#19 優しいお姉ちゃん
パトロールは特に怪しい者は見当たらず、
夜になった頃に、魔法少女メンバーは帰宅するべく解散。紗香もまっすぐ帰り、やがて自分の一軒家に到着した。
「ただいまぁ」
「お帰り紗香ちゃん。どうだった仕事?」
居間のキッチンにいる母親が声を掛けてきた。
前は共働きだったので家にいる時間が少なかったが、今は余裕があるのか逆にいる事が多い。さらに娘が魔法少女だというのを既に知っているのだ。
「まぁぼちぼちかな。それよりも今回はきな臭い事件があるから気を付けないと」
「そうだね……紗香ちゃんもあんま無理しないでね」
「うん、ありがとう……」
二年前、魔法少女としての力を持っていると知った時、紗香は母親へと正直に話していた。
母親は娘がヴィラン退治する事に最初反対していたものの、紗香のある目的もあって次第に受け入れる事にはなった。故に引け目はあるものの、紗香はそうしてくれた母親の為に、ヴィラン退治を尽くそうと思っている。
――ドタドタッ!
と、階段から慌ただしい足音が聞こえてきた。
早速見てみると、居間に二人の子供が入って来たのである。どちらも紗香を見るなり、嬉しそうに声を張り上げる。
「お姉ちゃんお帰り!!」
「おかえり~」
「うん、ただいま。いい子にしてた?」
「「うん!」」
活発そうなボサボサ髪の男の子が
「今日、お姉ちゃんの活躍がツイートで出なかったね。ちょっと残念だなぁ」
「ああ、ごめんね。今回はパトロールをしていたから。それよりもツイートはあんまりしちゃ駄目って言ったでしょ? 色んな人がいるし、悪い事が起こってもおかしくないから」
「ごめんなさいお姉ちゃん……お兄ちゃんが見たい見たいってうるさかったから……」
「だって見たい物は見たいんだもん!」
二人は互いに仲がよく、また姉の紗香を非常に慕っていた。もちろん紗香も彼らを大切にしている。
実は魔法少女でいるのは、彼らがあってこそ。彼らに平和な生活を送らせる為であり、もしもの時に守れるようにする為でもある。
だからこそ、魔法少女はやめる訳にはいかないのだ。
「そういえば明日、遊園地に行くんだよね? ちゃんと準備はした?」
「もちろんだよ! 緊張し過ぎて眠れないけど」
「私はちゃんと寝る。あっち行ったら、ジェットコースターの写真ちゃんと撮るからね」
「おお、それは楽しみ。ちゃんと持ってきてね」
明日は小学校の遠足で、遠くにある遊園地に行く事になっていた。『フォレストフレンドパーク』という名前であり、そこではヒーローのショーが目玉になっているらしい。
二人が楽しみにしている様子を見ていると、紗香まで嬉しく思ってしまう。何としてでも笑顔を守りたい……その為には、必ず韮沢凱を捜さなくてはならない。
「遠足の話するのはいいけど、ちょっと手伝ってくれるかな? もうすぐで夕飯が出来上がるから」
「ああ、ごめん。ちょっと待ってて、荷物を部屋に置いていくから」
韮沢凱の資料が入った鞄を持っているので、それを戻そうと部屋へと向かっていった。
中に入ると、ぬいぐるみや植物など小綺麗な置物が置かれているのが見える。そのまま鞄を置いて出ようとするのだが、ふと紗香が足を止めてしまう。
「……我が敵を蹂躙せよ……《ロックジャイアント》」
温めていた魔法があったのである。瞬時にエレメンター姿になった後、その呪文を唱えていく。
するとガントレットのヤルングレイプから瓦礫が発生。その瓦礫が一つになって、ある物が完成する。
完成したそれを見て、彼女がうんうんと頷くのだった。
「うん、ちょうどいい感じ」
===
・僕に構うな! 先に行け!!
・じゃあ、後は頼んだ。骨は拾っておくよ。
・嫌だ、置いていかないで!! 死にたくない!!
・おっぱいぷるんぷるん!!
