#14 人気者のスポーツ少女
──翌日。
真谷中学校が昼休みになった頃、グラウンドには数多くの生徒が遊んでいる。遊んでいると言っても運動部に入っている生徒達が、自分が得意とするスポーツをしているだけ。特に運動が好きではない生徒は学校の中で暇潰しをしていた。
玲央もまた、学校の中で暇潰しをする派だ。内緒で持ってきたライトノベルやら漫画やらゲームを楽しむのだが、一回教師にバレて没収されてしまった事もあるので慎重にやっている。
そんな彼女が校舎の外に出ていたのだ。目的はある人と合流する事である。
「紗香さん、誰もいませんのでいいですよ」
校舎裏にあるフェンスへと近付いた玲央。するとそのフェンスを、慌ただしく乗り越えた者が現れた。
紗香である。今はエレメンター状態ではないので、自力でフェンスを降りようとしていた。
「何か泥棒みたいだね……」
「自分でやると言ったんじゃないですか。あっ、縞々」
「ちょっ、どこ見てるの!? やめなさい!!」
玲央が女性にとっての神秘的な場所を発見。もちろん怒られてしまう。
顔を赤くしながらも、何とか紗香は校舎の中に降り立つ事が出来た。なおその服装は白のブラウスに黒いスカートと、玲央が来ているセーラー服とよく似ている。
「本当に大丈夫なんだよね?」
「多分。ここら辺に先生はいませんし、堂々としてれば大丈夫っすよ。多分ですけど」
「曖昧過ぎる……。まぁ、それよりも捜しましょう。先生方に見つかる前に」
服装は遠目から見ても、制服だと思わせる為の工夫だ。さすがに管理課でも制服の用意は出来なかったらしい。
早速二人は魔法少女捜索を始めた。主に行動範囲は学校の外であり、そこで遊んでいる運動部の連中からくまなく捜す事にしている。
何故運動部なのか――それは昨日の魔法少女探知が関係している。あの時探知した時間は玲央が下校した時間。つまり残っているのは部活動している者で、魔法少女は部活動している誰かという事になる。
それに反応があったのは校舎の外である。これらの推測から、魔法少女は『運動部に所属している少女』という結論に達した(手塚がである)。
まずグラウンドに着く二人だが、そこには男子しかいないのですぐに断念。次に女子がいるというテニスコートへと向かおうとすると……
「キャアアアア!! 凄おおおいい!!」
「織笠さあああああんん!!」
テニスコートから聞こえてくる黄色い声援。二人が駆け付けてみれば、そこには大勢の女子生徒が集まっていたのだ。
コートの中には、髪を束ねた二人の少女がいる。どうやら女子が応援しているのはツインテールの少女ではなく、もう一人の少女のようであった。
「あの人は……」
「確か……誰だっけ? ああ、
玲央が紗香へと、そう説明する。
夏樹という人物は黒い髪を頭の下に束ねており(後ろではなく真下である)、顔つきが少年にも見える。身体つきはほっそりとしているが引き締まっており、汗水垂らしてボールを打つ姿が非常に似合っている。
彼女が打つたびにギャラリーから声援が湧く。相当大きいため、それなりに離れている玲央達の耳をつんざく程だ。
「凄い声援……人気者っぽいね」
「ぽいじゃなくて人気者ですよ。友達から聞きましたけど、バレンタインとか女子からチョコもらってるみたいですし、あだ名も『テニスの王子様』とか」
「へぇ……ん?」
紗香がある事に気付く。実は玲央もである。
テニスをしていた夏樹の右腕に、一瞬だけだが電流が走ったのだ。女子も夏樹も気付いていないようであり、そのまま夏樹が強いショットを一つ。
これにより彼女が勝利。歓喜をするギャラリーに対し、二人は確信をした。
「思ったより早く見つけましたね」
「そうだね、後は接触して話を……」
「……それ、無理っぽいすね」
玲央が言い切った理由はただ一つ。試合終了した夏樹に女子が集まったのだから。
彼女が座ったベンチが見えにくくなる程で、それはもう獲物にたかる猛獣のような感じである。さらには色んな声が。
「先輩!! 弁当作りました!! どうぞ!!」
「織笠さん! タオル持ってきました、使って下さい!!」
「ああちょっと! 私のタオルが先だから!!」
「部長、今日もかっこよかったです!!」
「ああ、ありがとう」
夏樹が一つのタオルではなく、複数のタオルを使って汗を拭いている。不公平にならないようにした配慮らしく、まさにイケメン。
人気が出るのも頷けられるのだが、問題は接触どころか彼女に近付く事すら出来ない事だ。
「……どうしようか? このまま待ってるのもあれだし……」
