48 少年よ、内なるドリルに耳を傾けたまえ
ひび入った舗装道路に人波が寄せる。
断続的に発生する巨大地震の影響で家屋が倒壊し始めたため――人々が逃げ惑うわけはそれだけではない。
一時期、ごく限られた地域で噂になった“都市伝説”が街中いたる所にやってきたのだ。
誰が呼んだか、現代の“百鬼夜行”。
家具、電化製品、日用品、乗用車――ありとあらゆるモノが次々と意思を持った怪物になり、周囲をドリルで破壊し始めている。
遂に日本にも。旭が住むM市にも
地上を我が物顔で跋扈するラ=ズたちは天変地異の象徴であった。
しかし。
逃げる住民を蹴散らしながら跳ね回り、口吻ドリルで手当たり次第に穴を開けるイナゴ型ラ=ズが不意に動きを止め、石灰の塊となった。
周りで暴れていたラ=ズも次々と動きを止め灰に帰していく。
ラ=ズの中でも少々知性を持つ連中は首をかしげた。
首をかしげた後、同じように足元から音もなく突き立てられた錐状ドリルによって絶命した。
ひび入ったアスファルトをやぶり地中から現れたのは影色の
その隣、何もない空間に
「……出てくるラ=ズを倒していてもきりがない……どんどん地底世界から補充されるもの」
「「一刻も早く、こちらから打って出なければ」」
緩やかな坂になっている国道の
人々を追い立てるのは巨大オケラだ。
迎撃に向かおうと身構える二人は、人波に逆らって坂を駆けあがる少年の姿に気が付いた。
たった一人の少年――
「
力いっぱいの叫びに応え、旭の目の前でアスファルトが弾けた。
飛び出した小さなラ=ズの背中にプラズマ化した旭が吸い込まれる。
阿吽の呼吸で“電身”した虎珠はオケラの頭上で
両腕のドリルで脳天から尾の先までを一息に貫いた。
電身を解いた旭に、夕季とノクスが口々に名を呼んで駆け寄る。
昨晩目にした時よりも心なしか背丈が伸びて見える旭は、二人と傍らに立つ虎珠に頷いた。
「昨日の夜、お父さんとお母さんに全部話したんだ。お母さんは彰吾さんと同じことを言った。お父さんは、どう言っていいのかわからない顔をして黙ってた――たぶん、僕もお父さんと同じ顔をしてた。それで、迷いながらだけど――僕の気持ちを正直に言ったら、お父さんは“そうか”って、言ってくれた」
「旭は……なんて言ったの?」
「僕は、戦う」
答えを聞いたノクスが、ずっと見守っていた夕季が、嵐剣丸が。
そして虎珠が、彼を見た。
気のせいなどではなく、少年はたしかに一回り大きくなっていた。
「他の誰かがやってくれるかもしれない。僕が戦うことを望んでない人がいるのもわかる。だけど、戦う。そうしなくちゃいけないって、僕が思うから」
旭が言い終わるが早いか、ラ=ズの新手がモコモコと周囲の地面から這い出してくる。
ふたたび電身しようとする旭とノクスを嵐剣丸が手振りで制した。
「二人とも。ここは私と嵐剣丸で食い止め――――」
「言わせないわよッ!」
とつぜん
勢いよく飛び出したのは大型トラックだ!
コンテナに荒波を泳ぐ熊の絵と南無阿弥陀仏の毛筆が踊り、きらびやかなライトが車体を彩る。せり出したバンパーの両端には円錐形の戦闘用ドリル!
ドリルデコトラである!
地中から飛び出したデコトラの運転席は無人だ。
シフトレバーとアクセルペダルがひとりでに動き、爆音あげて加速する!
躊躇なく突っ込んでくるデコトラを見て夕季は旭を抱いて路肩へ飛び退き、ノクスたちも後に続く。
道路に残されたラ=ズたちはまとめて跳ね飛ばしひき潰しされた!
“現場”から10メートル通り過ぎたところでデコトラは急停車、コンテナの後部ハッチが開かれた。
中からのそりと姿を見せたのは
「濤鏡鬼! ってことは、このトラックは」
「アタシよ」
デコトラが響かせる声はまぎれもなく彰吾のものだ。
旭は運転席へ駆け寄り、そこが無人であることに首をかしげた。
「彰吾、さん――? どこ?」
「ここに居るワ、旭」
「え、だって運転席には誰も居ないよ」
「みんな、落ち着いて聞いてネ――アタシ、トラックになっちゃった」
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