02 ラ=ズの虎珠(とらたま)

 ガキィ! と、金属同士がぶつかる音が林にこだました。


 初撃の飛び込み突きを弾き返され、小さなロボットは舌打ちしながら着地。

 濤鏡鬼と呼ばれた巨大ロボットが柱のような右腕を反撃に振るってくる。これを素早くかわし、木々を足場に跳躍を重ねて立ち回る。


 両者の攻防を食い入るように見つめる旭は、小さな“彼”の動きから猫科の肉食獣を思い起こしていた。


 獣のような激しさ。

 機械のような冷たさ。

 勇敢な戦士の熱さ――そう、熱さだ。


 旭は、ポケットに入れたあの物体オブジェクトが熱を帯びているのを感じた。


 そして、何かを感じたのは旭だけではなかった。


「なんだ!? 体がやけに熱くなりやがる!」


 巨人の猛攻をしのいでいた小さな戦士が、自らの身体に異変を感じて動きを止める。

 絶好の隙を逃さず、濤鏡鬼の右柱腕が強烈な突きを放つ!


 胴の真芯に直撃を受けた小さなロボットは、ボールのように吹っ飛ばされて旭が身を隠す大木に叩きつけられた。


「大丈夫!?」

「あ……? なんだ、お前。もしかしてお前が何かやったのか?」


 小さなロボットは苦痛をこらえるように体を起こしながら、駆け寄ってきた少年を見た。

 大きな頭に相応の大きな両目がごく自然に動いたので、旭は彼のことを作り物ロボットとは思えなくなってきた。


「え、わかんないけど……もしそうだったら……ゴメン、僕のせいで」

「謝んなよ。俺が間抜けだっただけだろ。お前は悪くない」


 そう言って、小さな戦士は跳ねるように立ち上がる。

 口にあたる部分はマスクのような形をしているが、微笑んでいるように見えた。


「それに、この熱さだって――悪くない。お前、なんてんだ」

「旭。えっとね……人間の、穿地旭だよ」

「ん。俺は虎珠とらたま螺卒ラ=ズの虎珠だ!」


 虎珠は再び濤鏡鬼に向き直り、両腕のドリルを構える。


「がんばって、虎珠!」

「おうよ、旭!」


 たった今できた奇妙な友達を応援する旭は、ポケットの中ではっきりと熱を持つオブジェクトを取り出した。

 螺旋円錐ドリルを向い合わせにした形のオブジェクトは、ひとりでに淡い光を放っている。


「へへへ、なんだいこりゃ。熱い。熱いぜ、俺のカラダが! 力がみなぎってきやがるぜ!」



 ――ふんが――――ギュオオオオオオン!



 勢いづく虎珠に対し濤鏡鬼は「調子に乗るな」と言わんばかりに、右腕の巨柱を激・回転!

 濤鏡鬼が誇る円柱状の巨大腕は、全体がシールドマシン型ドリルであった!


な。上等だ」


 虎珠が高揚を隠しきれない声音で応ずる。


 すべての螺卒ラ=ズは、その身に必ずドリルをそなえている。

 彼らが持ちうる最大の力たるドリルを回転させることは、往時の武士にとっての抜刀とほぼ同義なのだ。



 ――ふんが――――!



 叫ぶ濤鏡鬼。



 ――が―――――――!



 その場で叫び続ける濤鏡鬼。



 ――――――!!



 まだ叫ぶ濤鏡鬼。



「長くねぇか、お前」



 虎珠が訝り、濤鏡鬼を改めて観察する。


 どうやら目の前の巨人は、苦悶して声をあげているようだ。


 それに気づくが早いか、濤鏡鬼の柱状シールドドリルは地面に突き立てられ――荒ぶる巨人は地中へと逃れていった。



「どうしたってんだ、一体。悪い鉱石モンでも食ったのか?」


 肩透かしをくらった格好で、虎珠は両のドリルを肩に収める。

 危機が去ってすぐに、旭が目を輝かせて駆け寄ってきた。



「ねえキミ、何者なの? こんな風に喋れるロボット居るんだね!」


「何だよロボットって。さっきも言ったろ、俺は螺卒ラ=ズのノマル族。虎珠とらたまが名前。わかったか?」

「ラ=ズっていう……ロボット?」

「ラ=ズはラ=ズだ。俺からすりゃ、お前のがわかんねぇよ。全体的にふにゃふにゃしててよ。それに――」


 虎珠は、周囲の木々と頭上の青空をぐるりと見渡した。

 いかにも珍しいものを見るような眼差しである。


「――なんだ、ここは」


「G県M市だよ」

「どこだそこ。県? 日本? 知らねえなあ」

「えぇー……どこからセツメイすればいいのか分からないよぅ……困ったなぁ」


 わざとらしい困り顔で頭を抱える旭を見上げながら、虎珠は――俺はきっとお前の5倍は困ってるけどな――と思った。


 他にすることもないので暫く旭がウンウン唸って困るのを見ていると、少年はようやく閃き顔に切り替わり。


「こんなときの蜜択みったく和尚!」


「ミッタクオショー?」

「人名!」

「……そいつに相談するって事か。信用できるヤツなんだろうな」



「えっとねえ、変な人だよ!」




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