#20 救出作戦
フォレストフレンドパーク。
ある街において、長い間オープンしている遊園地の名前である。普通のと比べていくらか規模は小さいものの、それでも数多くのアトラクションが存在していた。
ジェットコースター、メリーゴーランド、観覧車、カーレース……その中でも最も目玉なのが、戦隊ヒーローのショー。何でもそのクオリティは、テレビの戦隊と比べても勝るとも劣らないとも言われている。
しかしその遊園地が、今は地獄絵図となっているのだ。
「ハァハァハァ!!」
恐怖に怯えながら、必死に逃げている男性。
何故逃げているのか? それは彼の背後から、異形のロボットが追い掛けてくるからだった。掴まれまいと走る男性だったが、遂にはロボットに腕を掴まれてしまう。
「ヒイ! やめっ……あう!!」
ロボットの手のひらから伸びたケーブル。その先端にある針が、男性の首筋を貫く。
すると直後、徐々に変化する彼の身体。やがてそれは人間の物ではなくなり、まるで猛獣のような異形の怪物へと変貌してしまった。
ロボットが怪物を離し、再び遊園地を徘徊する。怪物もまた唸り声を上げながら、赤く光る目で辺りを見回すのだった。
「……お兄ちゃん……怖いよ……」
「大丈夫、静かにして……」
惨劇の近くには、電車の巨大模型が置いてある。その下に、数人の子供達が隠れていたのだ。
その中に紗香の兄妹である和樹と春姫の姿がある。そう、彼らは一緒に来た教師とはぐれてしまい、同級生と共に模型の下に隠れているのだ。
怖がる春姫を和樹が何とか慰めようとする。しかし、彼が思わず声が出ない程に驚いてしまう。
「もうここら辺は人いねぇみてぇだな~。つまんねぇなぁ~」
模型の近くに、誰かの足が見えてきた。
どう見ても助けに来た人ではない。見つかったらどうなるのか……和樹達は発見されないよう、必死に身体を縮みこませた。
「まぁ、いいか。これで十分に巨大怪人の数は増やせし、これなら多少はデータが取れるみたいだな」
何ともわざとらしい独り言が、和樹達に聞こえてくる。
それで、この人物が騒動の原因であると知った和樹。そうなるとますます見つからないでほしいと思い、先程よりも息を殺してしまう。
「まぁ、それだけど不安だしなぁ……。後は、念の為に人質も欲しい所だが……」
(人質……?)
思わずその言葉に不思議に思った――瞬間、
――バアアン!!
鈍い音と共に、電車の模型が大きく倒れていった。もちろん和樹達の姿が存分に晒されてしまう。
それで彼らは見上げた。模型を倒した男性の姿を。その男性の口元が大きく歪んだのを。
「み~つけたっ♪」
「……に、逃げろ!! 散り散りに分かれて!!」
我先にと、早々に逃げる子供達。
和樹もまた春姫の手を掴んで、出入り口の方へと向かっていく。しかし男性が目の前に着地し、行く手を阻んでしまった。
「ヒャハハハハ、鬼ごっこか!? 悪いが俺は結構強い……」
「こっちだ! 早く!!」
「ったく、最後まで台詞を言わせろよなぁ! まぁ、どっちにしろ追い付くけどな、ハッハ!!」
そう言って追い掛ける男性の姿は、まさに悪役――あるいは変質者その物か。
やがて三人の姿が遊園地の中へと消えてしまう。その頃、魔法少女が出入り口前で集まっている事も知らずに……。
===
「……まさか、あの子達が?」
男の子の話を聞いて、紗香の目が泳いでいった。
明らかに不安な表情であり、傍から見ていた玲央も不審がってしまう。ただふと、昨日彼女が言っていた事を思い出す。
「紗香さん、もしかして弟……」
「うわああああんん!!」
「!」
その声に反応し、顔を上げる紗香。
玲央もまた振り向くと、数人の子供達が出入り口から走っているのが見えてきた。全員恐怖に怯えているのか、涙を滝のように流している。
すぐに二人は子供達を保護。紗香がお母さんのように、彼らを宥める。
「よしよし、もう大丈夫だから。もう化け物は来ないと思うから安心して」
「ぐすっ……友達がまだ中に……」
「和樹君と春姫ちゃんが……」
「!? ……分かった。すぐに助けに行くから、ここから離れてて」
子供達の肩をポンポンと叩く。そうして紗香が迷わず、フォレストフレンドパークの中へと突入していった。
言うまでもなく玲央も彼女の後を追う。その際に彼女の表情が見えたが、やはりそこには尋常じゃない焦りがあった。
「その二人が紗香さんの……」
「そう、弟と妹……。小さいから物に隠れていると思うけど……それでもやっぱり……」
「…………」
玲央には兄がいるが弟や妹はいない。つまり兄に心配される側だ。
その心配される側なのでピンと来なかった彼女だが、それでも兄妹は兄妹……大切な存在というのは間違いないのである。その兄妹の身に何かあったらと、気が気じゃないだろう。
「きっと弟さん達は無事です。だから、早く行って安心させましょうや」
「!」
少し驚いたような表情をしながら、玲央と振り向く紗香。
今の玲央はフルフェイス状態であり、どんな表情をしているのか分からない。本人も分かっていないが、それでも悪そうな印象がないのは確かと思いたい。
それを知っているからか、紗香が微笑むのだった。
「ありがとう……心配してくれて……」
「自分も兄妹いますんで……あっ、やべっ……」
