第34話
―山の麓の洞穴―
イェスタたちが尖角凶竜ゼインロングの群れを発見して三日が経った。
偵察の結果、目標の凶竜は森林地帯と草原を行き来して生活しているようで、草原に居ない時は針葉樹林の森で角研ぎをしていることが判明している。
偵察を請け負っていたイェスタとヴォルフは、何度か、かの凶竜を【轟音玉】で驚かし、その動きの癖を囮役のヴォルフに覚えさせることを続けていた。
その訓練の間に、洞穴に設営中だった落とし穴と毒鉄杭罠の設置は完成を見て、尖角凶竜ゼインロングの討伐への事前準備は整っていた。
「作戦の説明をもう一回しておくぞ。今回はタイミング狂うと致命的な危機に陥る可能性があるから、しっかりと聞いておけ」
洞穴の中に作られたベースキャンプ内で、イェスタがメンバーを前に、狩猟方法の最終確認をしていく。
尖角凶竜ゼインロングを数頭狩れれば、素材売却代金で装備の充実も図れ、レクが待ち望んでいる大型凶竜の討伐へ向けて準備資金も溜まると思われるので、イェスタとしても確実に成果を出しておきたいところであった。
だが、その危険度ゆえに、怪我人や死人が出ないよう、慎重に何度も狩猟の方法について説明を繰り返しているのだ。
「囮のヴォルフがまず、森林地帯で角研ぎしているゼインロングに攻撃を仕掛け、やつらを引き付けながら、この罠のある場所まで連れてくる。ヴォルフ、場所はキチンと覚えてるか?」
「は、はい。角研ぎしてる所から三
事前の二人での偵察行で、罠のある場所までの誘導目印を木々に取り付けておいた。
ヴォルフはその目印を頼りに尖角凶竜ゼインロングを誘導することになっているのだ。
「誘引中は焦っているから、目印を見落とすなよ。冷静に落ち着いて神経を研ぎ澄ませ」
「は、はい。頑張ります」
緊張こそしているが、初日に見せたような怯えた様子を見せなくなったのは、偵察中に群れの中に侵入して間近でゼインロングを観察したことも大きな要因であった。
そこでヴォルフは、その巨体のせいで尖角凶竜ゼインロングの足元にまで視線が届かないことを発見しており、誘引しながら逃げ出す際の成功の確率を上げるための方法を思い付いていたのだ。
イェスタもヴォルフが気付いた点を褒め、作戦の成功率が高まったことを確信している。
「次、ヴォルフが誘引に成功して、罠の場所にきたら、ヨランデ、レクは地底で待ち伏せ、俺とノエルは地上の隠れていた場所から下に落ちた尖角凶竜ゼインロングにトドメを刺していく」
「ああ、任せておいてくれ。前回はノエルに全部持って行かれたからね。今回こそ、ボクが成果を頂くよ。囮役で頑張るヴォルフには申し訳ないけどさ」
「い、いえ。僕は僕にできることを全力でやるだけですから」
「そうだ。レクも全力でやらないと今度はオラが成果を持って行くかも知れないぞ」
「ヨランデにはやらせないよ」
尖角凶竜ゼインロングが罠にかかれば、得意の機動力を発する足を奪われ、その上、毒が身体中に回って弱っている状態に陥っているはずなので、レクとヨランデ、そしてイェスタとノエルの攻撃が加えられれば、落下ダメージを含め、かなり狩猟が楽になると思われた。
幾多の死人を出しているゼインロングを三部下位の猟団がまとめて数頭狩ったとなれば、前回の睡冠凶竜インドスクスの討伐以上の驚きを持って迎えられることになるであろう。
そんな、期待感が猟団のメンバーたちの間に広がっていた。
少しだけ浮ついた空気を引き締めるようにイェスタが咳払いをすると、一言だけ発する。
「狩猟は水物だ。作戦通りいくとは限らない。しっかりと気を引き締めて、突発事態にも対応できる心構えで狩猟に当たれ! いいな」
「「「「はい」」」」
イェスタの忠告にメンバーたちは気を引き締め直し、返事をする。
「よし、じゃあ狩猟開始だ!」
気を引き締め直した所で、各自が所定の位置の散っていき、尖角凶竜ゼインロングの狩猟が開始されることとなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます