14 男、立つ。
民生品のカーナビを改造した車載通信装置のモニターに『緊急事態』のアラートメッセージが表示されている。
助手席の夕季は“現場”から送られてきた映像を隅々まで拡大して確認を始め、後部座席の旭と虎珠も彼女の手元を見守る。
「夕季、どんなカンジ!?」
ハンドルを握る彰吾が、正面から目をそらさず問う。
「敵はおそらく一人。倒れた調査員たちの位置からして、現場の中心に突然現れたものと思われます」
「間違いなくラ=ズの仕業ね。も一度確認するけど、敵は一人?」
「はい。この映像が送られてきた時点では」
「ねえ虎珠。敵って、もしかしてこの前G大学で暴れてたラ=ズかな」
「だろうな」
話しているうちに、通信装置に新たなアラートが送られてきた。
内容を確認した夕季が、眼鏡のブリッジを押さえ眼光を鋭くする。
「城下市街地で”百鬼夜行”発生!」
「――とうとうやらかすつもりね! させないわよ!」
国道を走る彰吾の車が、一段と速度を増した。
後続する
そして、彼らの行く手を阻む者達が舗装道路のアスファルトを突き破り、地面の下から現れた!
「後方にラ=ズの集団が出現! 小隊規模の車輛型バグ族です!」
バックミラー越しに敵の姿を確認した彰吾は、彫りの深い顔に皺を寄せた。
「――思った通りね」
意識を向けるのは敵集団――ドリル暴走族の中心に構えるひときわ巨大なギガス族。
ゴングである。
山をそのまま縮めたような巨体の後ろから火を噴いて、地面を滑るように走っている。ロケット推進だ。
「グフーム! オマエら、オレサマと、たたかえ! 力、強いやつ、こい!」
猪鼻を模した胴体のスリットから白い煙を吐き出し猛るゴング。
率いるドリル暴走族はジリジリと彰吾たちの車に近づいてきている。
「夕季、運転代わって。“ご指名”が来ちゃったワ」
*
加速したSUV車と濤鏡鬼を追うべく、ドリル暴走族も勢いを増す。
ビビビビビ、と熊蜂のようなエンジン音がいっそう騒音を激しくして――集団の先頭が
ブレーキが間に合わない後続も巻き込まれ転倒。時は夏休み、盆も近い行楽シーズンに付き物の大規模交通事故である。
最初に転倒した先頭暴走ラ=ズのタイヤに刺さっていたのは、いくつかの小さなツブテ。
マキビシだ。
ドリル暴走族が目論見通り転倒したのを確認し、彰吾たちの車と濤鏡鬼は100メートルほど先で停車。
車から彰吾が降り、入れ替わりに嵐剣丸が乗り込む。
彰吾が片腕を上げて合図すると、車はアクセルをふかし八幡城がある市街地の方角へ消えていった。
車輛形態から四肢もつ人型へと変形して体勢を立て直した暴走バグ族に対し、濤鏡鬼も変形して対峙。
彰吾も少し離れた後方に仁王立ちだ。たすきでたくし上げられた袈裟の袖口からは、木の幹を思わせる太い腕。隆々とした筋肉が大きなコブを盛り上げている。
「グフーム! ジャマもの、いない! どっちが、強いか、ためして、やる! モチロン、オレサマが、つよいんだぞ! わからせて、やる!」
巨柱ドリルを携えた白い巨人を前に、ゴングが
「
腕組みした彰吾に、濤鏡鬼は三白眼をぎらりと輝かせて返答。
しかる後。
「ヴヴンヴンヴヴン!ヴヴンヴンヴヴン!ヴヴンヴンヴヴンヴン!!」
「ヴヴンヴンヴヴン!ヴヴンヴンヴヴン!ヴヴンヴンヴヴンヴン!」
「ヴヴヴヴヴン!ヴンヴンヴンヴヴンヴン!ヴンヴンヴヴンヴン!!!」
濤鏡鬼が発した爆音が、真夏の炎天下に響き渡る。
ただの空吹かしではない。音程とリズムを備えた旋律だ。曲名は『サザエさん』だ。
路上を爆走する
「山防人東海支部機動班特攻隊長、堀 彰吾!
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