#46 紗香に襲い掛かる危機!?

 渋谷区。 


 東京の中で特に有名な街で、若者が集う街とされている。今でも大勢の若者が行き来し、遊びに行ったり食べに行ったりと自由気ままな事をしていた。


 そんな中、ある公園に三人の女性がいる。紗香に夏樹、そして彼女達よりも年上の女性である。


「ここで行方が分からなくなったそうです……。電話しても繋がらなくて……」


 紗香達と一緒に行動する女性。名前は森泉小夜もりいずみさよ

 おおよそ二十代後半で、眼鏡と黒いポニーテールが特徴的な女性。彼女は東京の管理課に勤務する教職員であり、その証拠に白衣を着ている。


 彼女の教育対象である魔法少女を捜すのが、今回の任務。もちろん渋谷の至る所にも管理課のスタッフが総動員し、行方を追っていた。


「この一帯に荒らされた形跡だけ……。他は証拠品なし……ですか」


 紗香がいる場所が、魔法少女の一人が消息を絶った所である。

 いくらか証拠があると思ったのだが、目立つ物と言えば地面に抉られたような物があるだけ。他は何もなく、手がかりを掴む事は出来ない。


 何かメッセージなり、そういった物を示す物があれば分かるかもしれないが……。


「……ん?」


 現場を見ていた夏樹が、ふと何かに気付いた。

 そのまま草むら近くへと駆け寄るので、紗香も彼女の後を追う。と、不意にしゃがみ込んだと思えば、何かを見ていたのだ。


「これって……何かの部品ですかね?」

「ん?」


 見てみると、確かに何らかの部品が落ちていた。

 機械か乗り物のパーツと思われるが、赤黒く錆びていて判別は出来ない。そもそも紗香は機械いじりではないので、錆びてなくても何なのかは分からないのだが。


 ただ問題は、なぜこんな所にあるのかという事だ。公園にこんなのがあるのが奇妙だし、落とす者がいるのかどうか……。


「…………」


 紗香は、それをさり気なしに持ってみる。このような変な物と失踪との関連が、分かるかもしれないと思ったからだ。

 だがその時、彼女はそれを落としてしまう。


「…………っ」

「……? どうしました、紗香さん?」

「………………」


 部品を持った時、それは感じたのだ。

 何と言えば分からないのだが、とにかくドス黒さがあるような、あるいは禍々しい雰囲気。手に取った瞬間、まるで電流が走ったようにそれを感じたのだ。


 こんな事は今まで一度もなく、ただ呆然とするしかない紗香。それで同時に、この部品はただの物じゃないと知る事となる。


「一体どうしたんですか?」

「……実は……」


 森泉が尋ねてくる。紗香は不安そうになりながらも振り向こうとした。

 しかし、言葉が詰まってしまった。振り返った時の視線が、ある物を捉えている。


 奥の建物に立っている、謎の人影を。


「……!」


 影は明らかにこちらを見ている。それに思わず立ち上がる紗香。

 いきなりの事で夏樹達が呆然とするも、彼女は影がいるビルへと向かう。その後を夏樹達が追い掛けてきた。


「どうしたんですか、紗香さん!!」


 夏樹が問い掛けるも、彼女は返事をしなかった。やがて大通りを抜け、巨大な立体駐車場へと到着する。

 立体駐車場の周りには白い幕が張られているが、その幕がぼろくなっている。さらには改装工事の知らせる看板があるのだが、どうも日付からして放置されているらしい。


 紗香が看板の前に立ち、屋上へと見上げる。そこでも夏樹が尋ねてくる。


「本当にどうしたんですか? 何か様子がおかしいですよ?」

「……この駐車場の屋上に、誰かがいるのが分かったの。もしかしたら、魔法少女を誘拐した犯人かも……」

「……ならば直接、行ってみるしかないですね……。今いるのか分かりませんが」


 とっくに逃げているのかもしれないが、行かないよりはマシかもしれない。

 それで屋上をどう行くのか迷った所、駐車場の横にある路地裏を発見。早速覗いてみると人気がないので、安心して変身が出来る。

 

「急ごう……」

「はい……」


 すぐに紗香達が路地裏へと入っていった。人の目に付かないような場所に着いた後、エレメンターとラダーリウスへと変身しようとする二人。

 


 

 だがその時、誰かに見られている事に紗香が気付く。


「!?」


 一瞬で気配のする方向へと向いた。そこにあったのはビルの壁だが、何と謎の怪物が張り付いている。

 怪物が軋み音を上げながら、紗香達へと飛び掛かってくる。それを回避した後、紗香がその姿を確認する。


 ――ギギッ……ギギギギッ……。


 錆びた機械などで構成されたロボットのような怪物だった。バイクが中心になっているのか、左肩辺りからその車輪が出ている。なお人型を構成しているが、あらゆる部品をまとめ上げている為か非常に歪である。