「ん~、どれにするか……」
今、玲央は自分の部屋でゲームをしていた。
いわゆるサバイバルゲームで、怪獣災害から逃げ惑う主人公達の物語といった物である。それには数多くの選択肢があるので、どれにしようかと迷っているのだ(選択肢にネタが多いのはさておき)。
なお彼女がTシャツの上に白いフードを被っている。行きつけの店で買った物で、あるアニメの主人公が好んで被っている物である。
「玲央ぉ! 朝ごはん出来たぞぉ!」
すると奥から聞こえてくる兄の声。
それを聞いて、やっと玲央は自分の状況を気付いた。
(もう朝か……まさか徹夜するとは……)
実は休日に入るので、力尽きるまでゲームをしていたのだ。それも夢中になってたせいか、知らない間に夜が明けてしまった様である。
一気に睡魔が来てしまうが、ここで眠ってしまったら兄にどやされるに違いない。セーブをした後にすぐに部屋から出て、食事の用意している晃へと挨拶した。
「おはよう……」
「おはよう。お前、徹夜したな?」
「ああ、分かった? いやぁ、最近買った『カイジュウハザード』が凄いリアルでさ。例えば都市にいる怪獣が動くとコンビニの窓が割れたり……」
「ほほう、それは面白そうだな。後でプレイも兼ねて没収してやる」
「うわ、ひで」
そう冗談を交わしつつも、一緒に朝食をする二人。
今日はご飯と焼き魚とみそ汁。玲央はすぐにみそ汁の中にご飯を入れ、雑炊のように啜りながら食べた。
昔から好きな食べ方で、これぞ至福の時。思わずほっこり顔になる位だ。
「ああうまい」
「はしたないからやめろと言ったのに……まぁいいけど」
「さすがアキ君、紗香さんよりは怖くない。やっぱ兄がこっちでよかったわ」
「はっ? まぁともかく、この後買い物に行ってくるから、思いっきり休め。後そのフードがめっちゃ気になるんだが……」
「これを被ると安心する。気にするな」
「あっそ……」
朝から兄妹のたわいもない会話が続いていく。
今日は管理課の仕事が夕方からなので、その間に徹夜解消の爆睡が出来そうと玲央は思った。この後に何も起こらなければの話だが……。
『ご、ご覧下さい!! たった今、謎のロボットによる襲撃が始まっています!!』
その時、テレビから焦ったような声が聞こえてきた。
何事かと振り向く玲央と晃。すると画面には、ヘリから撮っただろう上空からの映像。そしてある場所とそこから逃げ出す住民が見えてきた。
「遊園地……? しかもあれって……」
場所は遊園地だった。そこから出て行く住民を追い掛けているのは、人間大のロボット。そう、前に平野を怪物化させた張本人である。
今、警察官が応戦しているが、ロボットの群れに押されてしまっているようだ。どうやら彼らの手でも対処は出来ないようである。
――ゴンゴンゴン!
「ん? ギャアアアアア!?」
今度は窓から妙な音。見てみるとローブ姿の幽霊が――ではなく、エメレンター姿の紗香がいたのである。
どうやら開けてとばかりに叩いているようだ。思わず驚きながらも、すぐに開ける玲央。
「玲央ちゃんおはよう! そしてごめんね、こんな所から!」
「いや、別にいいですよ……。それよりも何でここが……?」
「今さっき手塚さんに教えてもらったの。それよりも知っていると思うけど、フォレストフレンドパークに大量のロボットが現れている! 早く行こう!!」
そう説明する紗香だが、玲央がふと疑問に思っていた。
よく見ると、彼女が非常に焦っているようにも感じる。怪訝に思ってしまうのだが、それよりも事態の収拾が先である。
「分かりました……そんじゃアキ君、行ってくる……」
「あっ、玲央ちゃんのお兄さん……! 初めまして、少し妹さんお借りします!!」
「お、おう……気を付けてな……」
とりあえず兄の承諾は経たので、すぐに玲央は変身。
鎧姿の魔法少女――マレキウムとなって、紗香と共に窓からジャンプ。屋根に飛び移った後、再び屋根へと飛び移っていった。
魔法少女の身体能力なら、車を使わなくても目的地へと到着出来る。そもそも車よりも速いのかもしれない。
「ふぁ~……ねむ……どわああ!!?」
眠気であくびをしてしまったと思えば、何と足が屋根に埋もれてしまったのだ。
どうやらここの屋根が相当古いからか、人が乗ると破れてしまうらしい。玲央の異変に気付いた紗香がすぐにUターンし、彼女を引き上げようとする。
「大丈夫!? ここは後で弁償しに行くから!! ほらっ早く!!」
「あざす……それよりも何か急いでません?」
「説明は後!! とにかく早く!! 藍ちゃん達も駆け付けているらしいから!!」
やはりどこか焦っている紗香。玲央を完全に引き上げた後、すぐに屋根から屋根へと飛び移っていた。
今まで真面目だった紗香が実に落ち着かない。疑問に思いつつも、玲央はすぐに彼女の後を追い付こうとする。
が、それでもすごく眠い。今、ジャンプをしていてもボォーとしてしまう程である。
そんな状態が続いたせいか、いつの間にか街並みが大分変わっていった。そこに紗香の声が聞こえてくるのを、玲央はおぼろげに感じる。
「玲央ちゃん、見えてきたよ! ……玲央ちゃん?」
「ふわぁ!? あっはい」
確かに目の前に、アトラクションが集まった場所が存在する。あれがフォレストフレンドパークのようだ。
出入り口には乱暴に置かれた多数のパトカーや、逃げ惑う人々の姿が見える。さらには何と、小学生程の男の子と彼を追いかけるロボットの姿があった。
そのロボットが男の子を押さえ、手のひらから針付きのケーブルを伸ばしている。
「ウ、ウワアアアアア!!!!」
「…………」
ひとまず睡魔を押さえ、ハルベルトを投げ飛ばす玲央。
しかしロボットがそれに気付き、男の子を離しながら回避してしまった。そこを玲央がハルベルトを回収しつつ、敵へと接近。
この時、ロボットが玲央の頭を殴った。鈍い音と共に、首が曲がる玲央。
「あいた……いてぇじゃねぇか!!」
殴ったおかげで眠気が覚めた。まさに不幸中の幸い。
玲央がロボットの蹴りを回避し、ハルベルトを大きく振るう。そうしてごつい先端がロボットに直撃――バラバラに砕いていった。
「大丈夫、怪我は!?」
へたり込む男の子へと駆け寄る紗香。
男の子が涙目になりながらも、彼女へと頷く。
「ありがとうお姉ちゃん……それよりもあのロボットを何とかして!! 後……」
「後……?」
「一緒に遠足しに来た友達が、まだ中に残っているの!!」
「……!?」
その言葉に、動揺したような表情をする紗香。
一体何故そんな顔をしたのか、今の玲央には分からなかったのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます