#42 それは警告

 玲央のチョップを食らった黒いマレキウムが、その身体をビルの上へと落下させる。


 コンクリートの床に叩き付けられると、それは動く事はなかった。そこに玲央が降り立ち、容態を確認する。


「……観月さん?」

「…………」


 声を掛けても返事はしなかった。未だ藍は気絶しているようである。

 玲央はどうしようかと悩んだが、すぐに手塚達に連絡しようと思った。そうしてスマホを取り出そうとしたが、


「先生!!」

「!?」


 七葉が叫ぶ。何故そうしたのか、玲央にはすぐに分かった。

 何と黒いマレキウムが、痙攣しながら立ち上がってきたのだ。まるで壊れた機械のような姿を見せながら、四つん這いになって向かってくる。


 明らかに人の動きではない。あまりの不気味さに怯んだ玲央だが、すぐに構えを取って立ち向かおうとした。


「玲央ちゃん!!」


 その時、ある声が聞こえてくる。

 同時に黒いマレキウムへと、複数の氷柱が放たれた。それらが黒いマレキウムの手足へと着弾させ、動かせないよう地面と共に凍る。


 拘束されたマレキウムが足掻こうと、まるで獣のように暴れまわった。しかし不意に動きを止めてしまい、ぐらりと倒れる。


「玲央ちゃん、大丈夫だった!?」


 玲央の前に、ある二人が降り立ってきた。紗香とメリュジーナに乗った夏樹である。

 対して少し呆然としていた玲央だったが、小さく頷きながら返事する。


「あっはい、何とか……。それよりもその黒いの、どうも観月さんなんですよ」

「……やっぱり」


 紗香が動かなくなった黒いマレキウムへと振り返った。その時にメリュジーナから夏樹が降り、七葉と琴音も着地してくる。

 黒いマレキウムは未だ動かないようだった。紗香の意思なのか氷が割れるが、依然とその状態である……と思われた。


「……あっ」


 黒い装甲が消えるのを、玲央が最初に気付く。

 やがてそれが全部消えると、中から気絶している藍が現れた。その彼女の右腕を見ると、玲央のデバイスとよく似た黒い腕輪がはめられている。

 すると藍の身体がピクリと動いた。玲央がそれを見た時、彼女が目を覚ます。


「……あれ、私は……? というかお前ら、何で集まっているんだ?」

「……よかった」


 大した重症がない事に、紗香が安堵をした。

 玲央もホッとする思いをする。未だ藍が呆然としているようだが、逆に彼女らしいと言えばらしかった。


「……今回ばかりは助かりましたよ」

「おお、そう言われるなんて嬉しいわ。ようやく私の事を認めてくれたのね」

「そ、そうじゃありませんよ!!」

  

 玲央の背後では七葉と琴音が言い合っている。しかし前のような犬猿の仲とは少し違う。

 ある意味では仲がいいのかもしれないと、玲央はそんな事を思った。




 ===




「……そうか、それはよかったわ。うん、報告ありがとう」


 デスクに座りながら、手塚は紗香と連絡をしていた。

 黒いマレキウムの正体が藍だった事、藍が無事に救出された事。それらの報告に驚いた手塚だったが、ともあれ大事に至らないと分かって安堵する。


「……黒いマレキウムか……」


 電話を終えた後、手塚にますますマレキウムへの疑心が募ってくる。


 未だに正体不明のマレキウムに加え、黒いマレキウムの行動。藍が操られたという状況だったので断定出来ないが、ある共通点があるのが分かる。

 モンスターに魔法少女にマレキウム……そう、黒いマレキウムはエヴォ粒子保有者を狙う傾向にある。


 何か意思のような物を感じられずにはいられない。いずれにしてもマレキウムは、何もかも怪し過ぎた。


「……これを解析すれば、何か分かるかも」


 とにかくパソコンに面向かい、デバイスのブラックボックス解読を進める事にした。

 ただいま十五パーセントであり、始めの辺りが分かるようになってくる。手際よくキーボードを打ち込み、それを忙しく解析。


 そして、やっと出来上がった。


「よし……! でもこれって……」


 その解析結果は、どう見ても文字のそれだった。

 未だぼやけているので、すぐに補正をかける。やがて二つの文字が、画面に表示された。




 それは――『警告』。

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