#17 自分がやるべき事
かくして、巨大怪物事件は三人の魔法少女により幕を閉じた。
すぐに管理課の職員が到着し、気を失っている平野とロボットの残骸を回収。前者は身体にあるとされるエヴォ粒子の取り除き。後者は一体誰が作ったのか調べるらしい。
なお被害のあった真谷中学校は、早急に授業を中断。生徒達を早めに早退させる事となり、大勢の生徒達が(ちょっと嬉しそうに)家に帰っていく事なる。
玲央達は誰もいない公園で落ち合う事になっており、学校早退後にそこに集合。すると玲央が早速ある行動を取ったのである。
「お願いします、先輩。あのロボットを召喚して下さい」
「えっ? いいけど……」
少々困惑する夏樹だが、すぐに何もない所へと手をかざす。
手の前に電流が発生し、あのロボットへと変わる。すると玲央が輝いた瞳で見つめ、あろう事かロボットの装甲へと頬をすりすりさせた。
「ハァハァハァハァハァハァハァ……かっこいい……かっこいいわぁ……このひんやりとしてマッシブな装甲……巨大な姿……たまらん……ハァハァハァ……」
「……あの……どうかしたの?」
「気にしないで織笠さん。彼女オタクだから」
今、玲央はこのロボットに対してデレデレしていた。
彼女自身ロボットが好きで、ロボットのプラモデルをよく作っている。それが目の前に現れた事に、彼女の心が破裂しそうな位に興奮しているという訳である。
不愛想な表情から考えられない程に顔がとろけ、よだれを垂らしている。彼女のある意味凄い行動に、紗香達はドン引きするしかなかった。
「……ま、まぁ、これでいいんだね、織笠さん?」
ひとまず玲央を放っておいて、夏樹に問い掛ける紗香。
対し夏樹は大きく頷く。決心に満ちた瞳をして、自分のロボットへと振り向く。
「テニスも大切だけど、今の生活も大切なんです。だから僕は、その生活を脅かす悪党と戦う事にする……。
これでいい……かな……?」
「……ありがとう。ではよろしくね、
紗香の名前呼びは友達の証。それを知っているのは玲央位であるが、夏樹がその意味を理解したのか微笑んだ。
途端、その中性的な顔が玲央へと振り向く。彼女はスマホでロボットを撮影しているが、さすがに夏樹の視線には気付いた。
「彩光さんありがとう……君のおかげで目が覚めたよ」
「……ん? 目が覚めた?」
「うん、昨日言ってた『自分がやるべき事をやればいい』。その意味を、あの戦いで分かってきたんだ。
……本当に感謝している。君はやっぱり素晴らしいよ」
「……ああ、えーと……はい……よかったです……」
実は昨日言った台詞を、この本人はすっかり忘れている。
しかしそんな事を口が裂けても言える訳がない。ぎこちない笑みを見せながら、とりあえず返事するしかなかった。
そしてすかさず別の話題へと、自然に変更させようとする。
「先輩先輩、このロボットの名前どうしますか?」
「……名前? すぐにそう言われても……」
どうやら名前を考えておらず、深く悩んでいる。
この時、玲央の口元が大きく歪んだ。彼女はこのロボットの名前をちゃんと考えており、今なら名付け親になれるチャンスである。
「『メリュジーナ』ってのはどうですか? 伝説に出てくる蛇女で、ドラゴンの翼を持ってますからぴったりと思いますよ」
「何でそんな事を……?」
「伝説の生物に関しては知識持ってますので」
ファンタジーゲームが好きなので、こういった伝説生物の知識が勝手に吸収されてしまうのだ。紗香へと誇らしげに語るどや顔の玲央。
今ここで、メリュジーナと名付けられた夏樹のロボット。すると夏樹が愛機メリュジーナへと近付き、金属質の装甲を宝石を扱うかのように優しく触れる。
「メリュジーナか……うん、いい名前。
よろしくね、メリュジーナ」
愛機へと、優しく語り掛ける。
もちろんメリュジーナは返事をする訳がないが、それでも玲央は分かっているのだ。例え言葉がなくとも、操縦者とロボットには見えない絆がある事を……。
===
さらに翌日の事。
真谷中学校自体はそこまで破壊されていないので、学校再開は何とか出来るようになっていた。さすがに玲央が抉った地面などはすぐには直せてないので、未だ工事の方々による修復がなされている。
あの襲撃で怪我を負った生徒達もおらず、元気に授業に励んでいる姿が見受けられる。最も休学で休めると思っていた一部の生徒もいるので、テンションが低いのもいるのだが。
「……二度とこんな事が起こらないようにしないと……」
休み時間の事。夏樹は部活動で使っているテニスコートへと足を踏み入れていた。
学校に対してテニスコートは怪物によって多少荒らされており、二週間程は使えない状態である。もちろん部活動はしばらく出来ず、立ち入り禁止になっている。
怪物が暴れるとどうなるかのを、如実に物語っているこの光景。あの時、玲央達が何とか食い止めたのだが、もしも怪我人が出てしまったら……。
こうならない為にも自分達で何とかするしかない。そう感じた夏樹が教室へと戻ろうと引き返そうとする……のだが、ふと何かに気付いて足を止めてしまう。
テニスコートの樹木の近く。そこに人影があったのである。
「あれは……」
木の影に隠れながら近付いてみると、何と玲央と昨日怪物化した平野だった。
平野の方はすっかり平常になっており、とっくに復帰をしていた。紗香が言うにはエヴォ粒子という物が倒された時に取り除かれ、二度と怪物化しないとの事である。
その彼が玲央と面を向かっているので、何を話しているのかと耳を傾けると……
「あの……実は昨日の記憶がないんだけど、それでも君だけは頭の中で印象が残っているんだ……。
だからお願いです……どうか付き合って下さい!!」
(あれぇ??)
まさかの告白だった。それも
余程根性があるのか開き直りが早いのか。そもそも平野は三年生で玲央よりも年上。玲央の容姿も相まってまさしくロリコンのような感じだが、当本人は全く気にしていない。
「……先輩、日本映画の『ヤマトタケル』って知ってますか……?」
「…………えっ?」
(……えっ?)
いきなりの質問だった。平野と夏樹の目が点になってしまう。
対し玲央は本気なのか、無愛想な表情を一切崩さなかった。
「……いや、そんなの知らないな……」
「じゃあアニメの『
「……それも……」
「すんません」
平野の返事を聞くなり、あっさりと断ってしまった。
そのまま去っていく彼女を、呆然と見つめる平野。だがようやく我に返り、疑問を投げ掛けていく。
「えっ!? ちょっ!? 何で断ったんだ!? 出来れば理由を!!」
「オタクの真髄を知らない人とは付き合えないんです……すんません……」
「……………………」
理不尽(?)な理由であった。平野の開いた口が塞がらず、樹木の中で立ち尽くしてしまう。
だが夏樹の方は、去っていく玲央へと興味深そうな目で見ていたのである。その口から、小さい呟き声を出しながら……。
「オタクか……ちょっと気になるかも……」
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