第18話 お泊りすれば?

「なんて、ヒック、お優しい方ですかぁ!」


 ボインボインと極上のおっぱいが、顔にぶつかる。

 もうホント、俺の注文通り……ってそんなことを言っている場合ではない。


「や、やめろっ」

 

 ボインは凶器にもなりうる。

 危うく窒息するところだった。


「じゃあフィーちゃんは、もう帰らなくてもいいのねっ!」

「はいですぅ!」

「だったらな、屋敷に帰った方がいいんじゃねぇか」


 俺はフィーリアに実家に帰ることを勧めた。

 ハンターを辞めるのなら、それが一番のはずだ。


「そ、それは……帰り道にモンスターさんがいるかもですしぃ」

 

 なぜかフィーリアは渋っている。

 それを見てオカンが嬉しそうに答えた。


「あら、それじゃウチに泊れば?」


 何を言ってるんだこのババアは。


「いいんですかぁマダム、やったぁですぅ!」

 

 何を喜んでるんだこのエルフは。

 おかしい、やっぱり二人ともおかしい。


「ウチに、泊める、だと?」

「そうよ、イケない?」

 

 いつもは貞操観念だとか気にする癖に、何故こういう局面で雑になるのか。

 

 俺にはオカンが理解出来ない。


「はあ、全く現実的じゃないね。第一どこで寝るんだ」

「あら、アンタのお父さんが住んでた部屋があるじゃない。でもオヤジ臭いから嫌かもね~。ファヴリーズしまくってあげるからね、フィーちゃん!」


「あるけど! 住むなら部屋だけじゃダメだろ。着替えとかさ。オカンのじゃ無理だし」

「近くにイヲンモールがあるじゃない」


「まさか、俺が買いに行くのか?」

「あら、一緒に買いに行けば?」


「エルフなんて目立ちすぎる! それにご近所にはどう説明すんだよ、噂のタネになるだけだ」

「イマドキみんな気にしないわよねぇ」

 

 日本の一般的なご家庭に異世界美少女がいたら、誰でも気にするだろ!

 ああもう、頭がクラクラする。話が通じない。


 そんな俺のことはそっちのけで、オカンとフィーリアはウキウキと同居計画を立て始めた。


 ヤバい、なんとしても阻止しなくては。


「冷静に考えろよ。フィーリアは良くても、親はどうなんだ」

「フィーのお父さま、お母さまですかぁ?」


「流石に、男が居る家に住むのはマズイぞ。嫁入り前だろ?」

「確かにそうね、フィーちゃん。ご両親には連絡しないとだわ」


「うーん、どうしても言わないといけませんかぁ?」

「そらそうだろ、ケジメだ」


 これは俺の作戦だ。


 この二人には何を言ってもダメだ。

 だったら、第三者に止めてもらうしかない。

 フィーリアはお嬢さまらしいから、親御さんはきっとしっかりした人だろう。


 彼らに雷を一発落としてもらうのが、一番だ。


「では、お手紙を……出しますですぅ。一度村に戻りますぅ」

 

 そう言ってフィーリアは3DLを開き、四肢を一本ずつ画面にねじ込んだ。

 気が進まなそうな様子を見ると、やはり俺の読みは正しいらしい。

 

 いくら理想の美少女といえど、エルフと同居なんて、そんな面倒を抱え込むのはごめんだ。


 早々に親に引き取りに来てもらおう。

 そうすればフィーリアはハンターを辞めて実家に帰れるし、俺は元の平穏な日々に戻れるし、一石二鳥だ。


 画面の中に微分されたフィーリアは、こちらに手を振った。


「マスター、村に帰るにはクエストをリタイアしないとですぅ」

「わかった」


 ボタンを操作してクエストリタイアを選択すると、ハンターの自宅内に場面が切り替わった。フィーリアは一人で動いて、何やら書きものの準備をしている。


 終わる、これで騒動から逃れられるのだ……。

 

 しかし数十分後、つかの間の心の安寧はすぐさま破られることになる。


「ニャァアアア! 何故ミーの依頼をリタイアしたニャ!」

 

 逃げるように帰ってきたフィーリアにくっついて来たのは、モフモフの猫娘だった。



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