#9 新たな魔法少女アルティメア

「魔装……」


 今、玲央は強化ガラスの奥にあるルームにいる。

 彼女が変身ボイスを唱えると、瞬時にマレキウムへと変わっていった。それを確認したガラス奥の手塚が一声を掛ける。


『では彩光ちゃん、そこに三つの穴があるでしょう? そこから鉄球が現れるから破壊してね。回避してもOKだから』


 確かに玲央の前にある壁には、三つの穴が存在する。

 ただボールではなく鉄球である事に、思わず怪訝に思う玲央。


「鉄球っすか」

『マレキウムの装甲なら鉄球でも防げるしね。もし危なくなったらすぐに止めるから。

 では用意スタート』


 手塚のスタートコールが響いた時、一つの穴から鉄球が飛び出た。

 大体サッカーボール程の大きさか。いきなりだったので、まず玲央は回避。それから二発目に対し、ハルベルトで叩き落した。


 鉄球が粉砕し、バラバラになっていく。玲央は自分に迫って来る鉄球をハルベルトで壊し、壊し、壊し続け、さらにサッカーのように蹴りをかました。


 吹っ飛んでいき、壁へとめり込む鉄球。感心する手塚と静かに驚く藍だが、一方で痛かったのか蹴った足をプラプラと振る玲央であった。


『実験終了。ご苦労様、彩光ちゃん』


 ここで実験ルームに手塚達が入ってくる。振り向く玲央に対し、持っているタブレットを見る手塚。


「攻撃力は……数値がそれなりに高いわね。観月ちゃんとほぼ同じ位。それと回避能力も乙宗ちゃんより上で観月ちゃんよりも下。

 彩光ちゃん、あなた魔法少女の中でも指折りになれるかもしれないわね」

「へぇ」


『強い』と手塚に真っ向から言われたのだが、当の玲央は非常に無関心であった。


 あまりそういう事には興味を持たない人柄なのである。そもそも興味があるのはオタクな事と兄が作る食事の事位で、魔法少女に関してはあまり細かい事を気にしないタイプである。


「思った通りね。観月ちゃんと彩光ちゃんが組めば、どんなヴィランでも倒せる事が出来るわ。

 どう? 観月ちゃんにとっても悪い話じゃないと思うけど」

「断る」

 

 そう手塚が振るも、何故か拒否をする藍。

 その本人は顔を背け、実に嫌そうな表情をするのだった。


「私は一人で十分なんだ。他に戦力などいらない。それに……」

「それに?」

「魔法少女は誇りでいなければならない。それなのにこの女はどうだ? 誇りどころか、信念すら見当たらない。

 そんなふざけた奴に、私のそばに立って欲しくないのだ」

「「…………」」


 話を聞いて玲央はこう思う。面倒臭い人だと。

 十中八九プライドが高い人物なのだろう。気ままに暮らしてあまり細かい事にこだわらない玲央とは、全くの真逆である。


 ただ、一瞬『頑固キャラ』みたいだと思う程、玲央は彼女を苦手とは思ってなかった。


「そんな事を言わないの。その為にここに呼んだ訳なんだから……っと電話だ」

(呼んだ……?)


