#22 兄妹がいるから分かり合える

 玲央が放った《Beamビーム》により、ヴラッドがジェットコースターのレールから落下する。

 巨体が地面へと向かい、激突。地面には巨大なクレーターが出来上がり、細かい粉塵が舞い上がった。


「……ヒャ……ハハ……お前ら……ただじゃあ……」


 粉塵から声がしたと思えば、そこからゆっくりと立ち上がるヴラッド。

 だが装甲がボロボロの状態になっており、今にも倒れそうな程に足元がおぼつかない。その姿を見た玲央がもう一発放とうかと考えていたが、すぐにハルベルトを下げる。


「ただじゃあ……何だって?」


 何故なら、ヴラッドのすぐ後ろに《ロックジャイアント》がいるからである。

 ヴラッドが振り返ったのだが、もはや遅かった。巨大な岩の拳で殴られ、地面に再び叩き付けられるヴラッド。

 そうして呆気なく昏倒。巨大なパワードスーツが消え、元の韮澤凱として戻っていった。


「やっぱキレると怖いですね、紗香さんって……」

「ん? 何て?」

「いや、何でもありません……」


 何かもう一回言うと後悔しそうな気がしたので、とりあえずやめにした。

 それはともかく辺りを見渡す玲央。レールの上から広い遊園地が全貌出来るが、肝心のロボットやミュータントの姿は全く見当たらない。どうやらヴラッドと戦っている最中、全滅したようである。


 ようやく戦闘が終わったようだ。どっと疲れが出て、息を大きく吐く。


「「お姉ちゃーん!!」」


 ジェットコースターの下から聞こえる声。

 そこにはいつの間にか来た夏樹と藍、そして和樹達がいたのである。玲央達が早速合流すると、すぐに弟達を抱き締める紗香。


「よかった……二人とも、怪我はないよね!?」

「うん! 僕が春姫を守ったからね!」

「もうお兄ちゃんったら……。でも、お姉ちゃんが助けに来てくれた事がすごく嬉しかった……」

「……私も嬉しいよ、あなた達が無事で……」


 うっすらとだが、紗香の目尻に何か光ったような気がした。

 それが涙だと分かった時、玲央はどこか他人事じゃないような気がしてくる。理由は分からないが、とにかくそう感じて……


「皆も無事でよかった。本当にありがとう、夏樹ちゃん、藍ちゃん……」

「いやいや、弟達が無事で何よりですよ。それよりもミュータント化した人の中にこの子達の先生がいまして、今は管理課の人が搬送しています。もっとも先生を助けたのは観月さんですけど」

「わざわざ言わなくていい! しかしまぁ、まさかお礼を言われるとは……とにかくありがたく受け取るぞ! いいな!?」


 藍がそっぽを向くも、赤い頬が丸見えである。その姿に玲央は呆れるわ、紗香と夏樹がクス笑いをする始末。

 そして、不意に玲央へと振り向く紗香。優しそうな微笑みに、思わず玲央もたじろぐ。


「玲央ちゃんもありがとう……やっぱりあなたは最高だよ」

「……ああ、どうもっす。でもこれは手塚さんがブラックボックスを解析しただけで……」

「それでもあなたの実力だよ。本当に……ご苦労様……」

「……はいっす」


 照れながらも、思わず顔を覆っている装甲をかいてしまう。

 その時、玲央の中からが込み上げてきた。もっともそれに気付かない紗香が、弟達の頭を撫でながら伝える。


「外に友達がいるはずだから、すぐに合流してあげて。私達は撤収するから。

 さて、玲央ちゃんはすぐに家に帰った方がいいかも。お兄さんが心配しているし……」

「…………」

「……ん? どうしたの? 玲央ちゃん?」

「………………」


 声を掛ける紗香だが、対し玲央は返事をしなかった。

 その訳とは……。

 



 ===




「……終わったみたいだな」


 居間のテーブルに座りながら、テレビを眺める晃。

 テレビにはニュースが流れており、そこには怪物やロボットが全滅したという報告がなされていた。さらに現場の遊園地にはパトカーや救急車が見える。

 

