#24 ハーレム主人公のような男

 晃は大学において、SFサークルに入っているらしい。

 サークルのメンバーは男性がほとんどだが、一人だけ女性……いわゆる『オタサーの姫』がいたのである。その女性こそが、玲央達の前に現れた篠原琴音だそうだ。


「どうも初めまして、織笠夏樹です。玲央ちゃんの同じ学校に通っている者で」

「……ども……彩光玲央です……」


 琴音へと挨拶する玲央達であるが、玲央の態度がおかしい。

 これは彼女のコミュ障が原因である。親しい者が相手ならともかく、初対面の人にはこういった消極的になってしまう。


「どうも。二人とも、可愛いなぁ。彩光君はハーレム主人公だね」

「いや、それはおかしい」


 適当に突っ込む晃。一方で冷蔵庫の中を覗き、食材を探している。

 何をしているのか、玲央には一目瞭然だった。「鶏肉があるな……片栗粉は……」とも聞こえるし、確定的とも言ってもいい。


「二人お客さんが来ているし、よかったら夕飯食べてく? 唐揚げが出来るけど」

「あっ、いいの? じゃあ手伝うわ」

「すいません、いただきます」

「おう。じゃあ織笠さんは、玲央と一緒にゲームを片付けて待っててくれ。俺と篠原さんがすぐに作るから」


 そう言われて、すぐにゲームの片付けを始める玲央達。なおこの後は暇なので、先程持ってきたロボットアニメのBDを堪能しようとも思っている。

 ただ、玲央が無意識に琴音へと振り返ってしまう。それも作業に戻ってもすぐに振り返ると、どう見ても挙動不審である。


「……どうしたの、玲央ちゃん?」

「……あっ、いえ……」


 実の所、玲央自身でも分かっていない。ただ何となく落ち着かないのが分かっている。

 だが、それを聞いた夏樹が納得したような表情をした。しかもそのまま琴音へと尋ねる。


「篠原さんって、彩光さんと付き合っているんですか?」

「ん? ああ、残念ながら付き合っていないわよ。ただサークルの仲間って奴で」

「サークル内ではオタサーの姫扱いだからな。もし付き合おうとしたら他の奴に殺されるわ」

(……なんだ……)


