第32話 牛乳、卵、ジャム……だがパンは無い

「さ、食いモノだな」


 早速キッチンに入って、食材を物色する。

 といっても昨日から何も変わらないラインナップだ。


「くっそ、ロクなもんがないな。でも牛乳はあるんだな。それに卵も残ってる」


 冷蔵庫の隅々まで探して、朝食に使えそうなものを取り出していく。


「イチゴジャムとマーマレード……お、バターもあるじゃないか」

 これはかなりいい感じだ。

 粗方食材を集め終えると、3DLを持ってきて、中の二人に呼び掛ける。

 画面越しに直接、食べ物を運搬するのだ。


「おーい、食材を入れるぞ~」

「はいですぅ、マスター」


 ボックスの前で二人が食材を待ちかまえていた。

 フィーリアはというと、村娘風の衣装にすっかり着替えている。


 グリーンが目に優しい、ひざ丈の素朴なドレスだ。

 腰の部分がキュっと編み上げになっており、彼女の華奢な曲線美を強調していた。そして更に眼福なことに、胸部分がパックリ割れており、白いブラウスに包まれたおっぱいが惜しげもなく揺れていた。

 ところどころにあしらわれた桜色の薔薇の刺繍が、フィーリアの愛らしさを引き立てる。


 なんだよコレ、くっそ可愛いじゃねぇか!

 見とれる俺を、フィーリアは不思議そうに見つめ返す。


「どうしたのですかぁ、マスター?」

「いや、なんでもない」

「もう何してるニャ、お腹空いたから早くするニャ」

 

 猫娘に催促されて、俺は見つけた食材を一つ一つ画面越しに手渡した。

 中世風のゲーム内に見慣れた食品が並ぶのは、かなりシュールな絵だ。


「そういえばフィーリア、食器はあるか?」

「一人分しかありませんですぅ」


「じゃあコッチから持ってくわ」

「はいですぅ。そうだ、マスター」


「ん?」

「フィー、あの紅茶さんまた飲みたいですぅ」

「はいはい」

 

 自分の料理を他人からリクエストされるのは、気分がいい。

 俺は上機嫌で作業を続けた。

 だが食材を運び終わったところで、重要なことに気がついてしまった。


「……パンが無い」


 いくらバターやジャムがあったところで、主食が無ければ意味が無い。

 冷蔵庫から棚に至るまで、キッチン中を探す。


 しかし、パンらしきものは見当たらなかった。


「どうしよう」

 

 卵も牛乳も、三人分の腹を満たすだけの量は残っていなかった。

 

 バターやジャムだけ舐めさせる、というテもなくはない。

 美少女がペロペロとモノを舐めているシチュエーションの、妄想が膨らんだ……悪くねぇ、むしろ素晴らしい!


 ……なんてバカなことを考えていると、戸棚の隅に隠れていたホットケーキミックスが、目に飛び込んできた。


「いいじゃん、これはアリだな!」

 

 袋を引っ掴んで、ゲーム世界に帰還する。すると帰るなり、二人が搬入された食べ物の何かを、不思議そうに眺めていた。


「どうした、何か困ったことでもあったか?」

「これは……何ですかぁ?」


 フィーリアが指差したのは、象牙色をしたお馴染みのチューブだ。


「ああ、それはマヨネーズだ」

「ま、マヨ……?」


 丁度キッチンで目についたので、食材の中に放りこんだのである。

 今回の食材のラインナップで役に立つかはわからないが、無いよりはマシだろう。


「聞いたことありませんですぅ、マスター」

「そっか、コッチにはないもんな」


 天下のソース、マヨネーズも知らないとは。

 憐れな小娘たちである。

 

 からかい半分で、少々誇張してマヨネーズを紹介してやった。


「いいか、これは卵とビネガーで作った調味料でな」

「こんなに白いのに、卵使ってるのニャ!?」


「驚くのはそれだけじゃない。これはな、アッチで最もウマいソースだ」

「ニャニャニャ!?」


「何にでもコレをかける、『マヨラー』という人種も存在するくらいだ」

「そ、そんなにう、ウマいのかニャ……ゴクリ」

「それ程までにう、ウマいさんなのですかぁ……ゴクリ」

 

 腹を空かした美少女達は、今にもマヨネーズに吸いつきそうな勢いだ。


「まぁ待て。こういうものにはな、使い時があるんだよ。さ、早速調理開始だ」

 

 そう言って、俺は暖炉の前に移動した。

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