53 ドリルとは

 ドリル宇宙は激しく渦巻いている。

 螺真王ザ・パンゲアアトランティスと無間虎珠王メビウスこじゅおう、二ドリルのダイラセンが全力フルパワーでぶつかり合っているのだ。

 その力の余波は、周囲の空間そのものを撹拌かくはんしていた。


「消えろ」


 すでにおごりもあなどりも捨てたアトランティスが、純粋シンプルな殺意と共に四脚の大腿に備えた螺旋八卦炉はっけろを高速回転。

 回転ノコギリめいて廻る八方円盤が本体から切り離され虎珠王を狙う。八卦ソーサー!


「左右と下! 遅れて左上から来るよ!」

「まとめて撃ち落として!」

わぁってらあ!」


 旭とノクスの声に応えて、無間メビウス虎珠王が両手を広げる。

 左右の前腕から四基ずつ生えた細身のドリルが甲高い音を上げ、白い光を放ちだした。

 ドリルの基部になっている前腕の外殻そうこうが回転し、秒間1000発の光弾を放つ!


 を受けた八卦ソーサーは跡形もなく消え去った。

 間髪入れず、空間に針状ドリルが生成され虎珠王の全方向オールレンジを包囲!


「そんなモンが通用するか!」


 一斉に飛んできた針ドリルにも動じることなく、前方をガトリングビームの弾幕で消し飛ばし。背後を狙ってきたドリルは背中の連刃翼ブレードウイングで切り払った。


世界この星を覇する存在ドリルは二柱もいらぬ! ただ余だけがあるべきなのだ!」


 アトランティスが両腕の裏次元ドリルを“廻した”。

 巨大な上半身と同等の長さをもったドリルが刃のウズのごとく歪ませる。


「俺はセカイになんぞ興味はえよ!」

「アトランティス。捻利部ねじりべ……界転かいてん。お前たちの思い通りにはさせない――絶対に!」


 無間メビウス虎珠王こじゅおうの両肩に屹立する巨大なドリルが左右の腕へと装着された。

 回転すると同時にドリル刃が黒く染まり、赤方偏移の輪郭をまとう。


 人馬と聖獣は正面から激突!


 空を歪めるドリルと黒穴のドリルが交錯する。交錯する。交錯する。

 螺旋刃が何千と打ち合わされる。

 その一合ごとに、混沌たるドリル宇宙に新たな空間のが生まれていった。


「これほどのドリルを持ちながら、ドリルのあるべき姿に目を向けぬ。貴様のようななき者は実に度し難い!」

「覇者だのあるべき姿だのゴチャゴチャうるせえな。ドリルの方が俺から生えてただけだろうが」

「話にならん!」


 吐き捨てると同時に虎珠王と間合いをとったアトランティスは、額の二本角ドリルと胸の巨大衝角ドリルの尖端に紫電をまとわせた。

 三角形トライアングルに並ぶドリルの切っ先に球状の光が湛えられ、そこから正面へ流れ出た稲妻がアトランティスの5歩先で捻り合い、“ドリル光波フラッシャー”!


「ああ、、だな。だから俺とお前は、こうしてドリルし合ってんだ」


 無間メビウス虎珠王こじゅおうは両腕に装着していた巨大ドリルを二本とも正面へ発射!


魔破斗摩マハトマ! 突究獄電拳とっきゅうごくでんパンチ!!」


 左腕から放たれたドリルがガトリングビームの後押しを受けてドリル光波フラッシャーを正面から相殺!

 力を失い虎珠王ほんたいへ引き返す

 そして、あらかじめ左ドリルの真後ろにつけていたは健在だ!


 大技の直後でがら空きになったアトランティスの上半身へ必殺の右スパイラルが着弾!

 ドリル刃に封じ込められていた超質量が一気にエネルギーへと転じ、人馬の腰から上を丸ごと吹き飛ばした!


 虎珠王は即座に右ドリルを引き戻して身構える。

 アトランティスは、上半身を跡形もなく消し去ったでは倒せないのだ。

 見立て通り一瞬で元通りに再生してドリルを展開したアトランティスが、挑発の意図を含んで鼻を鳴らした。


「余は、そして貴様も、この宇宙くうかん接続しつながり終えている。そうだ。我々はのだ。もはや融合してどちらかが主となる以外にはない」

「テメーなんか喰いたかねえや」

「ならばこうして永遠に闘い続けるか!?」


 虎珠王はアトランティスを見据えている。

 眼差しが告げるのは“是”の一語。


「それがドリル生きるってことだから。俺とお前は闘い続けるんだ――!」


 これが、大螺仙ダイラセン無間メビウス虎珠王こじゅおうがたどり着いた三昧こたえだ。

 渾然一体、万物融合を本位とする“螺真王ザ・パンゲア”アトランティスに対し、虎珠王は果てしなく続く“矛盾たたかい”に真理ドリルを見出した。



 ――――螺・螺・螺・螺・螺――――



 渦巻く世界で無間メビウス虎珠王こじゅおうのドリルは

 万物破壊の賛美歌を、生滅せいめいの叫びを高らかに歌い上げる。


 背中に連なるやいばが伸びて、虎珠王の全身を巻くようにして包み込んだ。

 総身はたちまち全高2メートルの螺旋円錐戦闘用ドリルへと変形完了!

