第22話
―プリムローズの酒場二階、イェスタの私室―
「さて、というわけで、狩猟期が開幕したわけだが、今季はまず中型を多く狩るつもりだ。資金面こそ、新しいスポンサーで何とかなっているが、大型凶竜を狩るためには多くの装備と道具、それに場所によっては遠征費もかかるからな。それらの負担に耐えられるように前半戦は中型を多く狩って実績とともに軍資金も貯めるつもりだ」
イェスタの借りている部屋にローランドを始め、猟団のメンバー全員と、事務担当のエリスまで集まり、狭い中で今季の狩猟方針を決める会議を開催していた。
王都での開幕式はつつがなく終了し、すでに大陸全土で休眠期を脱した大型凶竜への狩猟準備を開始した猟団もあるが、イェスタたちは前年までの実績を勘案し、最初から大型凶竜を狙わず、中型凶竜を狙って、資金と装備の更なる拡充を目指す模様だ。
これは、オーナーであるローランドも、イェスタから提案を受けて了承していることで、他のメンバーたちも納得をしている様子であった。
ただ一人、レクを除いてであったが。
「そんな地味な成果でいいのかい? ボクらはすでに三季連続の最下位だよ? 中型なんて狩ってないで、大型を何体も狩らないと」
酒場での事件以来、レクは訓練でも採集狩猟でも調子を落としており、持ち前の攻撃力が鳴りを潜めていたのだ。
そのレクの不調が、イェスタに中型を優先狩猟させる決断を促せたのだが、レク本人はそんなことを知る由もなかった。
「地味というがな。このガレシュタットは近隣に中型凶竜も多いし、それにまず大型を狩る資金を作らんと、ロクな狩猟成果はだせん。レクが俺の言う通りにキチンと動くというなら、大型を狩りにいってもいいが」
「それは無理だね。ボクはボクのスタンスでやらせてもらう。そのことは、事前に話しているはずだよ」
開幕前にイェスタは、レクと狩猟における指示系統を確認するため、二人で話し合ったのだが、話は平行線をたどって決着はつかないまま解散となったのだ。
レクの苛立った様子を察したローランドがイェスタとの間に入り、説得するようにレクの機嫌を取り始めた。
「レク。開幕しばらくは、他の猟団も調整で中型を狩る所がほとんどだ。イェスタ殿の言う通り、夏場に大型凶竜が狩れるように、ワシも準備に時間を掛けておいた方が成果も出ると思うぞ」
「それでいつも、他の猟団の後塵を拝したのをローランドは忘れてないよね?」
いつも以上にレクの言葉に棘があった。
周りのメンバーたちも前季までの自分たちを思い出して、最下位に落ちた原因を脳みそから引っ張り出しているようであった。
不穏な空気に包まれたイェスタの私室であったが、イェスタは猟団のエースであり、攻撃の要であるレクが不調であるのと命令違反をすれば、猟団の全滅もあり得ると見越し、無理を押しての大型討伐は非常に危険な賭けだとみている。
「ダメだ。今は認めない。これは猟団長権限で決めたことだ。レクも自由にやって指示に従わなくてもいいが、中型凶竜の狩猟には同行するように。狩猟はチームで行うものだからな。特に俺たちの猟団みたいに小所帯は、怪我で一人欠けるだけでも痛手だと覚えておいてくれ」
「まぁ、準備運動の代わりに中型凶竜を狩りましょうよ。休眠期も上手く狩れていましたし、そこで資金稼いで、大型凶竜を狩って行きましょう!」
重苦しい空気を察したヴォルフが、珍しく大声を上げて、イェスタの案を支持してきていた。
休眠期の間中、ヴォルフはずっとイェスタの傍で厳しい訓練を行い、不振に喘ぐレクの危機を何度も救う活躍を見せ、前線における敵凶竜の攻撃吸収を上手く行うような動きを見せ、ヨランデの負担を大いに低減させる活躍をみせるようになっていた。
おかげで、ヨランデは余力を持って、ノエルとイェスタへの侵入を狙う凶竜の連携をしてカットし、後衛二人の攻撃で大きな成果を上げるという形ができ始めていたのだ。
なので、中型までであれば、レクが不振であっても、気を引き締めて戦えば勝てない相手ではなくなっており、イェスタの提案している中型凶竜の狩猟は、資金集めとともにレクの不振脱出の狙いもあったのである。
「レク、イェスタ猟団長の言う通りだ。オラたちは、まだ大型と戦える態勢ができてない。地道に態勢を整えて、キッチリと大物を狩るのが、
「そうね。私もヨランデ同じ考え。今のレクじゃ、大型凶竜に食べられちゃいそうだもの。まずは中型で結果を残していかないと」
ノエルもヨランデもレクの不振を感じ取っており、彼が不振を脱しなければ、大型凶竜の狩猟に挑戦するのは危ないと感じていた。
「みんなでボクをお荷物扱いかい? ボクも舐められたものだ」
皆に諭されたと知ったレクは、苛立ったように銀色の髪を弄り回すが、イライラは収まらない様子であった。
「ああ、クソ。分かったよ。大人しく、イェスタの言う通りに中型凶竜を狩ればいいんだろ! その代わり、ある程度狩ったら、絶対に大型凶竜の討伐を計画してくれよ。ボクは、結果が欲しいんだ。誰も文句を言わせない結果が欲しいんだよ!」
「結果か。ああ、中型凶竜をキッチリ狩ったら、大型凶竜に挑戦もいいだろ。簡単なものだろ?」
完全に不貞腐れたレクがそっぽを向いて窓の外を眺めはじめた。
イェスタを始め、部屋にいた者たちは一様に肩を竦めているものの、全員がレクの性格を熟知しているため、責める者は誰一人いなかった。
「じゃー、そういう訳で、前半は中型凶竜の睡冠凶竜インドスクスと尖角凶竜ゼインロングを中心に狩っていくぞ。この二体は中型でも休眠期で戦った奴らよりワンランク上の強さ持ってるから、しっかりと情報を頭に入れておけ」
「「「はい」」」
レクとの溝は残しながらも、イェスタは確実な狩猟成果を重視して、前半戦を中型凶竜討伐に当てることに決定した。
こうして、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます