#21 手に入る新しい力

『私の拳が唸る!!』


 迫り来るロボットに対して、《双龍牙拳》で次々と叩き潰していく藍。 

 今までのクールさがどこに行ったのやら、実にハイテンションと言わんばかりの姿になっている。もはや彼女を止められるのは誰もいない事だろう。


『まだまだ行くぞ! 《烈龍閃光れつりゅうせんこう》!! うおおおおおおお!!』


 彼女の身体が、赤いエネルギーに染まっていく。

 直後、電光石火のスピードでロボット軍団に突入。その背後で止まった時、軍団が粉砕――爆発四散するのだった。


『決まった……』

「決まり過ぎでしょ……」


 まるで特撮を思わせる爆炎と粉塵の中、彼女のドヤ顔が光る。

 そんな彼女の活躍を、夏樹がメリュジーナのコックピット内で見ていた。まさか先日に初めて出会った仲間がこんなにもテンション高いとは思わず、ただただ呆れるしかない。


「っと、そんな事よりも……」


 一旦藍は置いといて、目の前のロボット軍団へと振り向く夏樹。 

 彼女がいるコックピット内は、まさにロボットアニメを思わせる空間となっている。前面に景色を映す巨大モニター、両手で握る操縦桿、そして足にはペダル。


 そのモニター内で、敵が一ヶ所に集まっている。ケーブルを使って結合し合い、巨大化し、遂には一体の巨大ロボットへと変わっていく。

 最も表面には多数のロボットが埋め込まれているので、巨大化しているというよりは軍団がロボの形になったと言うべきか。いずれにしても突然の現象に、夏樹は息を呑む。


「メリュジーナに対抗する為か……いいよ、相手になってやる!」


 背中から二本のブレードを取り出し、突貫するメリュジーナ。

 対しロボットが、右腕から数本の触手を放つ。それを両翼ユニットのスラスターで巧みに回避。Uターンして再び向かってくる触手を、ブレードで斬り裂く。


 そのまま夏樹が操縦桿を動かし、高速でロボットの背後に付いた。敵が振り返ろうとする前に、二本のブレードで一刀両断。

 ロボットの身体が三枚おろしとなり、地面に倒れていった。


「ふぅ……二人は大丈夫かな……?」


 自分達は何とかやっているのだが、その一方で玲央達の事が気掛かりである。

 しかし必ず子供を救出してくると思っている。その為にも、ここにいるロボットやミュータントを全滅しなければならなかった。

 



 ===




 弟達を救う為、アトラクションの中を突き進む玲央達。


 やがて彼女達が、その一つであるジェットコースターへと到着した。普通の有名なコースターよりも小さいが、それでも高所恐怖症にはたまらない程の高さがある。


「! 和樹、春姫……!」


 そのジェットコースターの前に見える、三人の人間。

 まずジェットコースターを背にして身構えている二人の子供。二人とも顔が紗香に似ており、彼女の弟達という事がよく分かる。


 そして二人の前には、玲央すら知らない男性が一人。


「ほ~ら、鬼ごっこは終わりだぜぇ~?」


 後ずさっていく二人に対し、ゆっくりと近付く男性。

 どう見ても穏やかそうには見えない光景だった。だからだろうか、紗香の顔に怒りが見えてくるようになる。


「止まりなさい!!」

「「! お姉ちゃん!!」」

「ああん?」


 紗香の声に、弟達が安心するような表情をした。対しおもむろに振り返る男性。

 いざ見てみると、常に笑みを浮かんだ不気味な表情をしていた。今着ている少し黒ずんでいる白衣と相まって、まるでマッドサイエンティストのような印象を持つ。


 それにボサボサ髪とその目つき。玲央はもちろん紗香もここで判断をした。


「……あなた、韮澤凱ね?」

「おお、俺の事をよく知ってんなぁ!! もしかして俺有名人か!? 

 という冗談は置いといて、やっぱり来てくれたんだな!! 嬉しいぜ、マレキウム!!」

「……私?」


 いきなり指名されて、思わず玲央が自分を指差してしまう。

 そうすると男性――韮澤凱がさらに笑みを強くする。その気持ち悪い程の不気味さは、玲央が少々引き気味になってしまう程だ。


「そうそうそう!! 先日、ロボットと戦っただろう? あの時の映像を見た時、お前の特異性に興味を持ったんだ。

 その鎧や戦法を解析すれば、目的を達成出来るってな」

「……目的……それがこの遊園地と何の関係が……」

「それはもちろん実験だ!! それもロボットの『キリング』を使った実験!! 俺はあらゆる実験をしてどんな結果になるのか大の好物でな。管理課にいた時も自分に対してやってたが、途端にクビにされてしまった。まぁ、今となってはどうでもいいけど」


 紗香にそう答える韮澤は、どこか嬉しそうだった。

 この時に玲央は感じた――この人は他のヴィランと違うと。気持ち悪さに厄介さに存在感……放っておいたらいろんな意味でマズいだろう。


 そう玲央が考えた時だった。突如として韮澤が右の袖を捲り上げる。

 少し日焼けした腕には何がはめられている。それは玲央が持っているデバイスと、よく似た機械的な腕輪だった。


「その鎧を解析した成果を見せてやろう。これでお前という本物よりも、超えている事を証明する……。

 韮澤凱、変身いいいん!!」


 わざとらしい掛け声に、腕輪を上に挙げるようなポーズ。それを見てしまったせいか、玲央の勘に触ってしまった。頬にも青筋が立っているかもしれない。

 紗香も同じか「いい年して何をやっているんだ」と言わんばかりの唖然顔になっている。しかしそんな微妙なリアクションを取っている二人に対し、何と腕輪から金属の装甲が現れてきたのだ。


「見ろぉ、この姿!! 長年エヴォ粒子を注入させた自分の戦闘用として、マレキウムを参考にして造り上げたパワードスーツ――『ヴラッド』だああああ!!」


 装甲が韮澤の身体を包み込んでいき、やがて巨大な鎧となる。


 青黒く刺々しい筋肉質の装甲。手足には鋭い鉤爪が備わっており、頭部には赤く輝くゴーグルアイ。そして元の姿から大分変わった、三メートルはある巨大な姿。

 彼が操っているキリングというロボットを、さらに禍々しくしたような姿。さらに大きさからして、パワードスーツというよりはまるでロボットのようだった。

 