 両腕が部品の塊で全く機能していないが、代わりに両足には鋭い鉤爪が装着されている。紗香へと飛び掛かり、その鉤爪を向ける機械の怪物。


「変身……!!」


 すぐに紗香はエメレンターへと変身。右腕にはめたヤルングレイプから《ファイアーバレット》を放った。

 機械の怪物はそれを回避。さらには紗香が追加した火球を両足の鉤爪で弾き飛ばし、ビルの壁へと着弾させてしまった。壁は破壊はされなかったものの、大きなクレーターが出来てしまう。


『紗香さん、下がって下さい!!』


 そこにラダーリウスが搭乗したメリュジーナが向かってきた。持っているブレードで怪物を叩き潰そうとする。

 その時、怪物の腹が展開され、中から何かが射出された。それは数本の杭であり、メリュジーナのカメラアイへと着弾してしまう。


 火花が生じ、一瞬だけ動きが止まってしまうメリュジーナ。


『くっ! モニターが……ウワッ!!』


 メリュジーナへと蹴りを入れてしまう機械の怪物。倒れてしまうメリュジーナへと両腕の鉤爪を向ける。

 しかしその怪物が突如として両断されていった。それは紗香が《サンダーソード》で切り裂いたからだ。


「大丈夫、夏樹ちゃん!!」

『ええ、何とか!!』

「森泉さんは離れた所へと向かって下さい!! 後の事は我々に!!」

「あっはい…………!? 後ろ!!」

「!!」


 森泉の言葉に背後へと振り返ると、別の怪物が飛び掛かってきたのだ。

 右腕の巨大な棍棒を振るってくるも、紗香は《サンダーソード》で防御。さらにはもう片手に《サンダーソード》を発現させ、怪物をバラバラに切り裂く。


 これで終わったかと思った紗香だったが、どうやらそうではなかった。周りにはいつの間にか、二~三体の怪物によって囲まれていた。


「もしかしたら、さっきの影と何か関係があるかも……」

『だと思いますね……今度こそ僕が仕掛けます!!』


 カメラアイから杭を抜き取った後、メリュジーナが先制攻撃をする。まず一体が向かってくる所をスラスターを吹かし、背後へと回る。その怪物が振り返ろうとした時に、ブレードで叩き潰した。


「我が敵を打撃を……《ロックキャノン》!!」


 紗香も残り二体へと立ち向かう。正面から向かってきた怪物へと《ロックキャノン》を射出。その敵の周りへと着弾させ、それを怯ませた。


 その隙に接近して《サンダーソード》を胴体へと突き刺す。膨大な電流が機械の身体を駆け巡り、所々火花を散らせる。

 ショートされた怪物はそのまま力尽きるしかなかった。倒れた個体を見向きもせず、次の敵に向かう紗香……だったが、


「グッ!?」


 突如として、背中に電流が走るような痛みが発した。

 紗香は成す術もなく倒れてしまう。何とか立ち上がろうとするのだが、何故か力が入らない。それどころか、視界が徐々に薄れていくのが感じてしまう。


 何か言おうとしたが、それもまた無理な事。聞こえてくる夏樹の声が徐々に消えていくような感じもする。


「…………」


 それでも、その目だけを何とか動かした。自分を攻撃した者を捜そうと。

 そして見つけたのだ。薄れていく視界の中で、謎の影が立っていた事を……。

 



 ===




「紗香さん!!」


 謎の攻撃を喰らい、気絶をしてしまった紗香。

 彼女を助けようと向かう夏樹だったが、その途中に一体の怪物が鎖を射出――紗香を雁字搦めにしてから引っ張った。


 夏樹がメリュジーナごと振り向くも、既に怪物が抱き抱えながらジャンプをしている。それは仲間と共に、謎の影がいたとされている立体駐車場へと入っていくのだった。


「くそっ!!」


 コックピットの中で、夏樹が拳を叩き付ける。

 仲間がそうされて平常心になっている訳にはいなかったのだ。ましてや怪物が連れて行った場所は目と鼻の先――すぐにでも助けたかった。


『待って下さい、織笠さん!! ここは増援を待って!!』


 ビルへと向かおうとした時、森泉が夏樹へと叫んできた。その際にメリュジーナをジャンプさせようと踏んでいたペダルを、一瞬だけ離してしまう。

 

 確かに森泉の言う通り、増援を待った方がいいかもしれない。何せ機械の怪物が入った場所には、どんな罠が仕掛けられているのか分かったものではない。

 ――それでも、それでも彼女は、


「こうしている間に、紗香さんが何かされてしまったら元の子もありません!! それに、紗香さんは大事な仲間なんですから!!」


 紗香は自分にとって大事な友達。彼女を放っておくという選択は、彼女には全くない。

 ペダルを踏み、メリュジーナをジャンプさせる夏樹。駐車場には空いた壁があり、そこから中に入っていくのだが……


「……!」


 フロアに到着した夏樹の前に、何と大量の怪物がいる。

 それはすなわち、先に進ませないという意志表示でもあった。

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魔装討女マレキウムレオ ―パワードスーツとオタクと魔法少女― ミレニあん @yaranaikasan

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