19 大地をつらぬいた時
「「電身!!」」
二人の声が重なった時、真っ白い光が旭の全身を包んだ。
――否、旭の全身が光そのものとなった!
光となった旭が虎珠の胸部で輝く円錐形の結晶に吸い込まれる。
旭も虎珠も、それぞれの身に起きている変化をにうろたえることはなかった。
なぜなら、これが“声”から授かった
肉体をプラズマ化することで同次元の物質と融合を果たすのが、ラ=ズのツクモガミ現象である。
電身はその逆――ラ=ズと
「少し
電身の影響は、すぐに旭と同化した虎珠の
三頭身のフォルムであった短い手足と胴体がわずかずつ延びる。
少しだけ人間に近づいたシルエット。
相対的に小さくなった頭部は、それまでよりも精悍なイメージである。
「うん、
虎珠の脳裏で旭の声が響く。
少年の意識は、ラ=ズの中にはっきりと存在していた。
「いままで俺たちは、電身の機能の一部を使えていたに過ぎない」
何もなかった背面に、すり鉢状のノズルが四基“発生”。
青白い炎が一度、そこからボウと放たれた。
「だから……完全な電身を使えるようになった今!」
両肩に備わるドリルの基部も変形、
「一心同体になった俺たちは、
正面に
電身を果たした虎珠の背部ノズルが青白い火柱を噴き出し、全高1メートル・橙色の総身が残像をともなって真横へ飛んだ!
「なにが電身だーァ! 丸ごと喰らってやるまでよーォ!」
杭をかわした虎珠は空中。
そこへ杭を発射したのとは別の頭部が大アギトを開いて向かってきた。
上下2対の牙ドリルが禍々しく回転し、宙に身を投げ出した虎珠を噛み裂こうと迫る!
「二度も噛みつかせないッ!」
旭の声と同時に背部と肩部のノズルがバーニア噴射。
空中で体勢を立て直した虎珠は――そのまま前進!
牙ドリルの間をすり抜けて、大蛇の喉奥へと侵入した!
くぐもった回転音、そしてバリバリという切削破砕音が蛇頭の内部で次第に大きくなる。
大蛇の額が裂けた。
裂け目から小さな影――虎珠が飛び出した。
両腕に装着されたドリルの基部が、
トラックの荷台一杯の金物をひっくり返したようなすごい悲鳴と共に、オロチ・ジャラジャラの頭の一つが白い灰に還ってゆく。
地面に落ちた灰をバーニア噴射で吹き飛ばしながら、虎珠は着地した。
「
虎珠はドリルを廻す。
回転数を上げるドリルの刃が空気を焦がす。
一対の螺旋円錐が炎をまとった。
虎珠が気迫を音にして吼える。その声には、旭の叫びも
そして彼の、彼らの立つ足元を中心にして地面に渦巻き状の溝が刻まれ始めた。
渦巻き紋様の外側の地面が弾けて、地中に潜んでいたオロチ・ジャラジャラのドリルが幾条も伸び来る。
だが、すべてのドリルは虎珠に到達する前に先端から消滅した。
虎珠は微動だにしていない。ジャラジャラのドリルは、まるで空間そのものに捻じ切られるようにして千切れていったのだ。
「何……しやがったァ、テメェー!」
何も答えない虎珠に対し、ジャラジャラは狼狽する自分をごまかすように残った七つの頭を猛然と伸ばし牙を剥かせた。
虎珠は跳躍。
「旭、予定通りいくぜ」
「うん!」
腕のドリルが回転数を上げる。
まとった炎を後ろへ残し、急加速。
オロチ・ジャラジャラに残された蛇頭のうち一つに狙いを定め、眉間に突撃!
虎珠に潜り込まれた大蛇の頭が、首が、胴体が、先端から根本に向かってボコボコと沸騰したように醜く盛り上がってゆく。
侵入した虎珠が、内部をドリルで破壊しながら中心部へ掘り進んでいるのだ。
腹の中をかきまわされ、オロチ・ジャラジャラは断末魔の悲鳴をあげた。
虎珠が侵入口にした蛇首はすでに灰と化した。
残った頭部も表面の瓦鱗がボロボロと剥がれ落ち、隙間から白い灰がこぼれ始めている。
破壊は城の頂きに達した。
螺旋円錐をなした巨大ミィ・フラグメントゥムに亀裂が入る。
そしてついに、内側から虎珠が飛び出すと同時に砕け散った。
「コケにしやがって! こ、この、ジャラジャラ様を……覚えてろよォ、畜生!」
巨大ラ=ズとしての色を急速に喪ってゆく城の壁から、小さな影がひとつ弾き出された。
巨大ミィ・フラグメントゥムの力を失い、八幡城との融合が解除されたジャラジャラである。
このしたたかな野心家は圧倒的な敗北を喫するも諦めず、崩れるオロチの灰にまぎれ地中へと逃れようとしている。
「往生際が悪ィぞ!」
敵の遁走に気づいた虎珠は上空から急降下、ジャラジャラを追って地中へと潜った。
土中に伝わる振動を通して、ジャラジャラの気配を感じる。
敵の気配がどんどん遠ざかっていくことに、虎珠は不自然さをおぼえた。
「妙だな。どうしてあの野郎が俺より速い?」
「まだ、奥の手とか隠してるのかな」
「さあな……とにかく、今ここで見失うわけには行かねえ」
ドリルの回転にスラスターの噴射を併せ加速する。
虎珠と感覚を共有している旭は、これが初めて経験する地中潜行だ。
凄まじい速度は、掘り進むと言うよりも上から下へと落ちると表現した方が適切に思えた。
それでも距離が縮まらないジャラジャラの気配に、どうにか追いつこうとして――――二人は、とつぜん天地がひっくり返る感覚をおぼえた。
自分がいつの間にか『落下』から『浮上』していることに気がつくが早いか、虎珠のドリルは地表に達した。
「ここは……?」
呆気にとられた旭の声。
掘り
「少なくともあの
虎珠はゆっくりと辺りを見渡す――懐かしい風景だ、と思いながら。
見下ろす先に真っ赤な溶岩が流れているのを見て、虎珠は確信した。
「間違いないな。ここは“地底世界”だ」
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