第59話 理性なんて押し倒して

 フィーリアは酔った顔を更に真っ赤にして、ガタっと勢いよく立ちあがり、憤然とした顔で仁王立ちになった。


「フィーリア?」

「フィーを……放っていかれるのですか?」


 それだけ言うと、フィーリアはガバッと俺に覆いかぶさった。

 彼女の身体の優しい香りが鼻腔いっぱいに溢れかえり、豊かなおっぱいが俺の胸板に、ぴったりと吸いついた。

 

 フィーリアは腕に力を込め、ギュッと俺に抱きつく。

 きつくきつく、何かを繋ぎとめたいかのように、二つの身体を貼りつける。


「へ、どうした!?」


 こういうシチュエーションなど、エロゲかアニメでしか遭遇したことがない。


 彼女の様子がおかしいことは薄々気づいてはいたが、一体全体、どうしたというのか。


「マスターはズルイです」

「ず、ズルイ?」

 

 こういう時、どういう答えを返せばいいか解らない。


「フィーだって、ずっとマスターと一緒にいたいです。マスターは、フィーの気持ちに気がついていらっしゃらないのですか。そうやって、体よく知らないフリをなさるのですか。そんなのズルイです。フィーは、ずっと……ずぅっとマスターと一緒に……」

 

 ちょ、ちょちょちょ待て! こ、これってまさか……!?

 

 フィーリアは俺の胸の中で、深く深呼吸している。母の懐で眠る子ウサギのように、俺の匂いを嗅いでいるのだろう。

 安心しているのか、己の身体を全て、俺に委ねていた。

 

 ……間違いない。


 女にコケにされ続け、砂を噛む思いで婚活を続け、そして惨敗しまくった……俺のクソ人生史上、初めての瞬間がやって来た。

 

 さっきのビールの酔いが、再び全身を駆け巡った。

 酒の勢い、というものは本当に存在すると初めて実感した。


 行ける。今日の俺は、行きつくところまで突っ走れる。

 

 だが、ここから先に進むにはまだ足りないピースがある。

 震える声で、フィーリアに話しかけた。


 これは所謂、「最終確認」だ。


「ずっと、一緒に……?」

 

 空だった自分の腕を、ゆっくりフィーリアの細い肩にかける。

 そして手に力を、優しく込めた。


「ああ……マスター……」

 

 甘えるような、懇願するような、切ない喘ぎが耳元で囁かれる。

 パチンと、俺の中で理性が弾けた。荒々しい性が剥き出しになった俺は、フィーリアの華奢な身体を転がし、敷物の上に、男の力で押し倒した。


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