#29 魔法少女が集結せし場所

 一通りフレンドパークを遊んだ、その翌日。


 玲央が第六管理課へと出勤。背中には手塚に指示された通り、着替えが入ったリュックサックを背負っている。

 あくびしながら中に入るなり、すれ違う研究員に挨拶する彼女。そのまま手塚が待っている教職員室に向かおうとした時、肩に誰かの手が置かれた。


「よぉ、彩光。随分と眠そうじゃないか」

「ん? ああ、観月さんおはようございます……。いやぁ、昨日はアニメとかWEB小説とか色んなの見てましたから、結構眠たくて……」


 手を置いたのは藍だった。玲央が眠い理由を聞くなり、彼女が鼻で笑う。


「フッ、甘いな。私は夜更かししてまで、マジックジャー全話を二周しながら見た。おかげで絶賛寝不足だ」

「……ある意味で凄いですね、それ……」

「ああ、乙宗が聞いたら絶対に白い目で見られるな……。まぁ、それよりも早く行くぞ」

「うっす」


 下らない会話をしつつ、手塚の所へと向かう二人。


 そこでようやく教職員室へと到着。中に入ると、机に向かって執筆作業をしている教職員や集まっている手塚達が見え、すぐに彼らの所へと向かっていった。


「おはようございまーす」

「おはよう彩光ちゃん、観月ちゃん。では早速集まった事だし、そろそろ要件を伝えるわ」


 そう言われて、玲央達が黙って話を聞く事となる。 

 誰もが重要な話だと思い、玲央でさえ真剣になってしまう。だが手塚から語られたのは……


「早速で悪いけど、今日から管理課本部に集合する事になったの。そこでは他の管理課の魔法少女も集まって、食事なり合流なりする事になるって」

「……何だ、そういう事ですか……。てっきり大事な用事かと……」

「というか今からですか……。テニスの合宿と被らなくてよかったですが……」


 意外や意外。大事な話でも何でもなく、合流会をするのだそうだ。

 紗香も夏樹もがっくりと肩を落とす。一方で玲央は「ふーん」と言わんばかりの顔を、藍は眠いのかあまり反応しなかった。


「織笠ちゃんに関しては、合宿を優先させるから大丈夫よ。そういう訳で色んな魔法少女がいるから、仲良くするように頑張ってね。あまり揉め事は駄目よ」

「はぁ……了解です……」

「まぁ、乙宗ちゃんがいるなら大丈夫そうだけどね。さて、西の出入口に車を用意しているから先行っててくれる? 私達も行く事になっているから、資料をまとめないといけないしね」