 ドリルに転じた虎珠王が廻る!

 円錐の底からはみ出した腕のドリルが螺導紋サークルを発生させ、斥力加速!

 混沌のそらぶ虎珠王ドリルは、螺導紋を幾重にも紡ぎ出して加速を重ねる。


 亜光速に至った大螺旋ドリルの尖端がアトランティスへ至り!

 叩きつけられた超天文学的スケールのエネルギーにより、己を神とさえ自称したドリル人馬アトランティスを頭頂からひづめの先まで完全に粉砕した!


 となり霧散したアトランティスが、テープを巻き戻すように再生を開始する。

 その刹那へ、虎珠王ドリルは再び突撃!


!」


 破壊のエネルギーそのものと化した虎珠王と、自身の再創造を行おうとするアトランティスはもつれあい、黄金色の二重螺旋となった。


「これは――ッ!? 融合する“寸前”の状態をしようというのか! この“臨界状態”を保ち続ければどうなるか理解して――」

「往生際が悪ィぞジジイ! もっとも、!」

「貴様……! 理解不能わからんッ! 何がしたいのだ、貴様は!?」

「分かんねえだろうな! だからなったんだよ!」


 二重螺旋は回転ドリルしながら上下左右も判然としない空間の深みへと落ちて――いや、

 混沌渦巻く生まれたばかりの宇宙に無量大数の捻れを、うねりを、渦にをもたらしながら、どこまでも掘り進む!


 これこそが世界の有りようだ。

 果てしなく相克を続け。

 決して交わることのない螺旋が、深みへと、深みへと、深みへと続いてゆく。



 ある者は、それを“”と呼ぶだろう。



 *


「どこまで行くのかな、僕たち」

「きっと、……私たちみんなで、いつまでも」


 無間むげん旅路たたかいの中、道連れにした少年と少女の声が聴こえる。

 運命を受け入れた穏やかな声音であった。


 無間虎珠王じぶんたちの中には、いま永遠の友情なるものが在るのかもしれない。


 そんなことを思って、虎珠は胸の内に宿った友に――旭とノクスに告げた。


「俺は野郎アトランティス一対一サシでやりあい続ける。な」


 、と虎珠は言った。

 虎珠王とアトランティスの両者が闘い続ける限り、決着がつくことは永久にない。

 それを理解した上で、それでも虎珠は倒れるまで、と言い。


 そして、とも言ったのだ。


 その言葉の意味に真っ先に気付いたのは旭だった。



 旭が何かを叫ぼうとした。

 声を発するよりも先に、プラズマ化した自分とノクスの意識が不意に浮かび上がる感覚。

 次いで響いた刻冥の声に、ノクスは息をのんだ。


「ノクス。あなたに命、返すね。同じミィ・フラグメントゥムの私は虎珠と存在が近すぎたみたい。間もなく、意志ちからが強い虎珠こいつに全部任せることになる」

「覚悟はある? なんて言っておいて俺に混ざっちまうってか――へっ、ぜ。刻冥あんたが一緒ならよ」


 旭とノクスは必死に抗おうとするが、絶対的な浮力がそれを許さない。

 虎珠王の内にあるアンチDRLがドリル宇宙を他の世界から完全にとしているのだ。

 虎珠王の中に居る二人にはそれが判り、その意味するところも解る。


「虎珠! そんな……!」

「刻冥――イヤ、私、そんなのイヤだよ!」


 生身の肉体であれば、きっと二人は涙を流していただろう。


 だが、プラズマ化したままの少年と少女は涙を流せない。

 ラ=ズと同じように、涙を流すことはできないのだ。



「あばよ、旭」「さようなら、ノクス」



 旭とノクスの視界いしきが急速に白んでゆく。

 地上世界の住人たる少年と少女は、としてドリル宇宙せかいからはじき出されてゆく。


 深みへと進み続ける二重螺旋が。無間虎珠王ともだちの背中が、下へ下へと遠ざかってゆく。


 そうして、旭とノクスは地面の上へとした。

 最後に叫んだ「また会えるよね?」の返事こたえは、ついに聞けぬままで――――

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