#3 ワーム戦とその後

 少女は玲央よりも年上の印象があった。


 大体高校生くらいだろうか。身長は玲央よりも高く、顔立ちも整っていて綺麗である。

 顔や身体を黒いローブで包み込んでいるので、髪がほとんど見えない。その衣装や雰囲気から、まるで最終的なファンタジーゲームに出てくる魔法使いみたいだと玲央は思っていた。


「グオオオオオオオオオオオ!!」


 起き上がったワームからの咆哮。その時に飛び散る唾液が何ともいやしい。

 さらにぬたくりながらローブの少女へと向かっていくのだった。しかし回避する事なく、何かを呟く少女。


「我が敵を焼き尽くせ……《ファイアーバレット》!!」


 右手のガントレットから発生する魔法陣。そこから火球が放たれた。

 火球がワームへと向かって直撃。爆発する火球の中でワームが悶え、悲鳴を上げていく。


 玲央がその様子を見ていたが、急に思い出したように走った。なるべく安全な服売り場へと気絶した女性を起き、ひとまず安心する。

 

「……さてと……」


 ここから一気に攻める事に。玲央は持っている杖を、大きく投げ飛ばした。

 飾られているマネキンの間を通り過ぎ、少女と戦っているワームの方へと直進。ワームが気付く前に、その体表へと突き刺さる。


 悶えるワーム。直後、その個体の上に玲央が乗っかり、突き刺さった杖を手にする。


「《Slashスラッシュ》」


 杖の先端から放出する青い光。抉るように引き抜くと、先端から光の刃が出ているのが分かった。


「ピギャアアアアアアア!!」


 ダメージで悲鳴を上げるワーム。

 その化け物が怒り狂いながらも首を動かし、自分に乗っている玲央を狙おうとした。しかし彼女が腰スラスターを吹かし、後方へとバック。さらに壁を蹴り、ワームの頭部へと向かった。


 光の刃を放出させた杖を、頭部へと振るう。着地する玲央と、時間差で頭部を切り落とされるワーム。


 ワームの頭部と身体が地面に倒れ、力尽きていく。その様子を見て、玲央はおもむろにゆっくりと立ち上がった。


「……あなたがマレキウムね?」

「……!」


 声に振り返る玲央。するとそこに立っていた少女が、フード姿から変身解除していった。

 一瞬にして私服姿となり、今まで見えなかった髪が出てくる。きめ細かくも艶やかな黒い長髪で、綺麗な顔立ちとよく似合っていた。


「私は魔光超女まこうちょうじょ『エレメンター』こと乙宗紗香おとむねさやか。実はあなたに用があるんだけど……」

「…………あっ、はい…………」

「そんな警戒しないで。別に私はあなたの敵とかじゃないから」

「ああいや…………コミュ障ですんで……」

「あっ、うん……そうなんだ……」


 オタクゆえの宿命か、玲央はいくらかコミュ障になっている。

 意外な答えを突き付けられたせいだろうか。紗香という少女は、実に困った表情をするのであった……。




 ===




 その後、デパートの中に警察が殺到していく。例の如くここにおける後始末だ。


 彼らがそうしている間、デパートから走る白いバンがある。運転手は白衣の男性で、助手席には乙宗紗香という少女が乗っていた。


「ようやく会えてよかったよ、マレキウム。あなたの事は管理課の中では噂になっているわ」

「…………」

「これから向かう所は『第六ウィッチ管理課』という所。そこでは全国の魔法少女を研究していてね、私みたいに所属している魔法少女もいるんだよ」

「…………」

「……マレキウム?」


 返事がない。不思議に思った紗香が後部座席へと振り返る。


 そしてなぜ黙ったのかが分かった。玲央が箱から取り出したフィギュア片手に、まじまじと鑑賞をしていたのだ。ちなみにフィギュアはナイフを持ったロボットで、かっこいからか彼女から「ハアア……」とため息が聞こえてくる。


 それに彼女は未だパワードスーツ姿のままだった。車の中なので尚更怪しい。


「……あの……話聞いてた? それにまだ変身解除しないの……?」

「……ん? ああ、正体知られるのもあれですし、このままでいいのかなって……」

「ああそう……」


 実は魔法少女の正体をばらすのは、プライバシーの侵害とも言われてるらしい。だから紗香も食い下がる事はしない。

 その間にも玲央はフィギュアを眺めていた。たまに「ここリアルだわぁ……すげぇ」と独り言を出したりするので、耳に入っている紗香達が困り果てた顔をしている。


 数十分後、バンはある場所へと到着。玲央達が下りていくと、その全貌が明らかになる。

 

「ここが第六ウィッチ管理課だよ」


 そう紗香が示したのが、見上げる程の白い建物。

 さすがにビル程ではないが、それでも十分に大きい。周りには柵が生じられており、よく見ると出入り口には警備員がいる。


 紗香に連れられ、中へと進む玲央。なおパワードスーツ姿のままなので、建物の中に入っていくと、金属音が妙に響き渡る。

 綺麗なエントランスホールに、その中を行き来する白衣の男女。なお誰もが玲央を不思議そうに見つめるも、本人は逆にキョロキョロしていてあまり気付いていなかった。


 やがて二人がある部屋へと入る。扉には『教育員室』と札が掛けられており、中は学校の職員室とよく似ていた。


「ようこそ、我が第六ウィッチ管理課へ!」


 数ある机の一つに、ねじれ髪が特徴的な白衣の男性が座っていた。

 声質からしてオネェみたいだと玲央が思うと、本当にオネェ口調で話しかけてくる男性。


「私はこの第六ウィッチ管理課の教育員、手塚実てづかみのる。まぁ、魔法少女の指導係と思えば結構よ。それであなたがマレキウムね?」

「…………マレキウム……?」

「ああ失礼。マレキウムってのは、一ヶ月前に確認されたあなたへのコードネームのような物。あなたの事はその時から興味を持っていたのよ。

 全く見た事のない、パワードスーツ姿の魔法少女ってね」

「へぇー」

「へぇーって……」


 興味ないので軽く流すと、紗香が呆れるような表情をする。

 どうも魔法少女の中でパワードスーツ姿というのは、今まで確認された事のない希少な存在らしい。もっとも、玲央本人は一切気にしていないのだが。


「さて、色々と話したい事があるのだけど、変身解除しても大丈夫かしら? やはり生身で話し合った方がいいし、本人がよろしければ」

「解除ですか……? うーん……まぁ、いいか。じゃあ……」


 そう言って、マレキウムというパワードスーツ姿を解除する玲央。

 電子化しつつ消滅するパワードスーツ姿から、低身長の少女姿が出てくる。その途端、手塚や紗香から静かに驚く。


「そんな……パワードスーツの時と身長が違う……」

(えっ? そっち?)


 唖然とする紗香に、そこなのかと疑問を持つ玲央。

 彼女の言う通り、マレキウム状態と少女姿では身長が異なっている。もちろんマレキウム状態が高いので、中から低身長の少女が出てくるとは思ってもみなかっただろう。


 その玲央に戸惑いつつも、何とか平常心を保とうとする手塚。そんな彼が玲央へと椅子を用意し、そこに座らせた。


「さて、色々と聞いてもらうわ。こちらとしても大事な事だしね。

 まずは……名前は?」

「あっ、彩光玲央っす」


 名前を聞かれて、すんなりと答える玲央。

 その間にも手塚の目線がある物へと移っていく。それがマレキウムになる為の腕輪だったのだが、玲央がそれを知る由もなかった。

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