「……めんどいですけど、非常手段使いますよ。紗香さんはひとまず学校の屋上に行って下さい」
「ん? 屋上って……」
紗香が聞き返そうとした時、玲央の周りに電子が発生した。
瞬時に彼女がマレキウムへと変身。腰スラスターを噴かせてジャンプをしたと思えば、何と夏樹のすぐ隣へと着地したのだ。
「えっ!? 何だいきなり……ってうお!? ちょっと!?」
そしてあろう事か夏樹を担ぎ、その場からジャンプしながら逃げていった。
つまり拉致である。夏樹のファンからすれば、いきなりパワードスーツ姿の変人が現れ、王子様を攫ったようにしか見えない。
「何なのあの変人!!」
「確かネットで見たよ! 近くで怪物を倒しているとか……」
「私達の織笠さんを独り占めする気ね!! 待てやぁ!!」
取り残された女子生徒が躍起になって追い掛けるのだが、それは無理な話である。
何故なら玲央がどこに向かったのか分からないように撒き、そのまま驚異的な跳躍力を利用して屋上へと到達。当然と言うべきか夏樹は放心状態であった。
玲央はすかさず変身解除。同じ制服を着た少女にさらに驚く夏樹。
「君、ここの生徒だったの……? それよりも何でこんな所に……」
「ああえっと……その……話があって……」
「それよりもこれはやり過ぎでしょう……」
そこに着地するエメレンター姿の紗香。
彼女が瞬時に変身を解き、玲央達へと近付いていく。もちろんと言うべきか、警戒をしてしまう夏樹。
「ぼ、僕に何の用で……」
「初めまして織笠夏樹さん、私は乙宗紗香。早速だけど、あなた昨日違和感とかがあったりしたかな?」
「違和感? ……ああ、確か腕に電流が走ったかと思えば、目の前に物体が出てきて……。あの時はアニメの見過ぎかと……見てないんですけど……」
(……何……だと……?)
電流の話よりも、アニメを見ていない宣言に動揺を隠せなかった。
ただそんな玲央に気付くはずもなく、話を続ける紗香。
「……落ち着いて聞いてね。それはあなたの持つ魔法少女としての前兆みたいな物。物体も魔法少女の専用装備と思うよ」
「……魔法……少女? 僕があの噂の……?」
「そういう事。もちろん戸惑いがあるだろうし、すぐに受け入れられないとは思う。もし普通に暮らすんだったら、その力を取り除く事が出来るけど、どうする?」
「…………」
夏樹が迷っているからか、その目が泳いでいる。
玲央は黙って彼女の答えを待った。自分をアホだと認めているが、さすがに選択をしている時に口を出す程に愚かではない。
やがて夏樹の口から出たのは……、
「いきなりで混乱しているから、ちょっとだけ考えさせてくれないでしょうか……? 明日位に答えを出しますので……」
「……分かった。じゃあ明日のこの時間、もう一回こっちに来るから」
ひとまず保留という事になった。それまで答えはお預けという事になる。
玲央はひとまず紗香達から目線を離した。そうして適当に明後日の方向を向いて、
視線が合ってしまった。
「「……………………」」
階段に通じる扉に、一人の男子生徒が隠れていたのだ。
眼鏡と小太りとした姿が特徴的で、まるで玲央と同じオタクのようである。あまり見た事なかったので恐らくは三年だろうが、予想外の事態に玲央が思わず固まってしまい、男子も目が合ってしまったのか冷や汗をかいていた。
「どうしたの玲央ちゃん……ってあれ? 何でここに人が?」
「あっ、えっと……何か織笠さんが拉致られたのを見たので、急いで追い掛けた物で……。そ、それよりも織笠さん!」
紗香に答えた男子生徒が、夏樹へと近付いた。
驚く彼女に対して、その男子の瞳は真っすぐである。これにはさすがに玲央も感付いてしまう。
「僕は
お願いします、どうか僕と付き合って下さい!!」
(やっぱし)
やはり告白だった。頭を下げ、そのままじっと返事を待っている。
それも同じ学校の生徒と見知らぬ女性がいる前での、勇気ある行動。余程決心したと見える。
「……ああ、ごめんね。テニスに集中したいから……ね?」
しかし現実は上手く行かない物である。
速攻の失恋。残酷な返事を突き付けられた平野は、決して頭を上げる事はしなかった。まるで時が止まったかのように、そのままの体勢になっている。
「……お気の毒に……」
「確かに」
さすがの二人も同情をするしかない。
やがて中学校に響き渡る昼休み終了のチャイム。それが平野の心情を表しているかのように、悲しく響き渡っていくのだった……。
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