#41 白いマレキウムVS黒いマレキウム
夏樹を襲っていたのが、何と黒いマレキウムである。
細部が刺々しく四肢が太いなど違いがあるが、間違いなく玲央のそれに酷似している。さらに背中に一対のスラスターを持っており、全体にロボットのような体格をしていた。
玲央が呆然として見ていると、その黒いマレキウムが赤い目で睨んでくる。明らかに友好的ではなく、敵意を持っているようにしか見えない。
「…………」
動けない玲央だが、ふと夏樹のメリュジーナが起き上がろうとするのが見えた。
しかしそれに気付いたのか、黒いマレキウムがメリュジーナの頭部を鷲掴みにする。握力のせいか、頭部から火花が散っている。
『くっ……!!』
「……《
このままでは夏樹が危ない。いち早く彼女を助けようと、玲央がコマンドを唱えた。
白い鎧が光に包まれて変形。飛行形態のマレキウム・ウォラトゥスへとなった後、背中と腰のスラスターを噴かす。
黒いマレキウムへと激突し、夏樹から離れさせる。そうして上空へと飛ぶと、黒いマレキウムが赤い光を噴射しながら離れる。
夏樹から離した事に、ひとまず安心する玲央。しかし黒いマレキウムが右手を差し出し、手の甲近くの穴から赤い光弾を放ってきた。
「……っ」
まさか遠距離武装を持っていると思わなかったが、それでも飛行をしながら回避した。
見る限りハルベルトのような武器を持ってないが、それを補う性能があるらしい。戦闘能力が未知数な以上、迂闊に手を出す事が出来ない。
(そういえば、ウォラトゥスになれる時間は五分って手塚さんが言ったっけ……。早めに終わらせないと……)
手塚曰くウォラトゥスには制限時間があるらしいので、逃げてばかりではいられない。青い光を放ちながら反転し、黒いマレキウムへと向かう。
ハルベルトを掲げて「《
これは以前出現した怪獣アグレッサーの火球を、《
ただ牽制用の攻撃だからか、黒いマレキウムには回避されてしまう。さらにそのまま玲央に接近しつつ、右腕のガントレットを展開。
巨大な鉤爪がせり出し、玲央へと大きく振るった。
「うわっ!」
ハルベルトで鉤爪を受け止めた。その際、とてつもないパワーで背後へと吹っ飛んでしまう。
下がってしまう玲央に、さらに追撃をかまそうとする黒いマレキウム。しかしやられているばかりにはいられず、すぐに左腕のガントレットから《
斬り結んだ後に離れてUターン。そしてまた切り結んでUターンと、繰り返しの攻防を繰り広げる。そしてもう一回行われようとした時、何と黒いマレキウムが《
すぐに敵を捉えようとするも、そこに蹴りをかまされてしまう玲央。すぐに体勢を立て直すのだが、黒いマレキウムがもう片方の鉤爪を展開しつつ接近。
――ガキン!! ガキン!!!
