#31 その名は襲撃者

 あれから玲央達は、本部が開いた食事会に参加する事となった。


 食事会と言っても、テーブルの上に豪華な食事といったセレブな感じではなく、多数の食事を個人が選ぶバイキング形式である。それを玲央は適当に取り、紗香達と一緒にたらふく食べ尽くしていった。

 途端に、さっき喧嘩していた二人を目撃。すれ違うなり睨み合うが、さすがに喧嘩沙汰はならなかったようである。


 なんやかんやあっても魔法少女達は、垣根を超えた交流をする。そして食事会の次は……


「むぅ……ちょっと恥ずかしいな……」

「紗香さんでも恥じらう事があるんですね」


 温泉である。今から各グループに分かれた魔法少女が、交代で入浴する事となる。

 着替え室で玲央達が生まれたままの姿になっている中、紗香が恥ずかしそうにしている。いつもは堂々としているので、玲央は意外感を覚えてしまった。


 そんな訳で全員脱いだ事で温泉に突入。そこには数十人は入れる大風呂、水風呂、電気風呂、果ては露天風呂が存在していたのだ。


「おお、これはいいなぁ。早速電気風呂を……」

「じゃあ私達は普通に風呂に……って夏樹ちゃん、入るの早いね……」

「ああ、僕風呂が大好きなんで。玲央ちゃんも入りなよ、結構温かいよ」

「ああ、はい」


 夏樹に言われて、早速身を沈めた。

 すると気持ちよさのある温かさが感じてくる。風呂をあまり味わない玲央でも、これには乙な気持ちになった。


「アババババババババ……」


 電気風呂に入った藍が奇妙な声を出している。その間にも玲央達や他の少女達がゆったりと楽しんでいくも、近くにいた七葉が玲央達をまじまじと見つめていたのだ。

 

「星野さん、どうしました?」

「……いやぁ、特に大きいのは乙宗さんですね。彩光さんと観月さんは私と同じ位」

「ああ、なんほど」

「……おいこら、貴様どこ見て言っているんだ……?」


 納得をする玲央。一方で藍が頬をヒクヒクさせる。


 七葉は胸の事を言ったのだ。ちなみに大きい順としては紗香、夏樹、藍、そして玲央と七葉で、特に玲央達はまな板レベルである。

 自分のスタイルを気にしているのか、胸をつまんだりする藍。なお玲央はというとスタイルには無頓着で、さらに小柄なので色々と悪用していたりするのだ(映画を小学生用料金で払ったりなど)。


「ところで星野ちゃん、君はどんな魔法少女なんだ?」


 ここで質問する夏樹。

 聞くなり、膨らみのない胸に手を置いてドヤ顔をする七葉。


「私は千葉県の平和を守りし愛の使者、『魔猫翔女まびょうしょうじょマジカルナナハ』であります!

 これだけ聞けば色々と分かるかと!!」

「「「…………………」」」

「……あれ? もしかし知らないですか?」

「ご、ごめんね……さすがに分からないかな……」

「……うう……まぁ知名度あるって言っても千葉県内ですからね……しょうがないですけど……」

 

 紗香の発言で思わずしょんぼりしてしまう七葉。それには紗香と夏樹が、さらに困り果てたのは言うまでもない。

 そんな彼女の元に、玲央達と一緒の部屋にいる少女達が集まってきた。七葉の同僚であり、なおかつ玲央の(スマッシュヒッターズの)弟子である。

 

