第14話

 ―王都、テルジアン家の一室―


 王都に住む貴族たちも、うらやむような調度品が、ところ狭しと置かれた室内は、ろうそくの明かりが煌々と照らし、真昼の明るさを保っていた。


 そんな室内にしつらえられた大きなベッドにルイーズは寝そべり、マルセロがハンターギルドから手に入れてきた、イェスタが来季所属する辺境の狩猟者フロンティア・ハンターの財務内容について書かれて資料に目を通していた。


「思った以上に財務内容が悪いわね。ハッキリ言って、今季で解散しないと来季途中で運営資金が尽きるわよ。この猟団は……。それにイェスタが加入して稼げるようになっても、借金の利息の返済だけで年間数千万ガルド出ていく。そして、この猟団には、もう借財の担保とする物もないとまで来たら、詰んだも同然ね。なんで、こんな猟団選んだのかしら。まったくもう」


 ルイーズはイェスタが猟団長を務める予定の猟団の内情を、資料から読み解くにつれて、不安が増大していた。


 数年間、行方不明となりフリーハンターをしていたイェスタが、三部とはいえハンターギルド公式猟団の狩猟者ハンターとして戻ってくるのに、その猟団が来季確実に潰れるという運命を背負っていると分かると頭を抱えるしかない。


 ベッドに横たわり資料を読んでいるルイーズは何としても、イェスタをマルセロの猟団に戻したいと思っていた。


 そして、数年後に定年を迎えるマルセロの跡を継いだ、イェスタを隣で支える自分の姿を何度も夢想しているのだ。


 自分が初めて憧れた男性であり、自分にだけ弱い姿を見せてくれる愛しい人と人生を共に歩む姿を想像すると、ルイーズの心は喜びに沸き立つ。


 だが、その夢も来季途中で、イェスタの所属している猟団が解散してしまえば、彼が再び公式猟団の狩猟者ハンターに戻ることは、今回のマルセロとのハンターギルドの件で絶望的だと思われた。


(そんなことになったら、私が耐えられない……。こうなったら、マルセロに内緒にしておいて、お父様から出資を仰ぎ、あの猟団ごと私が買い取らないと……。このチャンスを逃したら彼の隣に居られるチャンスは永遠に来ない気がするわ)


 ルイーズはイェスタへの恋心を隠して常に接していたが、絶頂期のイェスタの狩猟を一度だけ生で見て、彼の華麗な戦闘に魅了されてしまっていたのだ。


 それ以来、常に女性関係以外の私生活がだらしなかったイェスタの世話を自ら買って出ており、猟団関係者からは公認の仲として認められていて、あのまま、彼が怪我しなければ、父親に紹介して結婚までしていたかもしれない。


「このままじゃ、すべてが水の泡だわ。マルセロは見守れと言ったけど、お父様の商会の力を使っても、潰れかけの辺境の狩猟者フロンティア・ハンターへ資金注入をするくらい、許してもらえるわよね」


 ベッドに紙の資料を投げ捨てたルイーズは、すぐさま父親のいる書斎へ行こうと考えたようで、寝巻の上に一枚羽織ると、部屋から出ていった。

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