「今から実験を開始する!! お前ら、そこを動くなぁ!!」


 ゴーグルアイに光が収束した直後、一直線になって放たれる。

 それは赤いビームだった。玲央と紗香が回避すると、今まで立っていた地面に着弾――大爆発が起きる。その威力に驚きながらも、隙を利用して弟達を抱えつつ救出する玲央。


 玲央達が一旦離れている間、紗香がヴラッドとなった韮澤凱へと向かう。それも一目で分かる、憎悪の目つきをしながら。


「よくも弟達を……許さないんだから!!」


 ヤルングレイプから《ファイアーバレット》を射出。しかし見かけによらないジャンプでかわされ、背後へと回られる。

 一方で離れた所に和樹達を置いた後、ヴラッドへと飛び掛かる玲央。そのまま《Kickキック》を頭部にお見舞いし、巨体を大きくのけ反らす。


「ヒャハハハハハ!! 調子乗んなああああ!!」


 しかし玲央の足がヴラッドに掴まれた。大きく振り回され、ジェットコースターへと放り投げられる。

 激突しそうになるも、何とか足で骨組みを踏み、軽やかにレールに飛び移った。同時にヴラッドも向かい、彼女の目の前で着地する。


「一つ聞いていいか? 俺はおめぇが付けている腕輪が、マレキウムへの変身アイテムだってのを知っている。しかしその腕輪を誰が作ったのかが分からない。

 その辺、聞かせてくれないかぁ?」

「知らないですよ、そんなの」

「知らねぇのかよ!! まぁ、そいつを解析すれば、何なのか分かるかもしんねぇけどな!!」


 突如、ヴラッドの両肩から二つの砲塔が生えてきた。その銃口から弾丸が放たれる。

 動体視力も発達している為、ハルベルトで弾丸を難なく弾く。そうして二人が戦っている間、紗香がヴラッドの背後へと回る。


 しかし気付いたのか、ヴラッドが振り返るなり左腕の鉤爪を射出した。鉤爪には触手状のコードが繋がっており、それが紗香の身体へと巻き付く。


「ぐっ! しまった……!!」

「おお、触手プレイ……!」

「玲央ちゃん、戦闘の最中だよ!! ん……!」


 触手が嫌らしく絡み付く。妙な所を触れたせいか、喘ぎ声が出てしまう紗香。

 そんな彼女の様子を、韮澤がゲスい笑い声を上げながら見ていたのだ。いつしか、紗香の額に青筋に……。


「調子に……乗るなぁ!!

 我が敵を蹂躙せよ、《ロックジャイアント》!!」


 玲央にとって、初めて聞く呪文が発せられた。直後、ヴラッドの背後に複数の岩が発生する。

 岩が結合し合いながら、まるで生物のような姿へと巨大化。そうして完成されたのが、何と下半身のない岩の巨人。


「ああん? グエエエエ!?」


 巨人が岩の拳をもって、ヴラッドの頭部へと殴り付けた。衝撃で、紗香を縛っていた触手が解かれる。

 その間にも、《ロックジャイアント》がヴラッドを殴り続ける。「ぐええ!? あぐう!?」と悲鳴を上げてもやめないその姿……まるで、紗香の怒りが乗り移っているかのようだ。


「いいよ《ロックジャイアント》! そのままタコ殴りにして!!」

(……こわあ……)


 さすがの玲央も、これにはドン引きするしかなかった。改めて、紗香を怒らせると怖いと認識する始末だ。

 そんな彼女だったが、途端に持っているスマートフォンから着信音が聞こえてくる。一瞬迷った玲央だったが、出た方がいいと判断してそれを取り出した(その際にポケットを覆っている装甲を消去している)。


「はい」

『彩光ちゃん、今は大丈夫?』


 電話を掛けてきたのは、上司である手塚である。

 今は《ロックジャイアント》がタコ殴りしているので、とりあえずOKを出した。


「ええ、一応大丈夫ですよ」

『じゃあよく聞いて。あなたが持っているデバイスのコピーデータ、そのブラックボックスの一部が分かったわ。今から説明するね!』

「おおー」


 どうやら解析が上手く行ったようだ。ブラックボックス自体には興味なかったが、手塚の仕事の速さには感銘を受ける玲央。

 聞いてみると、彼の説明は至極簡単だった。それはもう、今の玲央でも実行出来る位に。


「……わっかりました。じゃあ試してみます」


 スマートフォンをしまうなり、ヴラッドへと突入する。

 紗香もこれには気付き、《ロックジャイアント》がヴラッドから離脱させる。だが同時にヴラッドが振り返ってしまい、ゴーグルアイから光を集めてしまう。


 何が来るのか分かっている玲央は、そのままジャンプ。放たれたビームをかわししつ、何とハルベルトをゴーグルアイへと突き刺した。


「いで!!?」

「《Absorbアブソーブ》」


 ゴーグルアイに集まっている光が、ハルベルトへと吸収されていく。それで頃合いになった頃、後方へと下がる玲央。

 そして彼女がハルベルトの先端を向ける。内部に、青白い光を放出させながら。


「威力を絞って、そっくりそのまま返しますんで。《Beamビーム》」

 

 ハルベルトから放たれる、ヴラッドのと酷似した青白い光線。それが直進しながら、回避出来なかったヴラッドの胴体へと直撃をする。

 遊園地内に響き渡る断末魔。やがて彼の身体が威力によって、地面へと吹っ飛ばされるようになった。

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