#5 魔法少女の説明

 レストランでの話し合いの後、早速玲央達が駐車場にあるバンへと向かっていった。

 このまま手塚が管理課まで連れて行くとの事である。躊躇なく乗り込もうとする玲央だったが、その背後で呼び止める声がしてくる。


「玲央、もし何かあったらすぐに連絡するんだぞ」


 兄の晃であった。心配そうに口にする彼に対し、玲央がジト目で振り返る。


「何いきなり?」

「だってお前、いきなり組織に入るって初めてだろうし、絶対色々と疲れるだろうし」

「大丈夫よお兄さん。管理下に所属している先輩や職員は皆優しいし、必ず彼女をサポートしてくれるわ」

「いや手塚さん、それはそうですけど……」


 手塚にそう説明されるも、晃はどこか納得をしていない。

 そんな兄に対し、玲央がため息を吐く。


「そんな事よりもアキ君、今日はステーキにしてよ。それとデザートはパイナップルで」

「ああ、分かった……っておい! 人が心配しているっていうのに!!」

「じゃあよろしくね」

「おい、玲央!!」


 晃の返事を待たずに、バンに乗り込む玲央。

 手塚は苦笑いしつつも、晃に「じゃあ行ってくるわ」と告げてバンを走らせた。そうして道を走っていく中、助手席に乗る玲央が外の風景を見渡している。


「あんなあしらい方でよかったの? お兄さん、あなたを心配していたんだけど……」

「別にいいんですよ。昔から心配性でしたし……」


 玲央は窓の風景を見たままそう答える。なお手塚からは、彼女の表情を窺う事は出来ない。


「それに夕食の方が心配ですからね。美味しいですし……」

「……なるほど」

「ん?」

「いや、どちらも素直じゃないなって……」

「……?」


 手塚が何か感じ取ったようである。

 しかし曖昧な言い方なので、玲央にその意味が伝わらなかったようである。もっともそれ以上は気にしていないか、すぐに外を見る彼女であった……。




 ===




 やがて二人を乗せたバンが、第六ウィッチ管理課へ到着した。

 中に入ると、昨日と同じように白衣の研究員が行き来している。その中を潜り抜ける玲央と手塚だが、その手塚が彼女に話しかける。


「さて彩光ちゃん、早速で悪いけど『ヴィラン』はご存知かしら?」

「ん? 怪人とか怪物の事ですか……?」

「まぁ、その通りね」


 手塚がある程度説明をする。すなわちヴィランとは、魔法少女と対極をなす異形の存在だとか。

 先日、マレキウムこと玲央が戦ったトカゲ型怪人や巨大ワームがそれであるらしい。特に怪人は知能を持っており、会話する事も可能である。

 その理由は、一応玲央も知っていた。


「ではヴィランはどうやって発生する? その辺は分かるかしら?」

「……いや……。ただ怪人は人間が変異したってのは聞いた事ありますけど……」


 あるニュースで見た事がある。某地区の公園にいたホームレスが突如として変異――サソリ怪人となって暴れまわったというニュースだ。

 それで怪人=『人間が何らかの原因で変異した存在』だと玲央は知ったのだ。彼女が怪物のようにらずに気絶させるのはその為でもある。


 ただ、何で変異したのかというのは意識した事もなかった。そう考える玲央に対し、さらに説明を続ける手塚。


「発生原因に関しては、管理課にしか知らない情報だからね。だから所属するあなたにも知ってもらいと思うわ」


 そう言いつつ、ある部屋に到着。扉を開けると、長方形テーブルが何個も並べられた部屋が広がっている。

 その席に、玲央が見知った顔がいたのだ。

 

