25 探検!ぼくのまち
旭が住むM市は、“うだつ”が設けられた歴史的な町屋が数多く残されている。自治体は特徴的な街並みを和紙などの特産品と共にPRしており、今ではちょっとした観光地になっている。
平生さほど賑わっているわけでもないが、それがかえって騒々しくなく生の暮らしを感じさせる落ち着いた街であった。
そこへもって非現実的な四人組が練り歩いている。
少年の腕をがっちりつかんで離さない美少女、その後ろをニヤニヤしながら歩く外国人の美女、身長二メートルのスキンヘッド。
景観の破壊者である。
「これ、大丈夫なのかな?」
いつもはペンダントにしているDRLを右手に振り子のようにぶらさげた旭が、半信半疑といった様子で隣のノクスに尋ねた。
「……DRLはムーのメッセージを受信するアンテナの役割を持つから、これが最適」
「へぇ、“ダウジング”とは考えたじゃないか」
言うまでもなく、ダウジングとは地中の鉱物や水脈を発見する際に用いられる伝統的な手法である。
ノクスが旭に行わせている“振り子ダウジング”は、地底世界から来たミィ・フラグメントゥムを探す手段としてはうってつけと言えよう。
「ところでノクス、そろそろ離れてくれない?」
ずっと腕に手を回してきているノクスに、旭は少し困ったように言った。
「イヤだった?」
「あの、えっと、歩きにくいし……あと、ノクスはお姉さんだから緊張するっていうか」
「そう……歩きにくいと危険、転ぶといけないね。わかった」
年長者を意識する旭がノクスを呼び捨てにしているのは、彼女自身からの申し出だ。
界天に引き取られるまでは海外で生まれ育ったから「ノクス=サンって違和感があるの」というのがノクスの言い分である。
実際、日本文化にエキゾチックさを感じるようで、道々の建物や土産物を眺める目は普段よりも輝いている。
「おっ、こんな所にドレスがあるのかい」
完全に探索というより散策を楽しんでいる風のヘレナが、ある店舗の店先に展示してある真っ白いウェディングドレスに目をとめた。
「それ、和紙で仕立ててあるのヨ。和紙のハンカチなんかは販売もしてるわね」
彰吾はそれから、慣れた口振りで地元の産業について簡単な解説もつけ加えた。
「……一万年も生きてるのに、ずいぶん珍しそう」
彰吾の話にいちいち感心してうなずくヘレナを、ノクスが訝るように見上げる。
当のヘレナは相変わらず飄々として、自分の頬にかかる美しい黒髪をかきあげながら言った。
「何たって、ここへ来るのは初めてさね。そりゃ“似たようなモノ”はいくらでも見聞きしちゃいるが、それは“いま見てるモノ”じゃあない。その辺カン違いしてると退屈で腐っちまうよ。気をつけな、お嬢ちゃん?」
「……また子ども扱い。それでも忠告は忠告として聞いておかなきゃ。うん、それが賢明」
少女は祖父に似た自問自答を口に出しながら頷いた。それを見てくしゃくしゃと頭を撫でてくるヘレナに、ノクスは頬を膨らませて抗議する。
と、二人を尻目にダウジングの方へ集中していた旭が「あっ」と声をあげた。
「回ってる――!」
ぶら下げたDRLが時計回りにくるくると振れている。
ダウジングが反応したのは、町内でも有名な旧い“うだつの町屋”であった。
「お手柄だねアサヒ。さぁて、ここから
「どうするつもり? 中に入るってんなら“
「いや、結構。どうやら悪いムシが憑いちまってるようだからね。表にいぶり出して迎え撃つ。坊や、構えときな」
ヘレナが地中で待機している虎珠に声をかけると、足元が少し揺れた。
「坊やって言うな」と怒っているようだった。
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