#7 魔装討女マレキウム

「さて、どんないい声が聞けるかナァ? 楽しみだアアアア!!」


 触手に囚われた玲央が、オクトヒューマンへと引き寄せられていく。

 それは人質を取っているような状態でもあった。迂闊に手を出したらどうなってしまうのか――さすがの紗香も手を出せないのか、悔しがるような素振りを見せる。


「ハハハハ!! 分かっているだろうガ、動いたらこの女を絞メ殺ス!! そこで指を咥えて見てるんだナ!!」

「くっ、卑怯な……!」

「ハハハハ!! 吠え面かいてロ!! さぁ、どこから喘ぎ声を出してやろうかぁ、ああン?」


 玲央が纏っている純白の鎧に、触手が覆われる。

 巻き付かれる胸当て。さらに下半身には触手が入り込み、撫で回すような動かし方をする。先程の女性にしたやり方とほぼ同じで、玲央に凌辱を与える事を意味していた。

 こんな所で屈辱を味わされるのだ。玲央にとっては恥ずかしい所ではないはず。


 

 

 ……なのだが、


「……ン? 何故感じなイ……?」


 どんなに触手プレイをしても、玲央が喘ぎ声を一つ上げなかったのだ。

 不思議に思うオクトヒューマン。彼がさらに嫌らしく触手を纏わせるのだが、これといって進展はなし。

 

 この時、紗香は「あっ」と気付いたような表情をした。同時に玲央の頭が大きく振りかぶり……


「ウゴッ!!」


 頭突きをかましたのであった。


 それも一回ではなく、三回も。その度に金属特有の鈍い音が鳴り響き、オクトヒューマンを大きく怯ませる。

 その影響か、触手が玲央から離れていった。自由となった玲央がハルベルトを携える。


「パワードスーツを着けてますので、触手プレイとか感じませんから。《Slashスラッシュ》」


 ハルベルトの先端から光の刃が放出した。光の刃をオクトヒューマンへと振り回す玲央。

 それで一気に、オクトヒューマンの触手を斬り裂く。これで触手の奥の身体が丸見えになり、さらに攻撃の邪魔になる物がなくなった。


「お、俺の大事な身体の一部ガアアアアアアアア!! この野郎……ガァ!!」


 喚くオクトヒューマンに対し、玲央がまたもや頭突きをかました。

 大きく怯むオクトヒューマン。この時チャンスとばかりに、彼女の右腕が拳を作り出す。


「《Beatビート》」


 拳に青い光が纏われた。さながらボクシンググローブのように腕を包んでいき、甲高い音を放出させる。

 そしてオクトヒューマンへと、光の拳を勢いよく突き出した。


「ブッ!? グエエエエエ!?」


 光を纏ったストレートが、オクトヒューマンの腹へとめり込む。

 強烈な音と悲鳴と共に、回転しながら吹っ飛ばされるオクトヒューマン。さらに後ろにあったドーナッツ店の壁に直撃──壁に人型の穴を作り出した。


 ばら蒔かれるレンガと煙。表情が分からない玲央はともかく、紗香が唖然とした表情で見届けるのだった。


「……倒したのはいいけど……さすがにやり過ぎと思うよ……」

「……自分もそう思いますはい」


 さすがにこれにはやり過ぎたと感じてしまい、反省をする玲央。

 こうして変態怪人の退治は、店の破壊という無視出来ない被害で幕を閉じるのだった……。




 ===




「後で分かったけど、オクトヒューマンは女性の下着などを盗む泥棒が変異した物らしいわ。あの変態プレイもヴィラン化で調子乗った結果ね」


 学校の職員室のような場所がある。それが第六ウイッチ管理課に存在する教育員室だ。

 それなりの数のスタッフがいるのだが、今は休憩中なのでほとんどが出ていっている。残っているのは教職員の一人である手塚実と、オクトヒューマンを倒した玲央と紗香だけだ。


「そのオクトヒューマンは今何しているんすか?」

「管理課管轄の収容所に送っているわ。そこには他のヴィランも収容されていて、彼らを元の人間に戻す為の研究もしているの。あっ、怪しい人体実験はしていないから大丈夫」

「はぁ……」


 玲央の問いにそう答える手塚。

 未だ納得していないのか怪訝な表情をする玲央だが、面倒なのでそれ以上追及する事はしなかった。と、彼女の肩に置かれる手塚の手。


「今日はお疲れ様。こんな感じにヴィランを倒していってね。後それから、あなたに称号を与える事にするわ」

「称号?」

「エレメンターこと乙宗ちゃんの『魔光超女』と同じ物。魔法少女にはそういった称号を付ける義務……みたいなものがあってね」

(へぇー、そうなんだ……)


 そんな名前があったなと今更ながら思い出す。

 その玲央に対し、手塚は告げるのだった。


「『魔装討女まそうとうじょ』。今日からあなたは、魔装討女マレキウムよ」

「おお、かっけぇ」

「でしょう? まぁ、そんな訳でよろしくね魔装討女ちゃん。

 さて、今日はそろそろ帰っていいわ。乙宗ちゃん、出口まで案内させて」

「ああ、はい」

 

 指示された紗香が、玲央を連れて教職員室から出て行こうとする。

 手塚に別れの言葉を告げた後、長い廊下を渡る二人。そんな中で、玲央は帰った後の予定を立てようとしていた。

 

 まず帰ったら兄の夕食を食べる事にする。その後に風呂に入り、部屋で積んでいるプラモ制作、それが終わったらゲームの続き、録画したアニメの再生。

 そして夜更かししながらネットサーフィン。あの動画の続きとかWEB小説の積読攻略。当然兄のお叱りが来るだろうから、その時は寝たふりで誤魔化すしかない。


 楽しいひと時が待っているのだ。楽し過ぎて、思わず笑みが込み上げてしまう。


「フフ……フッ……」

「……あの、どうしたの?」

「あいや、何でもないです……」


 本当に口から出てしまったようだ。急いでそう返す玲央。

 ただ気持ち悪かった為か、紗香が怪しむような表情をしてしまう。その視線が物凄く痛いので、人付き合いに慣れていない玲央が思わず緊張してしまうのだった。


「……まぁ、別にいいけど。それよりも、これからは一緒に働く事になるね」

「まぁ、そうっすね」

「軽いなぁ……」


 苦笑をしながら、頭をかく紗香。

 そんな彼女だが、ふと微笑みを見せる。不愛想な玲央とは違った、優しい微笑みだ。


「彩光ちゃん、名前で呼んでもいいかな? 私の事も名前で言ってもいいから」

「名前?」

「うん、私とあなたは仲間だしね。名前で呼び合った方がいいかな……って」

「……いいっすよ」

「……どうも、玲央ちゃん」


 紗香のニッコリとした笑顔が、玲央を見る。

 玲央はその笑顔に対し、優しそうな人だと思うのだった……。

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