「彩光ちゃん」

「あっ…………名前……何でしたっけ?」

「乙宗紗香だよ……」


 昨日出会った魔法少女――紗香がテーブルに座って待っていた。玲央に名前を忘れられ、ガッカリしてしまう彼女。

 なお昨日も着ていたラフな私服姿をしている。ワンピースであるが、それがまた素朴な彼女に合っており、可愛らしい印象を醸し出している。


「はい、これはヴィランに関する資料。今から流す映像と共に読んでいってね」

「ん?」


 手塚から薄い紙の資料が渡された。玲央がそれを受け取るなり、すぐに文を見てみる。

 すると、ある文字が彼女の目に入って来た。


「……『エヴォ粒子』?」


 目立つように書かれている一つの単語。それがエヴォ粒子だ。

 聞いた事のない名前に、思わず首を傾げる玲央。一方で手塚がリモコンを操作し、目の前に白いスクリーンを降ろしていく。


 なお玲央は気付いてないが、紗香が何故かいたたまれないような顔をしていたのである。


「今から教えるわ、エヴォ粒子の事を」


 暗くなっていく部屋。同時にスクリーンに光が入り、映像が飛び込んでくる。

 出だしには『第六ウィッチ管理課提供』と書かれたテロップ。そして映像が切り替わり……、


『おはようございます!! 私は第六ウィッチ管理課の魔法少女、乙宗紗香です!!』

「……………………」


 デカデカと映る、ローブ姿に営業スマイルの紗香。

 思わず紗香を見てしまう玲央だが、当本人がそっぽを向いてしまう。その一方で、資料映像から説明が聞こえてくる。


『この映像を見ている方は、まずエヴォ粒子を知りたいと思います! 今から手取り足取り教えますので、ちゃんと覚えて下さいね♪

 エヴォ粒子は、今から14年前――2003年の日本に突如発生した不可視の粒子で、特殊な赤外線センサーではないと目に見える事は出来ません! これが現れたその年には問題はなかったのですが、その七年後の2010年――その効果が現れ始めたのです!! それが皆さんの知っての通り、『魔法少女』と『ヴィラン』であります!!』

(……何か……幼児向け?)


 紗香のテンションや台詞から、玲央がそう思い出す。

 一方、隣では紗香が顔を赤くしているが、彼女はそれに気付いていない。


『エヴォ粒子に適合した女性が成長するにつれて魔法少女に、逆に男性が『怪人』になる傾向にあるんですよぉ。特に怪人は、悪意とかの攻撃衝動を持った人がなりやすいとか!

 この怪人がヴィランのカテゴリーの一つですが、他にも『モンスター』と言ったカテゴリーもあります! こちらはエヴォ粒子に適合した動植物が変異した奴ですね。さらにこれらが世代交代を繰り返し、いずれ巨大化するという研究報告もありますが、こちらは未確認ですので説明を省きますね。

 こんな感じでエヴォ粒子が分かって来たかと思います! さらに分からない事があったら管理課の人に聞いて下さいね! ではこれで失礼しまーす!!』


 ここで映像が終了し、明るくなっていく部屋。

 その途端、玲央が顔を手で覆っている紗香の姿に気付いた。見てみると頬が赤くなっており、余程恥ずかしい事がよく分かる。


「そんなに恥ずかしいなら、出演しなければよかったじゃないですか?」

「だ、だって……手塚さんが出演しなかったら『管理課のイメージキャラクターとして魔法少女らしい服装を着させる』って言われて……だから比較的楽そうな資料映像に……」

「それでここに連れてきたのも私の気まぐれ。赤くなる乙宗ちゃんを見たかったしね♪」

「嬉しそうに言わないで下さい!!」


 文字通りニコニコ顔の手塚に反して、泣き顔の紗香。

 なお彼女の口から出た『魔法少女らしい服装』とはいわゆるローブ姿ではなく、アニメらしい可愛いデザインの物と思われる。確かにそれを着れと言われたら、嫌でも資料映像に出演したくなると思う。


 玲央は心から紗香に同情をするのだった。この人はそれなりの苦労人であると。


「さて、大体の説明が分かったでしょ? このエヴォ粒子を研究する為に我々管理課があるという訳」


 ここで玲央に話しかける手塚。玲央が無言ながらも頷くと、さらに説明を続ける。


「そしてその解明のカギとなるのが、あなたのマレキウムという存在。その為にヴィラン退治をしつつ、あなたの秘密を解明する。この退治には報酬が付くし、悪い話じゃないでしょ?」

「確かにっすね」

「話が早くて助かるわ。そういう事で、同じ第六管理課所属の乙宗ちゃんと行動してね。魔法少女の手取り足取り教えてくれるから」


 そう言って紗香を示す。すると彼女が、自分の手を玲央へと差し伸べてきた。

 未だ赤くなっているが優しく微笑んでおり、どこか可愛らしい。


「これからもよろしくね、彩光ちゃん」

「…………」


 差し伸べられた手を、玲央はすかさず掴む。

 そして、


「あの……痛いんですけど……」


 加減を知らない玲央が思いっきりブンブンと振り、紗香を困惑させるのだった……。

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