 管理課には三つの出入口があり、その一つに移動手段が用意されているらしい。理解した紗香達が、すぐに目的地へと向かおうとした。

 玲央もまたその後を付いて行こうとする……が、そんな彼女を手塚が止める。


「彩光ちゃん、ちょっと待った」

「ん? 何すか?」

「デバイスの件だけど、残念ながらいつ通常の状態に戻るのか不明だったのよ。もしかしたら明日……あるいはそれ以上の時間が必要になるかも」

「…………さいですか。すいません、ありがとうございます」


 申し訳なさそうにする手塚へと、軽くお辞儀をする玲央。そうして教職員室を後にし、紗香達へと付いて行く。

 その姿を見届けた手塚だったが、ふと思い出したようにスマートフォンを取り出す。すぐに電話を繋ぎ、誰かと話をするのだった。


「もしもし、そっちは順調? そう、だったら急ピッチで進めてほしいわ。ええ、出来れば今日までね……。何たって……これは今までにない厄介事になるから」




 ===




 第六ウィッチ管理課から管理課本部に行くには、長い時間を要する。

 魔法少女になって行った方がいいのだが、今回は手塚も同行しているし、さらに玲央の変身持続時間が少ないので、どの道車で行くしかない。


 道路を走っていた二台の白いバン。最初、玲央達の地元を通過していたが、時間が経つにつれ海岸沿いの街へと到着。その場所も潜り抜け、街の離れへと停止した。

 ドアが開くと、玲央達や手塚ら職員達が降りていく。


『辛っ!! つーか不味すぎる!!』

「へへ……」

「彩光、さっきから気持ち悪いんだが……」


 なお、玲央がスマホで動画を見ていた。それは彼女がいつも楽しみにしている動画投稿者の物で、今回は『あらゆる香辛料をカレーライスにぶち込む』という内容らしい。

 ただ見ている時の表情が非常に気持ち悪いので、ドン引きしながら突っ込む藍。


「にしても……『ヨーツーバー』とか言ったか。よくこんな馬鹿な動画を投稿して金稼ぎするもんだな……信じられん」

「まぁ、ぶっちゃければ楽に金稼ぎをしたいってのもありますね。これみたいに体張った奴とかありますけど」

「それはそうだが……ってうわ、こいつの身体が赤く染まったぞ。死ぬんじゃないのか?」

「それに口から泡が……」

「……それよりも二人とも……前見て、前」

「ん?」


 背後からやって来た紗香に言われたので、おもむろに顔を上げる。すると彼女達の目の前には、芝生に囲まれた巨大な建物が存在していた。

 第六管理課よりも一回り大きく、さらに壁が白ではなく黒塗りになっている。そして背後には大きな海が、これでもかという程に広がっている。


「ここが我ら管理課の本部。表向きはヴィランなどの怪物を研究する場となっているけど、実際はあらゆる地方に住む魔法少女を研究、さらに重要な会議を開く所でもあるの。

 もちろん偉い人がいるから、粗相がないようにね」


 まるで先生のように注意をする手塚。それから彼が本部へと足を踏み入れるので、少女メンバーも後を付いて行く。


「おお、凄いな……」


 中に入るなり、関心そうに周りを見渡す藍。


 エントランスは研究所じみていた第六管理課よりも、綺麗で広い印象があった。そんな空間の中を玲央達が歩き続けると、目の前に両開きの扉が見えてくる。

 扉の近くには受付があり、手塚がそこへと向かう。


「第六ウィッチ管理課の手塚実です。こちらは第六の魔法少女リスト」

「拝見します。ええと魔装討女マレキウム、魔光超女エレメンター、魔闘強女アルティメア、魔動甲女ラダーリウス……。

 はい確認しました。では中へとどうぞ」

(よく噛まなかったな……)


 リスト表をすらすらと言えた受付に、玲央は思わず感心してしまう。

 一方で手塚が扉を開けていくと、中の様子が見えてくる。そこに広がっているのは……


「ようこそ、管理課本部へ」


 体育館のように広いホールと、中に置かれている数々の長方形テーブル。

 そのテーブルには、数十人以上の少女達が座っていた。皆して談笑しており、その影響かこのホールに大きく反響している。

 

 見た事のない光景に圧倒される紗香達。なお玲央はあまり興味ないのか、そこまでではないのだが……。


「……この人達、全員魔法少女ですか?」

「ええ、そうよ。留守番も多いけど、地方から招集された魔法少女が大勢いるわ。という訳で楽しんでいってね」

「えっ? どっか行くんですか?」

「私はこれからお偉い方と話をするからね。乙宗ちゃん、後はよろしく~」


 玲央達へと手を振りながら、このホールを後にする手塚。


 紗香達が互いに見合わせるのだが、仕方なくホールの中へと入る事にする。その途中でも小学生と思われる少女におしゃれをした女子高校生など、あらゆる年齢の少女が見えてきた。


「大体は知っている奴がいるな……何回か共闘した事はある……」

「うん……ただ変身前の姿は知らないから、誰がどの魔法少女かって分からないね……。玲央ちゃん、あまり離れないでね」

「ああ、はい……ん?」


 周りを見渡していた玲央だったが、ふとある事に気付く。

 右の方向から大きい声が聞こえてきたのだ。玲央だけではなく紗香達や他の野次馬も気付いたようで、その方向へと目を凝らす。


「ここは私が座っていた席なんだよ!! 勝手に取らないでよ!!」

「あーらごめんね。それは気付かなかったわぁ。でももう席はないし、他を選んでよ」

「ギイイ!! もう許さない!! 容赦しないから!!」


 どうやら喧嘩が起きているらしい。中学生程の茶髪の少女と、ロールの黒髪をしたお嬢様的な少女がそうである。


 しばらく口論がしていたのだが、ついに堪忍袋の緒が切れたのか同時に変身してしまう。前者が髪が赤くなって黒いコートを纏った姿に、後者は黄色を基調とした可愛い衣装に。

 そのまま太刀と銃といった武器を使い、人目憚らずに乱闘。それには玲央達はおろか、周りの少女達もドン引きする始末であった。


「……こういう事もあるんだね……」

「まぁ、魔法少女って言っても、所詮は思春期の女だからな。どれ、私が止めに行こう」


 呆れる夏樹にそう答えた後、藍が止めに行こうとする。

 一瞬止めようとした玲央だったが、彼女は武闘派である。喧嘩なら止められるだろうと思った……が、


「おい、お前達、喧嘩はやめr」

「うるさい!! 邪魔しないで!!」

「グッ!! こら! いい加減に……」

「どいて!!」

「アガッ!! 貴様らぁ、歯ぁ食いしばれぇ!!」


 最初顎を殴られても平気だった。しかし二回目も殴られ、遂に切れてしまう。

 完全にミイラ取りがミイラになっている。これには紗香と夏樹が止めに入る始末だし、玲央がほんの少しだけ呆れたような顔をしてしまった。


「ちょっ、藍ちゃん!! あなたまで喧嘩しようとどうすんの!!」

「お、落ち着いて!! どうどう!!」

「離せ!! こいつらを叩きのめさないとこの気が……」

 



「静粛に!! 喧嘩はよしな!!」

「「「!?」」」


 その時だった。ホールに響き渡る女性の声。

 喧嘩していた二人の魔法少女も、藍達もハッとした顔になった。やがて全員が、声がした舞台へと振り向く。


 そこにいたのは……

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