#30 ドキッ! 少女だらけの合流会
ホールの前にある舞台に、一つの演壇があった。そこにスーツを着た一人の女性が立っていたのである。
初老だからか白髪と皺が目立つが、どこか威厳などが見えなくもない。また日本人的な顔立ちをしているが一方で青い瞳をしているので、恐らくは外国人かハーフだと思われる。
そんな女性が怒りの形相をし、喧嘩していた二人の魔法少女へと指さしていった。
「全く礼儀がなっていないようだね……。同業者同士で喧嘩しているようならば失格も同然、もし続けるなら出て行ってもらうよ!!」
「……あ、あなたは?」
「私は管理課本部長――サリア・マサユメ。これで分かったろう? 喧嘩はやめて席に着きな」
「……くっ」
お嬢様タイプの魔法少女が先に折れたようで、変身を解く。続いて黒コートの魔法少女も、諦めて他の席を探そうとした。
もちろん藍も言うまでもない。恥ずかしさで顔を赤くしながら、マサユメへと振り向く。
「名前は聞いていたが、やはり女性だったか……」
「知っているんですか?」
「知らないはずがないだろう。管理課本部長であらゆる魔法少女を熟知している者。さらに元科学者でエヴォ粒子の第一発見者らしい」
「第一発見者……ですか……」
つまりは魔法少女やヴィランの事を最も知っている人という事になる。
そのような偉い人が来たからか、さっきまで騒がしかった魔法少女達が素直に席へと座る。静かになった所で、そのマサユメが語るのだった。
「という訳で魔法少女達、よく来てくれた。今回は年に一度の合流会をやろうと思ってね、一日だけお世話をしてもらうよ。同じヴィランを倒す者同士、色々と明かしてもいいしね。
「…………」
誰もがマサユメを黙って見つめている。故に彼女が言い終わった後、ホールには静けさが増す。
玲央もまた同様だが、同時に引っ掛かる思いもする。理由はよく分からないが、何故かそう感じてしまうのだ……。
===
「ふぅ、若い奴らは色々と大変だねぇ」
あの後、マサユメは舞台から降りる事となる。
そのまま数人の研究員と共に廊下を歩き、ある場所へと向かおうとしていた。その途中にも研究員から話が伝えられる。
「魔法少女の数はざっと五十二人。もちろん風邪や都合などで来られなかった者もおりまして、不十分ではないかと……」
「十分だ。あんた達はあの子達を見くびっているのかい? 仮にも何回ものの修羅場を乗り越えている。そう考えれば五十二人で十分だろう」
「しかし……」
「しかしもクソもないよ。とりあえず、例の資料は?」
「あっ、はい、こちらに……」
もう一人の研究員が持っている、数枚の資料。それをマサユメへと渡す。
資料には白黒印刷された、何らかの島の写真がある。さらにその下には、まるで心電図のようなグラフ。
「うむ……さっきよりも微かにだけど、反応が強くなっている。単なる誤差とかならいいけど……」
そのグラフを見つめて唸るマサユメ。やがて彼女達の前に、ある一つの扉が見えてきた。
おもむろに中に入ると、中には多数のパソコンと研究員達が埋め尽くされている。パソコンからの光が広い部屋へと反射されており、また忙しく作業をしている研究員の声などが聞こえてくる。
その中をマサユメ達が突き進むと、ある人物の姿が見えてきた。
「手塚、遅くなったな」
「あら本部長、お疲れ様です。早速ですが、反応は未だ微弱の状態のままですね」
玲央達の教職員である手塚であった。彼がパソコンに映し出されていたある物を見ている。
それは資料の写真にあった島の全体図。その真ん中には赤い点があり、周囲には複雑な数字が取り囲んでいる。
まるで、何らかの反応を示しているかのように。
「もしかしたら目覚めないかもしれないし、そうじゃないかもしれない。後はこのまま合流会が終わればいいんですけどね……」
「全くだ……こんな厄介なのが目覚め、街に侵入でもすれば一体どうなるのか……。何と言っても奴は……いや、ここまでにしよう……。
それはともかくとして、あんたの教え子……確か彩光玲央だったかな? あの子はどうなんだい?」
「未だ変身は出来ない状態です。しかし仮にもブラックボックスの更新がされた場合、強大な戦力になる事は間違いなしです。彼女もそれなりの正義感がありますしね」
「……正義ねぇ……」
マサユメの目が、モニターから机の資料へと落ちる。
資料には魔法少女の詳細データが記されており、あらゆる数の少女の写真がある。その中で注目しているのが、手塚の言う彩光玲央の写真。
「……どこの馬の骨のか知らんが……頼るしかないのかね……」