出入り口を通過すると、早速ロボット軍団のお出ましである。
アトラクションの中を徘徊していた軍団が、二人に気付くなり総員で襲い掛かってくる。対し玲央は軍団へとジャンプ――一言呟く。
「《
右手に持っているハルベルトから光の刃を、左手から青白いエネルギーを放出させる。
まず一体の頭部へと《
次々に迫り来るロボット軍団を二つの攻撃で粉砕し、斬り刻む。そのたびに増えるロボットの残骸。
さらに《
「我が敵を喰らい付け……《ファイアードラゴン》!!」
紗香がヤルングレイプを突き出す。するといつもの火球ではなく、何と東洋の龍の形をした炎が出現したのだ。
炎の龍が咆哮を上げ、ロボット軍団へと突入。喰らい付くように通過し、ロボットを蒸発させてしまったのである。
「紗香さん、いつの間に……」
「うん、私の魔法は月日が経つ事に習得していく。外にも新しい魔法は……ある!!」
紗香に迫って来るロボットが一体。対し彼女が右手のヤルングレイプで頭部を掴み、アイアンクローで握り潰してしまう。
さすがの玲央も「!?」と呆気に取られてしまう。どうも握力が高くなっているようだが、見るからに怖過ぎる。
「オオオオオオンン!!」
奥の方で聞こえてくる咆哮。同時にロボットが、蹴散らされるように吹っ飛ばされるのが見えてきた。
何とそこに巨大モンスターがいたのである。それが邪魔だと言わんばかりにロボットを跳ね飛ばしているようだが、問題はそこではない。
「あれは確か……」
先日、平野勝が変異した巨大怪人ミュータント――今の怪物がそれに酷似している。
となるとロボットの仕業だろうか。手塚が言うにはエヴォ粒子を注入させる機能があると言っていたし、民間人がそうなったとなれば合点が付く。
「グオオオオオ!!」
ミュータントがロボット軍団を踏み潰しながら、玲央へと向かう。
巨大な拳が玲央に襲い掛かるも、彼女はこれを回避。さらに襲い掛かって来たロボットの胴体を《
ロボットの残骸が、ミュータントの顔面に見事ヒット。怯んでいる隙に、玲央は頭部へと跳躍した。
「手荒くしますよ。すんません」
《
衝撃でミュータントの目が真っ白になる。そして玲央が着地した後、追いうちとばかりに腹にハルベルトで殴打。
口からよだれを垂らし、仰向けに倒れるミュータント。その姿は徐々に縮みこんで、全裸の男性へと戻っていった。
「わざわざ服が破れるんだ……」
平野の時もそうだったが、どうもミュータント化した人間の服が破れるらしい。何とも地味に嫌な仕様である。
それよりも別のミュータントが現れてきた。刃のような鋭い牙を見せながら、玲央へと攻撃しようとして……、
『玲央ちゃん!!』
瞬間、ミュータントの足元に銃弾が着弾していった。突然の事で怯むミュータント。
その個体と玲央達が見上げると、巨大な影が宙を舞っていた。それは夏樹が乗る竜人型ロボット――メリュジーナであり、右手にはアルティメアこと藍が乗っている。
メリュジーナが持っているメリュジーナライフル(命名者:彩光玲央)で、ミュータントの足元へと威嚇射撃。さらに右手から藍が飛び込み、両手に赤い炎を纏わせていく。
「《
右手の双龍牙拳を突き出し、ミュータントへとエネルギーを射出した。
見事にミュータントの頬に直撃させ、昏倒させる。同時にロボット軍団の前へとメリュジーナが着地し、背中から取り出したメリュジーナブレード(命名者:彩光玲央)で薙ぎ払っていった。
魔法少女の奮闘で、大分敵の数が減る。しかし次々と増援が向かってきて、彼女達を足止めしようとする。
『これは厄介だね……』
「そうっすな。では夏樹さん、観月さん、すいませんがここであいつらを食い止めて下さい。私と紗香さんは先に行きますので」
「私達を囮にする気か!?」
マイナスな意見と思われたのか、藍が呆気に取られる。
勘違いされないよう、すぐに首を振ったのだが。
「違う違う、紗香さんの弟さん達がこの中に隠れているんですよ。すぐに救出しないと」
『そういう事か。分かった、二人とも気を付けてね!!』
「という訳です。紗香さん、行きましょうや」
「……う、うん!」
二人は迫って来たロボット軍団を飛び越え、先へと進む。
後を追おうとするロボット達だが、そこにメリュジーナと藍が次々となぎ倒していく。彼女達が弟達を救う……そう信じて。
===
第六ウィッチ管理課。
教職員室の机で、手塚がパソコンへと睨みながらキーボードを打っていた。彼が見ている映像には、玲央の変身アイテムである『デバイス』のCG画像が映し出されている。
「……何か分かればいいけど……」
今、デバイスからコピーしたデータを解析しているのだ。デバイスには多数のブラックボックスが存在し、その解析を急いでいる。
非戦闘員という自覚がある故に、手塚はどんな形でもいいから魔法少女を助けたいと思っている。それが教職員の役目――彼女達の味方としてのやるべき事なのだ。
「……よぉし!! 少しだけだけど解析出来たわ!!」
ブラックボックスの一部分がやっと解析出来た。指を鳴らしながら喜ぶ手塚。
すぐに内容を確認しようと、エンターキーを押す。そうして映し出されていたのは……。
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