お金がないっ!

第30話 頑固親方(ツインテール幼女)

 ――だがどうも、腑に落ちない。


「なんで俺のドングリアーマーだけ、遠距離用だったんだ?」


 なぜならフィーリアのアーマーは、耐久性から察するにちゃんと近接用だったはずだ。


 どうして俺のだけ?


「おぬし、その防具はどこから持ってきたのじゃ?」

「どこって、支給されたモノですけど」


「初心者のハンターには、ギルドから近接用と遠距離用の一揃えが贈られるはずじゃ」

「知ってますよそれくらい。何か問題ありますか?」

 

 クエスト初体験の初心者ハンターが、支給装備を使うのは当たり前じゃないか。それに何の問題があるというのか。


 しかし会話を聞いていた猫娘が、口を挟んだ。


「ではユーは、ハンター殿の残りものを着たのニャ?」

「当たり前だろ、金ないし」


「だったらユーの防具は遠距離用に決まってるニャ」

「はぁ? 何言って……ホンマや!」


 猫娘の言う通りだ。

 フィーリアが近接防具を着ているのだから、残っているモノは遠隔防具に決まってる。


 なんてことだ、凡ミス中の凡ミスじゃねぇか!


「なんで俺気がつかなかったんだ!?」

「おっちょこちょい過ぎニャね」


「傷口に塩を塗るな!」

「本当のことを言っただけニャ~」


 親方がフンと鼻を鳴らして、腕組みをした。


「これでわかったじゃろ。おぬしの防具を直したところで、また同じことの繰り返しじゃ。大人しく新しいものを作れ」

「でも防具造るなら、素材集めは必須ですよね……」


 念のためフィーリアを見やると、物凄い顔で首をブンブン振っている。

 どうしてもクエストは嫌らしい。


 猫娘のクエストですら渋々だったのだ、これ以上求めるのはやはり酷だ。


「あの、非常に言いにくいんですが……クエストに行けない事情がありまして」

「ハンターがクエストに行けない事情じゃと?」

「深い、ふかーい理由があるんですよ」


 ここは誤魔化すしかない。

 本当の理由なんて、口が裂けても言えない。


「もうとにかく、心をえぐられるような理由です。可哀想と思うなら聞かないでください」

「そ、そんなもんかの……」


 親方が少し憐れみを見せた。チャンスだ。

 なんとかクエストに行かずに、防具をゲット出来るように交渉しなくてはならない。


「ええと、素材無しに防具を手に入れる方法はありませんか?」

「出来合いのを買うということか?」


 そうだ、装備を「買う」という手があったじゃないか!

『異世界ハンター』では「武具屋」で装備を買うことも出来る。


 だが素材を集めて「鍛冶屋」に持ち込み、装備を作ってもらう方がコスパも良く、手っ取り早い。だから今まで俺は「武具屋」を利用したことも無かったし、今回も思いつかなかった。


 つまりクエストに行かなくても、金さえあればいい装備を使えるのだ。

 なら買うしかないじゃないの!


「買います、装備!」

「本気か? そんなハンター滅多にいないのじゃが」


「背に腹は代えられません」

「……良かろう。では装備見本を見せよう」


 グローインが別の棚から、別の分厚いカタログを引っ張り出した。

 カタログの中には防具から武器まで、様々な装備が載っている。

 

 お馴染みの装備から、見たこともないような装備まで、夥しい数の見本が挿絵と共に掲載されているのだ。

 絵の脇には細かい注釈がつけられて、さながらリアルハンター装備図鑑である。文字が異世界語で、読めないのが惜しい。

 

 さすが一流の鍛冶屋だ、武具屋としても一級品といったところか。

 フィーリアと猫娘も、両脇からカタログを覗きこむ。


「炎に強いもの、雷に強いもの、水に強いもの……装備の性質は無限じゃ。おぬしの好きなものを選べ」

「すごい種類ですぅ。マスター、どれを選ぶですかぁ?」


「うーん。特性や属性も大事だけど、最初はとにかく硬いやつがいいと思う」

「勘もいいのじゃな。やはりタダ者ではないのじゃ」

「はは……」


 あれだけシリーズをやり込めば、こんな察しは簡単につく。

 カタログを眺める内に、使い勝手が良さそうな装備が大体解ってきた。


 すると銀色の頑丈そうな装甲が、目に入った。

 いかにも硬そうな金属製の装備である。

 

 ふむ、これだな。

 

 カタログを裏返し、親方に見えるように指差した。


「これはかなり良さそうですね」  

 

 親方は装備を確認すると、腕組みをしてウンウンと頷いた。


「アイアンアーマーじゃな。雷に弱いが、すこぶる硬い。おまけに入手難易度も高くない。駆けだしハンターにはうってつけじゃ」

「それで、おいくらニャか?」 

 

 商売人の血が騒ぐらしい。

 早速、猫娘が値段交渉に入る。


「3万ゴールドなのじゃ」

「はは、やっぱ高いな」

 

 最初の所持金の30倍だ。

 しかもそのゴールドさえスッカラカンの俺に、買える代物じゃない。


 ま、そんなことは予想済みだ。


「俺達には過ぎた商品ですね。じゃあ、近接用のドングリアーマーでいいです」

「承知じゃ。では代金は8000ゴールドじゃ」

「ドングリアーマーで8000ゴールド!?」


 初期装備クラスでその値段かよ!

 

 やはり、装備は買うと高い。だがこれしか道はない。


「わかりました、ではそれで」

「マスター! そんなお金どこから持ってくるですか!?」


「仕方ないだろ。あと、料金は後払いでお願い出来ますか?」

「後払い、じゃと?」


 親方が険しい顔をした。


「ドワーフは現金主義じゃ。金の払えんやつに、渡す装備などない」

「ちょ、待ってください。クエストに成功したら報奨金を必ず持ってきます、それを担保にして売ってください」


「ニャニャ、8000ゴールドも払えないニャ! そんなに金がないのかニャ?」

「おたくの店で使ったのが全部だよ!」


「マジかニャ……。親方よ、もっと安いのはないのかニャ?」

「ドングリが最安じゃ。値下げは受け付けんのじゃ」


 噂どおり、親方は頑として主張を曲げなかった。


「なら仕方ない……、修理だけでもお願いします」

「修理なら一人750ゴールドじゃ」


「修理にもお金かかるんですか!?」

「当り前じゃ、タダな訳なかろう」


 そりゃそうだ。

 こういった細々としたところが、まるでガチものの異世界のようだ。

 っていうか、ここは本当にゲームの中なのか?

 

 だが今はそんなことはどうでもいい。

 とにかく、ここで引き下がってはどうしようもないのだ。


 装備レベルの高額商品はダメにしても、修理代くらいなんとかしてくれ!


「く、クレジットでお願いします!」

「はあ? 何を訳のわからんことを」


「いわゆる信用払いです、俺に賭けてください!」

「いくらオヌシの筋がいいとはいえ、駆けだしハンターに賭けられる訳ないのじゃ」


 これにはグウの音も出ない。


「さ、これ以上話すことはない。お引き取り願うのじゃ」

 

 グローインに追い立てられて、結局店を追い出されてしまった。


「どうしましょう……」


 フィーリアが不安そうな表情を見せる。

 防具は穴だらけのまま、おまけに俺のはヘボ装備で、新しいものさえ買えない。完全に八方塞がりである! 


 今や21世紀だというのに、クレジットが使えないなんてどうかしてる。

 

 目標を見失った途端、三人の腹がグウと鳴った。


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