第11話

 ―酒場の二階のイェスタ自室―


 プリムローズの酒場の二階の角部屋を借りたイェスタは、備え付けのクッションの悪いベッドに寝そべり、実戦で能力を査定したメンバーたちの育成方針を紙に書き出していた。


 モノニクス討伐後の反省会では、彼らのプライドをズタズタにするほどのダメ出しをしたが、あれくらいで折れるようでは、超越者として人類の敵である凶竜と戦う狩猟者ハンターとしてやっていくことはできないとイェスタは思っていた。


 それに、一見ポンコツ狩猟者ハンターの集まりかと思われたが、所属している奴等は腐っても狩猟者ハンターであり、欠点を補えるほど長所を伸ばしてやれば、どれだけでも成長を見せそうな気配も見せている。


 なので、その成長を助けるためのメンバーたちの実力の精査をしている所であった。


 イェスタが書き連ねる紙に書かれている内容は以下の物だ。


 ――レク 太刀使い――


 長所

 

 ・ソロの狩猟者ハンターとしての実力は突き抜けている。

 ・個人戦闘能力はかなり高く、主攻撃力としてかなりの期待ができる。

 ・トリッキーな動きを得意としているため、凶竜の意表を突く奇襲戦力としてもかなりの力を持っている。


 短所

 

 ・協調性ゼロで周り連携をしないため、一対多数だと苦戦する。

 ・自分が目立とうとするため、危なっかしい戦いが多い。

 ・やる気にかなりのムラが見える。


 育成方針


 狩猟者ハンターとしての実力は合格点以上なので、味方との連携を覚えさせて、自分の持つ攻撃力をさらに有効的に使えるように指導していく。


 話を聞かない場合はヨランデと組ませて中盤に抑えつけるのも手か? 


 上手く操縦さえできれば、猟団のエースという名に恥じない結果を出すと思われるので、奴の操縦法を見つけるのを優先する方針は変わらず。



 ――ヨランデ 槍使い――


 長所


 ・巨人族の特徴と装備を生かした高い耐久力を持つ盾役。

 ・戦力的に弱い者への配慮ができる。

 ・後衛への攻撃カットが上手い。


 短所


 ・攻撃面での指示判断が遅い。

 ・防御面に気をつかいすぎて攻撃力が不足気味。

 ・移動スピードが劇的に遅い。


 育成方針


 防御面ではかなりの頼りになる狩猟者ハンターだが、防御の意識が高すぎて攻撃局面での動き出しが遅く、好機を逃すことが多い。


 多分、後衛とコンビを組むのがノエルとヴォルフのため、二人を守ろうとする意識が働いていると思われるためだ。


 二人が安定すれば、前衛の攻撃指示の経験を積ませて、攻撃を受け止めつつレクとヴォルフを効果的に使える人材にしたい。


 俺の後任として猟団長に座るのは、性格的に落ち着いているヨランデの方がいいかもしれない。



 ――ノエル 弓使い――


 長所


 ・乱戦外であれば弓の腕は中々上手い。

 ・真面目な性格で指示には従う。

 ・ムードメーカーであり、気分が乗れば、周りの皆を盛り上げてくれる。


 短所


 ・乱戦になると、判断力がなくなり誤射をする。

 ・後衛としての位置取りが非常に拙い。

 ・失敗を学習しない。


 育成方針


 弓の腕は悪くないが、後衛としての基礎がまったくできてないので、立ち位置、ポジション取りを教えて、乱戦に巻き込まれないようにさせて後衛として機能させるのが最重要。


 最重点の育成要員として集中強化するべき人材。


 こいつが育たないと、他の育成計画に支障がでるので、至急取り組むべき案件。



 ――ヴォルフ 剣盾使い――


 長所

 

 ・足が速くて気配を消せる。

 ・動体視力が良くて、凶竜の攻撃をきちんと捌き切れている。

 ・運動量はメンバーの中でずば抜けて多く、献身的に動ける。


 短所


 ・攻撃が効果的に行えない。

 ・凶竜を恐れている節が見え隠れする。

 ・自信がなさすぎて指示待ちになる。


 育成方針


 とにかく凶竜を狩らせて自信を付けさせる。


 攻撃面が伸びれば大化けを期待させる実力を持っているので、実力が伴えばレクの相棒として双剣にコンバートも視野に入れておく。


 案外掘り出し物かもしれない。



 その他、猟団で気になる点


 運営面


 ・ローランドが資金面を支えてくれると明言しているが、財務内容はかなり厳しそうな気もする。大型凶竜を狩るより、手間暇がかかるが確実に金になる中小型凶竜を狩って資金面の充実を行ってから大型へ挑戦した方がよさそう。


 ・猟団の人員もローランドの引退のため、教団維持最低人数である五人であるため、怪我や病気での離脱を考えると後一名の人員は補充しておきたい。


 ・猟団の安定維持のためにスポンサーの獲得。

 

 以上、イェスタが書き記している猟団のメンバーの育成方針や運営面での懸念事項であった。


 初の猟団長という重責を担うことになったイェスタ自身も、これまでは一介の狩猟者ハンターに過ぎなかったので、師匠であったマルセロの教えを思い出しながら指導に当たらねばならないことを再確認する。


「ふぅ、問題山積だな。というか、俺が猟団長というのも問題だと思うが……。引き受けちまったもんはしょうがねえから、みじめな結果だけは出さねえようにしねえとな」


 硬いベッドに寝そべり、自分が書き記した問題点を纏めた紙に目を通したイェスタがため息を吐く。


 華麗なる獅子王スプレンディッド・ライオンキングに所属していた時は、ただマルセロが用意してくれた狩場で、思う存分に戦うだけが仕事であり、フリーハンターになった後も、基本は自分の仕事を全うすればよいだけであったのだ。


 今回、猟団長という地位に就任し、他のメンバーの命を預かるという重責について少なからず重荷に感じていた。


 狩猟と繁栄の神ヴリトラムの祝福により、強靭な肉体と回復力を持つ狩猟者ハンターも、一歩間違えば、凶竜の餌として命を落とすこともあるのだ。


 けして、狩猟者ハンターだからと言って絶対に死なない訳ではない。


 年間、百名程度が新しく狩猟者ハンターとして登録されるが、それと同じくらいの人数の狩猟者ハンターが、凶竜との戦いで命を散らしていた。


「あいつらの命も護ってやらねえとな。護ってやるというのは、おこがましいか。だが、死なねえようにだけはしてやらんとな。そのためにはキッチリと訓練もしていかないと……俺自身も含めてだが」


 ベッドで寝そべりながら紙を見ていたイェスタ自身も、新たな領域への挑戦を前に緊張をしていたのであった。

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