 一方で肝心の魔法少女に関する情報はない。存在自体が眉唾物とされているので、つまりはそういう事なのだろう。


 ――ピーンポーン。


「ん? はぁい」


 鳴り出す呼び鈴。誰が来たのだと知り、すぐに玄関へと向かった。

 扉を開けてみると、そこには長い黒髪をした少女が立っている。しかもあろう事か、背中に玲央を背負っているのだ。


「玲央! それと君は今朝の……」

「あっ、初めまして、玲央ちゃんと一緒に第六管理課に勤めている乙宗紗香と言います。

 実は玲央ちゃん、相当眠いのか立ったままうとうとしてまして、それでおんぶしてたら……」

「爆睡したと……多分夜更かしのせいだろうね……」


 今、玲央は背中でぐっすり寝ている。図々しい事この上ない。

 すぐに晃が、紗香から玲央を受け取る。その際に妹をお姫様抱っこをしているが、玲央が居間で寝ている所を運ぶ事があるので、特に気にしていなかった。


「ありがとう。せっかくだし上がっていきなよ。ココア用意するからさ」

「えっ、でも……」

「大丈夫だよ。それに君と話したい事もあるしな。ささっ」


 そう言って、紗香を中へと入らせる。

 玲央をソファーに眠らせた晃が、すぐにココアを用意をする。そうしてテーブルに座らせた紗香と自分の前へと、二つのカップを置いた。

 そのカップから漂う湯気の奥で、ペコリとお辞儀をする紗香。


「どうもすいません……にしても……ええと……」

「ああごめん、俺は彩光晃。君は乙宗紗香さんだよね?」

「ええはい。では彩光さん、ちょっと思ったんですけど……兄妹にしてはあまり似ていないような……」

「ああ、よく言われる。まぁ、あいつはオタクだった母の影響を受けているから、色々とアレだけど……」

「ハハ……そうですか……。でも今日の玲央ちゃんは本当に頑張りました。やっぱり彼女が管理課にいてくれてよかったとも思います」

「そうか……それはよかった」


 どうやら上司達に迷惑を掛けていないらしい。ホッとしながらも自分のココアを飲む晃。

 そんな彼に、紗香が次の質問をするのだった。


「あの……妹さんが魔法少女でいる事を、どう思ってますか?」

「……どう思うか……」

 

 晃の視線が、紗香からバカな妹へと移っていく。

 話し合っている二人を尻目に、ぐっすりと眠ってしまっている。実にマイペースで呆れた妹だが、それでも思う所はあった。


「まぁ、最初は驚いたかな。でもあいつにはあいつなりの正義というか……信念があるから、俺は見守る事にしたんだ。それに……」

「それに?」

「……こいつは腐っても俺の妹……だから分かるんだ。

 こいつは強いって。俺の助けがいらない程に強いって事に」


 そう、玲央は強い。例えバカな頭をしていても、夜中ゲームしていても、漫画を読んでニヤニヤしていても、それは絶対に変わらない。

 だからこそ見守る事にしたのである。自分よりも強い妹の活躍を……。


「……彩光さん、妹想いなんですね」

「そうかな……普通だと思うけど。そういう乙宗さんは兄妹いるの?」

「ええ、下に弟と妹が。育ち盛りなので世話が大変ですけど、やっぱり可愛い物ですよ」

「……可愛いか。まぁ、こいつに関しては可愛いと言うか、見過ごせないというか……」

「言えますね」


 二人とも同じ考えだった。思わず一緒に笑ってしまう。

 それでもなお玲央は未だ熟睡をしている。果たしてどんな夢を見ているのか、彼女にしか分からない……。




 ===




「お疲れ様です、手塚教職員。彼はこちらになります」

「ええ、どうも」


 警備員と思われる男性と共に、その廊下を歩く手塚。

 この場所は第六管理課から遠く離れた所にある、管理課管轄の収容所。ここには多数のヴィランが収容されており、元の姿に戻す為の研究もされている。

 

 エヴォ粒子を取り除くだけなので、かなりの時間は掛かるが人体に影響はない。それで人間に戻したヴィランを更生し、釈放させるのがこの収容所の役目だ。


 手塚はそのヴィランが放り込まれている牢屋へと辿り着く。そして一つの牢屋にいる、ある人物と出会う。


「会うのは初めてね。韮澤元管理課職員」

「ああん? 誰だお前ぇ? てかオネェとかマジ引くわー」


 ベッドの上に、あの韮澤凱がいた。

 ヴラッドに変身する為の腕輪はもちろん回収。今はエヴォ粒子による身体能力だけの一般人なので、別に警戒する必要はない。


「まぁともかく、俺に何の用だ? 釈放か?」

「な訳ないでしょう。あなたはエヴォ粒子への研究技術はもちろん、キリングというロボットを造れる程のロボット工学を持っている。

 こう言えば、何となく分かるでしょう?」

「分かるかぁ! いいから俺を釈h……アベベベベベベベ!!」


 韮澤が牢屋に触れた時、彼に電流が走る。

 すぐに手を放し「あいた~」と情けない声を上げる彼。その姿に、手塚はやれやれと首を振るしかない。


「対ヴィラン用の電流が流れているの。ここに入る時に言われなかった?

 まぁそれよりも、どうしてもあなたの技術が欲しいのよ」

「……具体的に何すんだよ?」

「……フッ、それはね……」


 手塚の口元が、怪しく上がっていく。

 まるで、よからぬ事を考えているような、何かを企んでいるような、そんな不穏な表情であった……。

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