49 大西洋へドリルを向けよ
結論から言えば、トラックはDRLなのだ。
昨今のWEB小説――いま読者諸君が閲覧している『カクヨム』もそうだ――において、トラックに轢かれることで異世界へ転移あるいは転生した話は枚挙にいとまがない。
これだけ数が多ければ、中には本作のように実話に基づいたフィクションを描いたものがあっても不思議ではない。
既に幾度となく述べたが、DRLは異なる世界同士の境界を薄める機能を持つ。
逆説的に言えば“異世界に通ずる道筋手段はすなわちドリルである”と言える。
ゆえに、人を異世界へと送り込むトラックはDRLである。
彰吾のケースは偶然が重なった結果だが、必然とも言える。
DRLを体内に吸収した彰吾は自己と他事物との境界がきわめて曖昧な状態となっていた。
そこへ同じDRLであるトラックが衝突したことで、人の身でありながらラ=ズがごとき物質との完全融合を果たしたのである。
『――――ってこと』
絶句する一同に対し、彰吾はひとしきりの説明を終えた。
「……そんなこともあるんだね」
物質と融合する感覚が理解できるラ=ズの虎珠や嵐剣丸を除き、どうにかついてきたのはノクスだけだ。
夕季は相変わらずの
しかし状況は悠長な沈黙を許さない。
実に“どんどん生えてくる”と表現すべきである。
「ど、どうしよう!?」
「……アトランティスを倒さない限りラ=ズの出現は止まらない……いまアトランティスと戦っている
ノクスと刻冥が口にした『決断』とは、この地を――自分の故郷を捨て敵へ向かうことだ。
旭に対して暗に問うた二択は、彼女たちが持っていた迷いでもある。
少年は固唾を呑み、拳を握り締める。
そんな彼の上着の裾を引っ張って、虎珠が上空を指さした。
「
空に小さな三角形の影が見え、大きくなってくる。急速で近づいてくる。
何者かの操るパラカイトだ。旭たちの頭上に至り、カイトから人影が飛び降りた。
音もなく着地した後ろ姿。
セミロングの黒髪は濡れるような艶があり、ぴったりとした薄墨色のボディスーツには豊かな曲線を描いている。
誰かがその“女”の名を呼ぼうと声を発するより
当然のように発生した真空の刃が、前方のラ=ズたちをまとめて両断!
「
妹分に名を呼ばれ、
「ここは私と山防人が引き受けるわ。あなた達はお
ほどなく数機のローター音が空を埋め尽くし、対螺卒装備に身を固めた戦闘員が次々と降下してくる。
展開する部隊に無線で指示を出しながら、明は一巻の巻物を夕季に手渡した。
「白山に残されていた穿地
不意の“任され”に、ノクスは素直にうなずいた。
『それじゃ行ってくるわネ、明。みんな、アタシに乗り込みなさい』
彰吾が自らの扉を開き、仲間たちを座席へ招く。
改めて彰吾がトラックになってしまった事実を突きつけられ少しためらう旭と夕季が「グズグズしないの!」とせかされた。
「帰ってくる場所にしておくから、必ず戻って来るのよ。みんなでね」
「ありがとう先生!」
そう言って振り向いた旭に明はウィンクを返し、地中へと
「あらあら、先生だなんて――――小学校の
*
「いま地底世界を通るのは、きっと危険……準備ができ次第、
「じ、準備っていうと」
「ええ、私が持つDRLの改造よ。私と嵐剣丸は電身にDRLを使わないから」
「DRLの構造と
走行する
二人は例によって旭の両隣に位置どり、会話にかこつけて何かと旭に密着してきた。
車内は今や彰吾の体内だ。
どぎまぎする旭の様子まで手に取るように分かるが、この期に及んで――などとたしなめる気にもならなかった。
「大事なことだからもう一度説明するね……旭」
不意に膝の上に手を置いてきたノクスに、旭は「へっ?」と間の抜けた返事をしてしまうが、気を取り直して頷いた。
「アトランティスと
「しかしそれは簡単なことじゃない、いいえ、現時点では不可能に近い」
ノクスの説明に割って入り、夕季がこれみよがしに旭に体をくっつけた。
空いたもう片方の膝に手を置きながら続ける。
「パシフィス、メガラニカ、それにおそらくレムリアも――すでに三体のダイラセンがアトランティスと繋がっている。その上、
「だから……まずはアトランティスを“分割”する。それを可能にする切り札を、
「地底世界とアトランティスとの繋がりを断つことが第一目標。奴の本体と融合したダイラセンを切り離すことが第二目標。露払いの役目は私と嵐剣丸が負う。その後は虎珠と旭くんの出番よ」
「おう。コマ切れにしたアトランティスの野郎を喰っちまえってことだな」
威勢よく応えた虎珠に、彰吾は車載オーディオのスピーカーから問いかけた。
『そういうコトだけど、アンタ本当に意味わかってんでしょうね。あのアトランティスと捻利部界転よりも強く純粋な意志を持てなきゃ“乗っ取り”は成功しないのヨ? 言いたかないけど、こと純粋さに関してはドリル博士は手強いワ。あれはドリルが回っているところをいつまでも観ていたい――いいえ、自分がドリルであり続けたい、ってことだけをひたすら求め続けている。あの
「――――
『そう。そこまで解って、腹も据わってンのね。ならアタシも、アンタの
*
大西洋中央。
我々が知る限り大海原が広がっていたはずの場所。
いま、そこには白い石灰の陸地が
地底世界の黒々とした溶岩大地と対をなすかのような白の陸だ。
ラ=ズの死骸をも想起させる“新大陸”の中心に、金と銀に鈍く輝く一本脚の
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