「ああ、もう泣かないの。七葉ちゃんはちゃんと頑張ってるし大丈夫だよ」

「そうそう。知名度なんて関係ない。大事なのはその人が何をしたのかって事だよ」

「うう……皆ありがとう。元気出てきた」

「もう、七葉ちゃんは可愛いんだから♪」

「はぁここで食べたいぃ♡」


 完全にそっちの世界である。紗香達が唖然しているが、玲央は男向けのライトノベルを読んでいるので慣れている方だ。

 ただ勘違いされやすいのだが、彼女はノンケである。決してそういう趣味はない。


「ところで先生!! 先生はどんな魔法少女なんですか!?」

「七葉ちゃんのような可愛いスタイルだと予想してみる!!」


 そんなレズな雰囲気を持った彼女達が、玲央に聞いてきたのだ。

 もちろん玲央には答えを渋る理由はない。


「マレキウム。パワードスーツみたいな奴ですね」

「マレキウム……確か聞いた事ある! 前代未聞のパワードスーツ魔法少女だって!」

「ああ、私も聞いた事ある! 確か友達が大ファンだったな!」

「もしよかったら後で変身見せてくれませんか!?」

「ああ……実は無理なんですね」

「「「えっ?」」」


 不思議に思った女性達に、玲央が説明をする。

 今デバイスが更新状態になっている事。その影響で変身がままならない事。いつそれが出来るのかまだ分からない事。それを聞く内に女性達が眉をひそめる。


「それは意外だね。管理課の人でも何とか出来ないの?」

「それも無理らしいんですよね。これって前に学校で拾った奴ですから、誰が作ったのかって分かんないし……。だから手塚さん達が急いで解析をしているんですけど」

「そうなんだ……それだと仮にヴィランが出てきたら……」

「…………」


 その言葉を聞いて顔を曇らせる紗香達。

 彼女達は思っているだろう。ヴィランが現れた場合に変身出来ない状態だと、色々と厄介事が起きる。下手すれば足手纏い扱いにされるのかもしれない。

 

 七葉達はやらないだろうが、他の少女達はしないとは限らない。紗香が心配しているのはそういう事なのかもしれない。


「まぁ、何とか出来るんじゃないですか?」

「「「えっ?」」」


 しかし曇っていく彼女達と違い、玲央は至って平然としていた。

 まるでそこまで気にしていないかのように。


「別にずっと変身出来ないって訳じゃないですし、それに気長に待てば元になれますよ。ゲームとか漫画とか読みながら……」

「……フッ、あなたらしい台詞ね、それ」

「……そうですかね……?」


 玲央自身、普通に答えただけなのだ。決して無理に言った訳でもない。

 マイペースで気楽な所があるし、マレキウムに今すぐになれないからと悲観的にはならない。故に紗香にそう言われても、あまりピンとは来なかった。


「何と言うか、先生って変わった所があるんだね」

「うん、でも嫌いじゃないかも♪ という訳でおいで、優しくするから」

「いや、何故そうなるんすか……」


 胸が豊満な少女達が誘ってくるも、玲央はこれを拒否。

 もう一度確認するが、彼女はノンケなのだ。




 ===




 広い海の中、一つの島が存在する。

 日本からそう離れていない距離にあり、人は一切いない。まさに『無人島』というべき場所には、広大な森が存在する。


 森の中には大勢の動物がいる――はずだった。今は何故か隠れているらしく、姿も形も見当たらない。


 ――オオオオンン……オオオン。


 森の中で音が聞こえてくる。獣にしては野太く、どこか禍々しい音。

 それは一定の間隔で、森の中から発せられる。いつまでも続くと思われたその時、音が消えていき静かさが増す。




 ――グルウルルルルル……。


 だがそれは違った。


 森の地面が突如として蠢く。独りで盛り上がっているのだ。

 そして起こった――下から押し上げられたように、高く上がっていく地面。それに気付いただろうか、隠れていた動物達が我先へと逃げ惑う。


 森中に響き渡る地響き。やがて地面が重力に耐えられず下へと滑っていくと、中から隠れていた物が見えてくる。




 金色に光る、鋭い瞳が。



 ===




「生命反応増大!! さらに無人島に小規模の揺れが発生中!!」


 管理本部にある観測室が慌ただしくなる。誰もが島を映し出したパソコンを見て、息を呑み始めた。

 もちろん手塚もマサユメも例外ではない。特にマサユメは謎の反応に対し、口元を噛み締める。


「ついに目覚めたようだね……」

「ええ、これはもう猶予は残ってないでしょうね……」


 手塚の意見はマサユメも同じだった。もはや吞気に観察をしている場合ではないし、怖気づく余裕もない。

 すぐに近くにいた職員へと呼び出す。的確に、そして迅速に指示を与える。


「すぐに若造達を招集。寝ていてたら後で謝るから叩き起こしな。数分で終わらせるんだ」

「了解です」

「……そしてたった今から奴に個体名を与える。個体名は……『アグレッサー』だ」


 アグレッサー。『襲撃者』を意味する英単語である。

 それ程にマサユメ達が確認したは、今までよりも脅威である事を暗に示しているのだった……。

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