 兄の言葉を聞いて、玲央はホッとする。

 それで(……何でホッとしたんだろう?)と思いながらも片付けを完了。すぐにBDを起動させてロボットアニメを再生させていった。


「夏樹さん夏樹さん、まずはこれを視聴をば」

「ん? おお、これがアニメ!? 幼稚園の頃から見てなかったけど、こんなにも凄いなんて!」

「そうでしょう? ちなみにこのアニメは宇宙を舞台にしていて、群像劇を重視していますね。おススメは、金髪の男の子が乗っている白い機体でして……」

「おお、これは凄い! たまらん!」


 他の客がいるのにも関わらずこの興奮。その姿に玲央がニヤッとする。

 唐揚げが用意される間、夏樹に数々のロボットアニメを紹介。シリアス、ギャグ、宇宙、金属海……あらゆる戦場と作風を持つ機人ロボットの戦いに、夏樹が魅了されていく。


 もちろん、これは彼女を取り込む為の玲央の策略なのだが。


「あの子達、何か楽しそうだね」

「まぁな。妹の方は色々とやんちゃだけどな」


 玲央達が熱狂している間、大人の二人がそんな会話をする。ただその際、琴音が晃へと意味深な視線を送っていたが、晃自身も玲央も気付いていなかった。


 そんな事がありながらも夕食が完成したので、玲央達は食事をしていった。それで食べ終わった頃には夜となって、もうそろそろ二人が帰る時間となる。

 晃が皿洗いをするという事なので、玲央が玄関で見送りする事になった。


「今日はありがとう、玲央ちゃん」

「大丈夫ですたい。それよりもロボットアニメどうでした?」

「もう最高だった! 何で今まで気付かなかったんだろうと思う位! テニスの合間に見とけば……あっ、すいません……興奮してしまって……」

「いいのよ。私もアニメが好きだから」


 興奮する夏樹だったが、そこで微笑ましく見ている琴音に気付いて赤面してしまった。

 琴音の方はあまり気にしていないが、夏樹の方は萎縮している。何となくその姿が可愛いと、端から見ていた玲央が思うのだった。


「まぁ、今日はBD貸しましたし、それで成分を補給して下さいな。感想は明日とかに聞きますので」

「うん。じゃあ玲央ちゃん、また明日」


 一緒になって外に出ようとする夏樹と琴音

 が、突然その琴音が足を止めるのだった。玲央達が不思議に思っている間、彼女が玲央へと振り返る。


「明日、良い事があるかも……楽しみだわ」

「……はいっ?」

「じゃあね、玲央ちゃん♪」


 呆然とする玲央と夏樹。そんな二人に対して、琴音がウインクしながら出て行くのだった。


「何だろう……?」

「さぁ……?」


 一体何の事なのか、玲央でも見当が付かない。

 良い事と言われても、思いつくのは明日の給食がカレーという事位だ。さすがにそれはないので、明日にならないと分からないのだが。


 と、そこに聞こえてくる着信音。それは玲央のではなく、夏樹のスマートフォンからだった。


「ん? 電話だ。もしもし……はい……大事な話? 玲央ちゃんはいますが……はい……。

 玲央ちゃん、手塚さんから。今スピーカーモードにするね」

「ん?」


 いきなりそう言われて眉をひそめてしまった。その間に彼女がスピーカーモードにすると、手塚の声が聞こえてくる。

 それも、いつもの穏やかではなく冷静な声で。


『あ、玲央ちゃん聞こえてくる? 実は二時間前、ある場所で事件があったのよ』

「事件? ヴィランですか?」

『十中八九そうよ。被害者は行方不明になっているけど、怪物を見たと目撃情報もある。

 ちなみに場所は『城南大学』。ちょうど玲央ちゃんの自宅から、ちょっと近い所にあるわ』

「それ、俺の大学だ」


 そう言ったのは、居間から顔を出した晃だった。玲央と夏樹が一斉にして、彼へと振り向く。


「ちょうどいいじゃん。だったらアキ君に案内させようか」

「おいちょっと待て、勝手に決めるな。……でもまぁ、身内がいた方がいいし、そうしますよ」

『ありがとう、彩光ちゃんのお兄さん。という訳で今日は遅いから、明日に調べてきてほしいの。もしかしたら魔法少女に気付いて釣って来るかもしれないし』

「分かりました」


 通話を終了させ、スマートフォンをしまう夏樹。

 一方で玲央が改めて兄を見た。いつも不愛想にしている顔に、不敵な笑みを浮かべながら。


「という訳でアキ君、見学指導よろしく」

「……はぁ。無茶はするんじゃないぞ……」


 呆れながらも、何とか彼の承諾を経た。

 だがこの時、玲央自身は忘れていたのだ。ヴィランの事で頭がいっぱいで、ある者の事を……。




 ===


 


 城南大学。


 玲央達の街に存在する大学であり、今なお数多くの生徒がここに通っている。最近になって設立されたという事で、どこか新しい雰囲気があるように思えた。


 その三時頃、三人の人間が姿を現す。学校を終えた玲央と夏樹、そして彼女達をここまで連れてきた晃である。


「紗香さんと観月さんがいないのがキツいですな」

「しょうがないよ。二人は別の任務で忙しいらしいし」


 ここに紗香と藍がいないのは、別のヴィランの後始末をしているからだ。

 相手は突如として公園に現れた巨大モンスターらしい。寝ているわ、硬いわ、魔法が効かないわと色々大変で、とてもではないがこちらには来れないらしい。


 そんな訳で、玲央と夏樹二人で行動する事に。もちろん晃は案内役でしかないので、戦力外である。


「まぁ、とりあえず行こうか。被害があった場所に管理課職員がいるみたいだし」


 事件場に向かう為、三人は大学の中へと入ろうとする。


 なお外にいる生徒達が、玲央達へと振り向いてくる。大学の中に中学生がいるのだから、ある意味では当然と言うべきか。

 中には「あの子達、どう見ても大学生じゃないよね?」「何でこんな所に?」という声も。これには夏樹も少し不安がる。


「……やっぱり僕達、怪しいかな?」

「大丈夫ですよ。もしナンパされたら、アキ君の彼女という事にすればいいんですから。ほら、異世界ファンタジーとかラブコメだと、主人公に五~六人のハーレムが出来ますし」

「馬鹿かお前は。というか俺が二股どころかロリコンになるんじゃねぇか」


 おかしな事を言う玲央と、そこに突っ込みを入れる晃。その漫才に、夏樹も苦笑いをしてしまう。

 かくして彼女達の任務が始まろうとしていく。その先に、とてつもない脅威が待っている事も知らずに……。

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