#40 影の正体は……?
彩光宅の居間にて――。
「いやぁ星野さんには助かっているよ。本当にありがとう」
「いやいやどうも! これ位なら朝飯前です!」
七葉がキッチンで皿洗いをしている。玲央より年下なのだが、それでもテキパキとまるで主婦のように頑張っていた。
強引に上がり込んできた七葉だが、今では晃に気に入られている。家事も出来るし料理も出来るしで、色々と助かっている所もあるのだ。
なお玲央の方は、未だ納得していないのだが。
「すっかりアキ君、取り入れられちゃって……」
「まぁ、いいじゃねぇか。ちゃんと家賃も払ってくれるというし、お前も悪い事じゃないと思うけどな。それよりも学校あると思うけど大丈夫なのか?」
「はい、変身した状態で空を飛べばすぐに着きますので! その辺は大丈夫かと!」
(そういう問題かな……)
七葉にはヴィラン退治で稼いだお金があり、家賃として払ってくれるらしい。
その用意周到には感心どころか呆れてしまう玲央。そんな彼女の元に、コトっと何かが置かれる。
「よろしければどうぞ! 以前に仕込んだ私特製のレモネードであります!!」
「おお、美味そう。頂きまぁす♪」
「コラアアア!! それは先生の分ですよ!! ちゃんと用意しますから待ってて下さいよ!!」
玲央達の前にレモネードが置かれた。鮮やかな程の黄色が特徴的で、少々酸っぱい匂いがする。
なお玲央のレモネードを、隣にいた琴音が勝手に飲んでしまう。これには七葉が珍しく怒り出した。
「うん、美味しい! 玲央ちゃんも飲みなよ!」
「じゃあ頂きます……うん、甘くて美味いっす」
「それはよかったです。おかわりもあるのでどんどん飲んで下さいね!!」
その七葉だが、玲央が褒めるなり嬉しそうな顔をした。
感情豊かで実に分かりやすい。玲央がそう思いながらレモネードを飲んでいくと、七葉がある事に気が付いたようだ。
「……確かそれがマレキウムになる為の変身アイテムですよね? 先生はどこで手に入れたんですか?」
その視線が向いた先にあったのは、玲央の右腕にあるデバイスだった。
もちろん玲央はすぐに答える。
「ああこれ? 学校で拾ったんですよ」
「はぁ、なるほど。……それで?」
「それで……って?」
「手に入れた直後の話です。出来れば聞きたいなぁと思いまして」
「あっ、それは私も興味あるかも」
どうやら七葉はその話に興味があったようだ。しかも琴音も食いつく。
まさか尋ねられるとは思ってもみなかった玲央だが、仕方なく話をする事にする。どうせ秘密にしている訳でもないし、話しても損はない。
「最初、デバイスが何なのかってアキ君と調べたんですが、その時には何にも分からなかったんです。それで休日に二人でデパートに行った時……」
あれはちょうど、今年の春の事だった。
この時、デバイスの正体を知らなかった玲央がそれを持ち出したまま、晃と一緒にデパートに足を運んでいた。目的は買い物もあるが、本題はそこにあるアクセサリーショップにデバイスを見てもらう事である。
それが終わったら、買い物をしようと思っていた二人だった。しかしその時、デパート内にコウモリ型怪人が出現し、人々の生き血を啜るという悪事をするのだった。
「……もしやその時に?」
「……まぁ、そうですね」
玲央は晃と共に逃げようとした。しかし怪人が二人を発見してしまい、追い掛けてくる。
『お前だけ逃げろ!! 早く!!』。この時に晃がそう言ったが、玲央は嫌だった。晃は自分にとってたった一人の兄──置いて逃げる訳がなかった。
やがて怪人が迫り、窮地に陥る兄妹。二人してその毒牙に掛かりそうになった時、それは起きたのだ。
「私のポケットにあったデバイスが光ったんですよ。そうしたら、マレキウムになって……」
一瞬の内にマレキウムへと変身。その圧倒的な戦闘能力を持って、怪人を撃退したのだ
やがて怪人は気絶。血を吸われた人達は特に死んだ訳でもゾンビにされた訳でもないので、事態は事なきを得る。だがもちろんと言うべきか、マレキウムになった玲央は戸惑いを隠せなかった。
「こいつは俺を守ろうとして戦ったんだ……。もちろん最初は戸惑って、俺にどうしたらいいと聞いてきたんだ」
レモネードを飲みながら、晃が話を付け加える。
一方で七葉も琴音も黙って話を聞いている。いつも大人しくない二人にしては珍しい。
「デバイスを捨てろというのは簡単だけど、これは玲央の問題。だからこいつに全てを任せる事にした。
だから言ったんだ。『自分にやりたい事をやればいい。捨てるのも戦うのもお前次第』って……」
「それで今の私があるって訳ですよ。アキ君、色々と厳しいんだけど、言う時は言うんですよね」
「お前が色々とだらしないからだろうが」
フッと笑う晃。玲央も釣られてか笑みを浮かべる。
その様子を見ていた七葉が、小さく口にする。
「……兄妹仲がいいんですね……」
「「ん?」」
「ああ、いえ、何でもないです。それよりも後で風呂の掃除をしておきます。それで琴音さんはとっととお帰り下さい」
「やだね。私は二人を見るだけでもいいし~」
七葉が嫌そうな顔をして言うも、琴音は引き下がらなかった。だからか七葉の頬が膨らむ。
あまり争いに巻き込まれまいと、玲央はそっと居間を出ようとする。しかしポケットから着信音が鳴り出したので、すぐに取り出す。
「手塚さんか……はいもしもし? ……えっ?」
手塚からの連絡を聞いた玲央が、その眉をひそめた。
それは緊急事態である事を示している。すぐに彼女が窓を開けようとした。
「はい、今すぐに出発します。それでは……」
「……どうしたんだ?」
「夏樹さんが謎の敵に襲われているっぽい。だから行ってくる」
玲央はその身体にマレキウムの鎧を纏わせた。背後から「先生……」と呼ぶ声がしたが、それに気付かずにジャンプする。
目的地は家からそう遠く離れていない所にあると言う。腰のスラスターを使いながら家から家へと飛び移りながら、玲央がある事を思い出す。
(……観月さん、どうしたんだろう?)
実は手塚が藍に連絡しようとしたのだ。しかし音信不通という事で、玲央に白羽の矢が立った訳だ。
しかし何か変だと彼女は思う。藍はオタクでちょっと変わった事があるが、至って真面目な人でもある。そんな彼女が手塚からの電話に気付かない事があるだろうか?
しかしそう考えている間にでも、目的地が見えてきた。電車の下に設けられたトンネルであり、一見すれば暗くてよく見えない。
しかし、誰かがいるのはちゃんと見えた。
「あれは……」
トンネルの中で、メリュジーナがブレードを持って戦っていた。しかもそのブレードをかわしながら、メリュジーナを踏み付ける謎の影。
メリュジーナが抵抗しようとするも、敵が蹴り上げて壁に叩き付ける。そうしてへたり込むメリュジーナへと、敵がゆっくりとにじり寄る。
「夏樹さん……!」
『! れ、玲央ちゃん……!』
メリュジーナと謎の敵の前に、玲央が着地する。
メリュジーナの頭部が振り向くと同時に、敵もまた玲央へと睨み付ける。その姿を見て、玲央が驚愕する。
「……マレキウムにそっくり……?」
それは何と、黒いマレキウムだったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます