36 絆!

 ♪夜中に部屋を抜け出して 深夜アニメを観てると

 とてもヤバい ものを 見・た・ん・だ

 

 ♪不意にに音を立てて 忍び寄る よく知らない女性タレントの実写パート

 これはミニコーナーで 後半パートでアニメに なると思っていた


 ♪大人は誰も笑いながら 予算の都合と言うけど

 私は ぜったいに ぜったいに 納得がいかない


 ♪アニメじゃない! アニメじゃない!

 なんかサルの形したスポンジを電話ボックスに詰め込むテーブルゲーム~

 ア・ニ・メ・じゃ・な・い!

 (知らないタレントが)笑っても怒っても悩んでも電話ボックスをバーストさせても興味ない! (ネェ?)


 *


「mAnmE……mI!」


 軽快ポップなアイドル・ソングに浮かされたホタルイカ型ラ=ズ達が、人型からイカ型へと姿を変えホールの床下へ潜る。


わよ!」


 彰吾の合図で夕季と嵐剣丸は上方へ跳躍しスポットライト外の暗闇に溶け込んだ。

 ステージから客席へ走り出した彰吾と濤鏡鬼を、床下のラ=ズ達が包囲する。肉迫した十匹ほどのイカが全方位から躍りかかってきた!


 濤鏡鬼が右腕の巨柱シールドドリルを横なぎに振るう!

 前方のイカがまとめて吹き飛ばされ、灰の塊となって客席にぶちまけられた。

 難を逃れた後ろのイカたちは彰吾に近づき。

 鋼のような筋肉から繰り出された両腕ダブル旋回ラリアートで同じく一括昇天!


「2階席のみんなー!」


 ノクスの呼び声に応え、ふたたびイカの群れが動き出す。

 洗脳音波イヴィルナンバーに踊らされ怯むことすら許されぬホタルイカ型ラ=ズたちが、狂ったような青い光を明滅させて押し寄せる。


 彰吾が「南無ニトロ!」と一喝すれば、濤鏡鬼はエンジンの爆音と共に全身から炎を噴き出し応答。

 真っ向から大群に突撃し――なぎ倒す、ち飛ばす、き潰す!


「3階席のみんなー!」


 この場を俯瞰ふかんする者が居たならば、客席に打ち寄せる青い光の波を見るだろう。

 その青が、次々と石灰色の陣地ナワバリへと変えられていくのを見るだろう。



「あらあら劣勢。さすが彰吾君、すごいわ」


 ホールの最上階、来賓席にかけた異装の女が拍手する。

 青い光が次々と消えていくのを見下ろしながら、リビドは耳まで裂けた口端から鮫のような牙をのぞかせた。


 海棲生物のような外殻から伸びる白い腕がしなる。キィン、と金属が弾かれる鋭い音。

 続けて外殻の下から数条の触手が振るわれる。金属音が無数に響く。


 足元にバラバラと落ちる棒手裏剣には目もくれず、リビドはゆっくりと立ち上がって振り向いた。


「狙いが正確すぎて迎撃しやすい――昔のクセ、直ってないのね?」


 薄闇から現れた夕季が、苦無くないを構えてリビドを睨む。


めい姉ちゃんの記憶を――勝手に使うな!」

めいリビドよ? そんな風に感情を表に出すのは夕季らしくないわ」


 リビドが夕季の神経を逆なでする。

 階下あしもとではノクスの歌と彰吾の大立ち回りが続いているが、両者の間には無音無風の緊張感だけが張り詰めていた。


「うふふふ――懐かしいわね。、時にはこうして喧嘩したもの」


 その一言が合図であった。


「嵐剣丸!」


 リビドが座っていた椅子が突然裏返り、嵐剣丸が飛び出す。

 音もなく廻るドリルの一撃を、リビドは触手の尖端ドリルで受け流した。


 奇襲アイサツを皮切りに、リビドと夕季、嵐剣丸の姿がかき消えた。

 常人には目で追う事すらままならぬ“忍者の攻防”が始まったのだ。


 影とも旋風かぜともつかぬ三つの何かが幾度もぶつかり、その度に刃とドリルとが火花を散らす。


「ただの二人がかりじゃあ駄目だぁめ。あの虎珠みたいに“電身”くらいできなくちゃ、“お姉ちゃん”には勝てないわよ? 夕季はいつだって、わたしと彰吾君にはかなわなかったんだから」


 間合いをとったリビドが、手にした夕季のDRLをこれ見よがしにちらつかせてから胸の谷間にしまい込んだ。


 夕季の眼鏡の奥で凛とした眼差しが光る。

 既に確信を得た者の、あとはもう迷いなく進む者の眼である。


「やっぱり……お前は姉ちゃんなんかじゃ、ない! ! 私と、彰吾兄ちゃん、明姉ちゃん、そして――――!」


 夕季は牡丹色の大きなリボンをほどき、中から小石ほどの大きさをした鈍色の何かを取り出して。

 直径2cmはある角ばった塊を、ためらいなく口へ放り込み呑み下した。


 嵐剣丸が隣に並び立つ。

 見れば、左腕に備わるドリルの切っ先が欠けている。


 夕季が呑み込んだのは、嵐剣丸のドリルの“欠片”であった。


「ドリル忍法アーツ“電身の術”――――やるよ、嵐剣丸!」

「ユキ!」


 うなずく嵐剣丸の声は、ちょうど二十歳ほどの若い男のようであった。

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