の脇に放りだした。

 二人はそれでもめげず、むくっと起き上がってお互いを見つめ、ほぼ同時に俺を睨んで抗議する。


「もう、光一! 誰よこの娘(こ)っ!」

「マスター! この女の子は誰ですかぁ!」


「女の子ですって? いい歳の女性を捕まえて!」

「違うんですかぁ!」


「私はもう五十五歳よ! あなたよりよっぽどオトナだと思うけどっ!」

「フィーは今年で三百歳ですぅ!」


「さん、びゃく、さい……ですって?」

「そうですぅ!」

「え、マジで?」

 

 俺も驚いてしまった。

 こんなにおっとりしたフィーリアが、そんな年齢とは到底信じられない。

 オカンも目をまんまるにしている。


 だがすぐに、フィーリアに反論した。


「嘘つかないでよ、そんなぴちぴちの三百歳がいるもんですか!」

「エルフは長命種なのですぅ!」

「え、エルフ……?」


 しまった、と思った時にはもう遅かった。

 オカンが改めて、じっくりとフィーリアを眺める。

 

 足もとからじっくりと顔に向って、視線が移り、そして彼女の眼は、フィーリアの耳に釘付けになった。


「耳が……尖がって……」

 

 エルフ特有の、長い尖耳だ。

 フィーリア耳を指差しながら、オカンはワナワナと震えだす。


「こ、光一……この小娘はどうして、耳が長いの……?」

「そ、それは……」


 俺はない頭を絞って、なんとか言い訳を絞りだそうとした。


「こ、コスプレだよ……今流行ってる……」

「コスプレって、なんですかぁ?」

 

 無邪気にフィーリアが聞き返した。

 最悪のタイミングだ。


「こ、コスプレじゃないの?」

「コスプレって……? フィーは知りませんですぅ」


「じゃ、その耳も、髪も……本物?」

「勿論ですぅ。フィーの国では当たり前のお耳さんですし、髪さんですぅ」

 

 オカンはアワアワと目を回し始めた。彼女はこう見えて繊細だ。

 理解の範囲を超えることが起きると、卒倒することもある。


 フィーリアが現実世界の人ではない知ればどうなるか……。

 

 オカンはぐらつきながら、再びフィーリアに掴みかかった。


 これは本格的にヤバい、ショックで錯乱している。

 俺は己の失策を嘆きつつ、オカンを止めに入った。


 しかし時既に遅し。

 彼女の手は既に、グワシッとフィーリアの髪を握りこんでいた。


 おいおい、暴力だけはやめてくれ!

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