 その言葉に引っかかった玲央だが、質問する暇もなかった。手塚のスマートフォンから着信音が流れたからである。

「はぁい」と間の抜けた返事をして、電話に出る手塚。そんな彼だったが、次第にその表情は曇って来たのである。


「分かったわ。すぐに魔法少女をよこすわ。それじゃあ」

「……どうしたんですか?」

「ヴィランよ。それもカテゴリーはモンスター。場所はここ」


 手塚がスマートフォンの画面を見せる。

 画面に映っているのは、第六ウィッチ管理課とその周囲の地図。その管理課から北東の位置に赤い丸が生じていた。

 そこにヴィランが出現したという訳である。距離はそう遠くなく、マレキウムの身体能力で行ける距離である。


「ここに管理課の研究員が到着しているわ。その人達と合流して、モンスターを確かめてきて」

「モンスター程度なら私一人で十分だな。では行ってくる」


 そう言ったのは藍だ。すぐに玲央達が離れ、この部屋を後にする。

 残された玲央はそんな彼女を見届けていた。その一方で手塚がため息を吐きながら、「やれやれ……」と首を振っていく。


「彩光ちゃん、今すぐにあの子の後を追って。報酬は弾むから」

「はぁ……それよりもここに呼んだってのは?」

「ああ……実はあの子、よく一人で行動するし協調性がないから、よく他の魔法少女とトラブルを起こすのよ。プライドが高いから他とつるみたくないって言ってさ……。

 でも本当はがあるのよ。それを解消すればすぐに打ち解けると思う。だからここに呼んだって訳」

「ある理由?」

「帰ってきたら教えてあげる。ほれ、ここで話している間に彼女行っちゃうわよ。行った行った」


 手塚に急かされるので、やむなしに後を追う玲央。

 彼が言った本当の理由が気掛かりであるが、それは今の所は置いとくとする。今はモンスター掃討が先であり、そいつらを葬れば報酬が手に入る。


 果たしてどんなモンスターなのか。今の玲央はそれが気になっていた。




 ===




 手塚が指定した場所。それは商店街である。


 八百屋、魚屋、スーパー、肉屋。色んな店が立ち並んで繁盛している場所であるが、今はただならぬ雰囲気が纏っている。

 商店街の店員達が外に集まって、不安そうな面相をしていた。よく見ると全員が、地面にある何かを見つめていた。


「来たぞ」


 その一方、ある店の路地裏には白衣をした二人の研究員がいた。そんな彼らの元へと着地する謎の人影。 

 アルティメアこと藍で、すぐに変身解除。普通の私服姿へと戻っていった。


「ご苦労様です。今ちょうど住民の方がモンスターの死骸を集まってまして……」

「死骸だと……?」


 怪訝に思いながらも藍だったが、突然背後へと振り返っていく。

 着地しつつ変身解除した玲央の姿があったのだ。いきなりの登場で藍が驚くも、すぐに嫌そうな顔をする。


「何で来た? 一人で十分だと言ったのだが?」

「いや、手塚さんが一緒に行ってやれって……。それに給料が弾むって言ってくれましたし」

「……チッ、全くあの人は……。とにかくお前の助けなどいらん。さっさと帰れ」

「いや、今更言われましても……」

「いいから帰れ! 今は私だけで十分なんだよ!!」


 苛立ってきたのか声を荒げる藍。一方で玲央の方はあまり動揺はしていないのだが。

 なお突然の喧嘩(?)に研究員達も戸惑ってしまう。そのうち一人が何とか二人をなだめようとする。


「お、落ち着いて下さい……それよりも行きますよ」

「……チッ、了解……」


 納得行ってないようだが、それでも研究員の後を付いて行く藍と玲央。

 一人の研究員が真っ先に野次馬に駆け付け、「怪生物を研究している者です」と挨拶していった。ここで管理課とか言わないのは、管理課自体が公にされていない組織だからだろう。


 一方、野次馬の中からある物を発見し、目を丸く玲央。それは藍も同じだった。


「……これはネズミか?」


 何と獣の死骸であった。大きさは中型の犬程の大きさで、身体中には黄土色をした毛がびっしり生えている。

 さらに身体つき、長い尻尾、口から生えた出っ歯……藍の言う通り、その生物はネズミに酷似しているのであった。


「八百屋のおっちゃんがホウキで叩いて殺したんだって。何でも八百屋の野菜を盗もうとしたらしくて……」

「おうよ! 猫かと思って見てたら化け物ネズミだったからよぉ。こうやってホウキでバシバシと……」

「それだけじゃねぇ。昨日の夜も似たような奴を見たんだ。そうしたらお隣の肉屋の肉が奪われたって……」

「私、喫茶店の店長ですけど、椅子にかじられた跡があるんです。絶対こいつの仕業と思いまして……」

「それに俺、こいつよりも大きい奴を見たぜ。最初は犬かと思ったけど、あの姿から間違いねぇ」


 住民が研究員へと次々と言い出す。それ程に商店街への被害は尋常じゃないという事だろう。

 なおネズミ型のモンスターというと薄汚いイメージがあるので、玲央はあまりいい気持ちはしなかった。だがこれも仕事であり、我慢するしかないと思っている。


「ネズミ型のモンスター……か。となると群れでいる可能性がある……厄介だな……」


 藍が推測を口にする。確かにネズミは群れで行動するし、住民の報告からして一匹ではないようなので、複数いる可能性は非常に高い。


 それにある住民がこの死骸より大きい云々と言っていた。つまりこの死骸は子供で、これよりも大きいモンスターがいるとなる。

 面倒臭い事になりそうだと思ってしまう玲央。その傍ら、住民と話していた研究員が玲央達へと戻ってきた。


「住民の報告によりますと、お子さんが川近くの倉庫で遊んでいる途中に、あれと同じ個体を発見したそうです。川はあの道路を右に行けばあると」

「川近くの倉庫だな。ではすぐに向かうから、後はよろしく頼む」

「「了解です」」


 研究員へと伝えた後、藍がその倉庫へと向かおうとする。

 もちろん玲央も彼女と共に歩いていった。そんな玲央に振り向く藍が、不満に思ってそうな鋭い目付きをする。


「利かん坊だな……まぁいい、勝手にしろ」

「はい、よろしくお願いします」

「……調子狂うから、別によろしくって言わなくていい……」


 ため息を吐く藍だったが、気ままな性格な玲央はあまり気にしていない。

 かくして二人は例の倉庫へと向かっていく。その間にも今日の夕食はなんだろうかと、今とは関係ない事を考えふけている玲央だった。

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