===
本部にももちろん魔法少女が勤務してるらしい。それも重要な施設である為、それなりに優秀な少女が多い。
「ここがあなた達の部屋です。テレビとか冷蔵庫とかあるから好きに使って下さいね」
その彼女達が、お呼ばれされた玲央達に部屋へと案内させる。
玲央達が中に入ると、まるでホテルのルームを思わせる空間が広がっていた。それも数個のベッド付き、冷蔵庫、さらには冷暖房にテレビと、下手なホテルよりも充実している。
――ただ、この部屋を玲央メンバーの他にも、別の魔法少女メンバーが一緒に休むという事だ。つまりはちょっとした同棲という事になる。
「何でわざわざ……部屋が足りなかったのか?」
「これも本部長の指示なんです。交流を深めるには一緒に寝るのが一番と。それに相性がいいメンバーと組み合わせているので、喧嘩はあまりないかと思われます」
紗香よりも年上らしい魔法少女が、藍にそう答えた。それから「失礼します」と一礼をした後、部屋から去っていく。
どこか釈然としなかった藍の傍ら、紗香達や他の女の子達が早速部屋でくつろぎ始めた。もちろん玲央も適当なベッドに寝転がり、バックから携帯ゲームを取り出す。
プレイするのは『大激闘スマッシュヒッターズ』。あらゆるゲームキャラが集結し乱闘するゲームで、一人でやっても皆でやっても面白い。
なおシリーズ四作目であり、玲央は初代からやっているのだ。
「あっ、スマヒタ持ってたんですね! よかったらやらない!?」
「えっ、持っているの!? やろうやろう!!」
「あーん私もー!」
そんな玲央だったが、何と他の魔法少女がやってきたのである。
皆してゲームを持ってたので思わずびっくりしてしまう彼女。どうやら先程の案内人が言ってた相性云々はこういう事だったらしい。
「あっ……はい……じゃあ早速普通の対戦プレイから……」
「さんせーい! あなた名前は?」
「……彩光玲央です」
久々の人見知り症を発症してしまう玲央。それから互いに自己紹介をかわし、スマッシュヒッターズの対戦をプレイ。
このゲームはいわゆるバトルロワイヤルで、残り一人になるまで戦う物である。今ここに、彼女達に熾烈な戦いが始まろうとしていく(ゲームの中で)
――その数分後の事だった。
「負けた……」
「ううう……ううう……!」
「アッー!!」
また一人、また一人と脱落者が続く。
落胆する者。泣き出す者。悲鳴を上げる者。その敗者の中で輝いているのが……
「なっ、この人強いです!! しかもあの高難易度テクニックである超絶回避をここまで使用するとは!!」
何を隠そう、彩光玲央である。
彼女が操る重量級キャラがステージの中をかけめぐり、次々とキャラが葬っていく。それを表情を変えずに淡々としているので、尚更恐ろしい。
なおその機動性がゲームにあるまじき気持ち悪さ(何でもバグとテクニックを利用した動きらしい)なので、横から覗いていた紗香達が少しだけドン引きをする始末である。
「負けてられませんねこれは!!」
「こなくそ!!」
敵は残り三人。一人でやったら敵わないと知ったのか、一斉に襲い掛かって来た。
しかし玲央のキャラがあらゆる攻撃をかわしていく。さらに一人に向かってコンボ攻撃――強力な一撃をノックダウン。
そして二人のキャラには、広範囲の攻撃で同時ダメージ。怯んだ所で……
「フィニッシュ……」
最後の一撃。これで二人を跡形もなく葬ってしまう。
こうして玲央が優勝。彼女の周りには、悲しむ少女達で埋め尽くされるのだった。
「うう……この子強い……」
「私達の知らない所に強者がいるもんだね……」
「はい……賭けた飴あげる……」
「ああ、どうもっす……。まぁ、もう一回やりますか……?」
「……ええ!! もう一回!! というか今のテクニックを教えてくれませんか!!」
そう名乗り出たのが、一人の幼い少女だった。
名前は先程聞いたのが
「そうだね! 教えて彩光ちゃん!!」
「どうかお願いします!! 先生!!」
「強くなりたい!!」
彼女がそう言った途端、他の女の子からも頼ってきたのである。
これには玲央も困惑し、紗香へと縋るように振り向いた。しかし彼女が苦笑して首を振るので、観念するしかない。
「……お、おう。でしたらそうしましょうか……。まず指をほぐして……」
「「「はい!!」」」
こうして玲央によるテクニック教室が始まる。
その間にも、窓から見える空は徐々に暗くなっていく……。
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