第27話

 ―インドスクスのねぐら―


 取り巻きのモノニクスを狩り尽したイェスタたちの足元には、睡眠矢によって、眠らされたインドスクスがいびきをかいて眠っていた。


 その様子をイェスタ以外のメンバーたちが、信じられないといった顔で足元の凶竜を見ている。


 モノニクスとの戦闘中にも、インドスクスが眠ったのは見ていたが、イェスタが言った通りに、睡眠に対する抵抗値が異常に低い凶竜であることが証明されたのであった。


「本当に、こんなに睡眠に弱い凶竜だったとは……他の猟団が聞いたら、喜んで狩り尽すだろうね」


 すでに動き出したら即座に拘束罠が発動するように仕掛けてあり、インドスクスの最大の武器である睡眠音波を発する鶏冠頭骨の近くには、各自が分担して持ち込んでいた爆薬を完成させた物が設置済みになっていた。


「まぁ、これを見つけたのは、偶然の産物だったけどな。駆け出しに近い歳の頃、不意にインドスクスに襲われて、目潰しに光玉投げようとしたら、テンパって睡眠玉を投げちまって……そしたら、寝たんだよ。やった本人が一番驚いた」


「歴戦のイェスタ猟団長でもそんな失敗するんですね」


 イェスタの失敗談から発見された、インドスクスの攻略法だったことを聞いたノエルが、笑いを噛みしめるように堪えていた。


「俺も最初からエースだったわけじゃないさ。マルセロのしごきに耐えて、一人前の狩猟者ハンターになったってことよ」


「イェスタ猟団長もそんな時期があったんですね。僕は信じられないですけど」


「俺だって子供時代はあった。一五で狩猟者ハンターデビューして、二年は駆け出しとして、控えメンバーをしていた時期もあった。その時期に色々と試して、その後に繋がったこともある。だから、若い奴らは色々と挑戦しろよ。もちろん、ベテランも日々勉強だぞ」


 イェスタ自身は、子供の時に植え付けられた凶竜のトラウマを克服するため、マルセロに引き取られて以来、ハンターギルドに併設され図書館に通い、研究者たちがまとめた凶竜の生態を学んでいたことも、新たな狩猟法を確立するために非常に役に立っていたのだ。


 今回のインドスクスの狩猟成功率を高める工夫として、共生関係にあるモノニクスの皮やフンで、自らの匂いを消して近づく工夫は、イェスタの収集した知識のおかげでもあった。


 この二つの工夫で、三部猟団の中でも装備の整っていない猟団は、苦戦すると言われている中型凶竜のインドスクスを容易に押さえ込むことができていた。


「勉強って大事なんですね。あんなに手強いと思ってた中型凶竜がこうもあっさりと……」


「イェスタの知識は異常だよ。ボクも勉強しているが、こんな偏執的な知識は持ち合わせてないよ。たく、凶竜にでもなるつもりかね」


 圧倒的な知識量を見せつけられたレクも呆れた顔で、イェスタの方を見ていた。


 狩猟者ハンターの中でも、イェスタほどの凶竜に関する知識を有する者は稀であり、彼が五季連続の狩猟者の栄誉ハンターズ・オナーという、前人未到の結果を出せた一因でもあった。


「さて、準備もできたし、とっとと、かたを付けて、狩猟成果にしよう。オラは準備できてる」


 ヨランデは盾と槍を構え、すでにいつでも戦闘態勢に入れるようにしていた。


 睡眠矢の効力は今しばらく残っているが、長々と喋る必要もないと感じたイェスタも、ヨランデに同意して、重弩の弾を装填していった。


「ヨランデの言う通りだ。サクッと片付けるぞ」


「「「おう」」」


 イェスタの号令の下、皆がそれぞれの位置に待機し、起爆用の線を繋いだ器具を持つ、イェスタの挙動を、それぞれが息を呑んで待った。


「3・2・1・行くぞ!」


 ドゥンという腹に響く音が荒野に響き渡ると、熱と火薬の匂いを含んだ爆風が、イェスタたちの頬を撫でていく。


 ウヴォオオオオオ!


 目覚めたインドスクスの鶏冠頭骨は、見事に吹き飛ばされてボロボロになり、自慢の笛の音は吹かれることはなく、爆発によって大ダメージを負い、動こうとした瞬間に、地表から撃ち出された数十本のワイヤーがインドスクスの身体を絡めとって動けなくさせていた。


「集中攻撃! 全力で行け! 行け!」


 イェスタの重弩から弾丸が撃ち出されると、続けてノエルも矢を撃ち込む。


 弾丸は群青色のインドスクスの鱗を打ち砕き、風穴を開けたと思うと、赤い液体をまき散らしていく。


 そして、ノエルの矢もインドスクスの片目に突き立ち、かの凶竜の視界の半分を奪っていった。


「接近するよ。レク、オラの援護を。ヴォルフも頼む」


 盾を構えたヨランデが拘束されたインドスクスに向けて、勢いよく槍を突き立て更に出血を強いていた。


「ボク、今日は乗れているからいくよ」

 

 レクも久しぶりにキレのいい動きを見せており、太刀による連続攻撃を股関節部や膝に集中的に斬撃を加えて、拘束を解こうとするインドスクスの動きを牽制していた。


 ウヴォオオオオ!!


 拘束ワイヤーに絡めとられたインドスクスは、なすすべもなく、猟団のメンバーたちの攻撃に曝され、群青色の鱗は出血により、真っ赤に染まり、集中攻撃を受けたインドスクスの体力も、そろそろ尽きそうになりかけていた。


「そろそろ、狩れそうですかね?」


 援護の牽制をしていたヴォルフが、真っ赤に染まったインドスクスの様子を見て、狩猟が終わる時が近づいている気配を感じ取っていた。


「最後のあがきを押さえ込むまで、気を抜くんじゃねぇ!」


 気を抜きかけたヴォルフを、イェスタは叱責し、弾丸を装填し終えた重弩を何度も身体に撃ち込んでいく。


「は、はい」

 

 その行動は執拗で、冷徹に凶竜の命を奪うためだけに向けられていた。


 ウヴォオオオオ!!


 執拗な攻撃に曝されたインドスクスは拘束ワイヤーを解くことなく、その命を終えることとなった。

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