両腕の鉤爪を振るい続けながら玲央を押し続ける。対して玲央は防御体勢を取るしかない。
しかもそこを突くように、鉤爪で玲央を掴んでしまった。そのまま共に急降下し、ビルの屋上へと落下。
着地の衝撃で、屋上に蜘蛛の巣のような亀裂が入る。中心では、黒いマレキウムが玲央を踏み付けていた。
「……こいつ、何なんだ……?」
訳が分からないが、この黒いマレキウムは強い。
仮にもウォラトゥスはマレキウムの強化形態なのである。それなのにこうして手玉に取り、容赦なく押されてしまっている。
赤い目で見下ろしながら、凶暴な鉤爪を振り上げる黒いマレキウム。この時、玲央はどうすればと模索しようとしたが、
「……!」
黒いマレキウムが背後へと振り返った。直後、玲央と黒いマレキウムの周りに火の玉が飛び散る。
分が悪いと思ったのか、マレキウムが玲央から離れた。そして玲央が上空を見ると、そこにはワイバーンに乗っているヴェパールとマジカルナナハが飛んでいるのである。
「二人とも、どうしてここが?」
「ワイバーンに匂いを辿らせたのよ! 全く勝手に一人で行くから、お兄さんが心配しているわよ!」
「先生!! 遅ればせながら私も参戦しますよ!!」
飛行する黒いマレキウムへと、ワイバーンが火球を放つ。それを回避するマレキウムだが、そこに七葉がステッキを引っ提げながら向かう。
ステッキと巨大鉤爪がお互いに切り結び、甲高い金属音を発する。さらにステッキの角度を変えつつ《スターショット》を放つが、これも回避されてしまう。
しかしその時に現れた玲央が、ハルベルトを大きく振るった。さすがにこれは予想してなかったのか、直撃を喰らって吹っ飛ぶ。
「……ん!?」
「……!」
ワイバーンに乗った琴音や玲央が、ある事に気付いた。
吹っ飛ばされる時、敵の装甲がノイズ状にぶれたのだ。その時に中身が見えていたが、瞬時に元の姿へと戻ってしまう。
それでもちゃんと中身が確認出来た。しかもその正体が、玲央達すら予想外の事だったのである。
「観月さん……!?」
七葉の言葉通りである。黒いマレキウムの変身者は、間違いなく藍だった。
あれだけ容赦なく襲ってきた敵が仲間だったと知り、玲央はもちろん七葉も琴音も動揺してしまう。しかしそれでも、玲央はある事に気付いていた。
一瞬だけ見えた姿が、まるで眠ったように目を瞑っていた事に。
「……もしかして観月さん、気絶しているんじゃ……」
「!」
七葉が玲央へと振り向いた。その同時に、黒いマレキウムが鉤爪を振り下ろしてくる。
二人は二手に別れて回避。七葉が《スターショット》で牽制しながら、玲央へと叫ぶ。
「私もそれが見えました……! これは推測ですけど……もしかしたら観月さんは黒いマレキウムに操られているかもしれません……!!」
「どうも彼女、玲央ちゃん達の友達のようね。何とかして救い出さないと……」
自分の意思関係なく動いているのなら、それは藍自身が許さないだろう。
七葉達の言う通り、何としてでも黒いマレキウムを止めなければならない。三人の目的が一致する中、黒いマレキウムが右腕の鉤爪を掲げた。
――キュウイイイイン……。
奇妙な音と共に、鉤爪の中央から赤い光が発する。
次第に増大していき、極太のレーザーとなって放たれた。狙い先は他ならぬマレキウム=玲央である。
「おっと! そうはさせないわよ!!」
玲央の前に琴音とワイバーンがやってきた。ワイバーンの口から火球が放たれ、レーザーと相殺する。
ぶつかり合った結果、大きな爆発が起きる。爆風にのけ反る琴音が、七葉へと叫ぶ。
「七葉ちゃん、今よ!!」
「言われなくても分かってますよ!! 《スターカッター》!!」
七葉がステッキを振ると、光の円盤が放たれた。円盤が爆炎の横を通り過ぎながら、黒いマレキウムへと向かう。
気付いたマレキウムが回避しようとしたが、円盤が巨大な鉤爪を切り裂く。バラバラに落ちる鉤爪が気になったのか、マレキウムがじっとそれを見る。
「今です、先生!!」
「了解」
呆然としている黒いマレキウムへと、玲央が接近する。
黒いマレキウムがスラスターを噴かせようとしたが、その片方が突如として爆発。それは琴音のワイバーンが火球を当てたからである。
片方を破壊されて体勢を崩している間に、玲央がその前に立つ。彼女が振り上げられた鉤爪を《
吹っ飛ばされた黒いマレキウムに、玲央は再び向かった。ハルベルトを消去させた右手を大きく振り上げながら、
「これで最後」
強烈なチョップを、黒いマレキウムの頭部へと与えた。
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