#35 空駆ける白騎士
先程あった街が、瓦礫と木片の山となっている。もはや以前の面影などあった物ではない。
その山の中で巨大な物体が蠢めき、さらに周りを虫のような影が飛び交っていた。巨大な物体が怪獣であり、虫が魔法少女だ。
『受け取れえええ!!』
夏樹が乗るメリュジーナが飛行突進する。対し口を開き、火球を放つアグレッサー。
強大な攻撃だが予備動作があるので、回避は簡単。そのまま火球を潜り抜け、頭部のヒレをブレードで引き裂いた。
悲鳴と共に、ヒレの断面から青い血が飛び散る。激昂したアグレッサーが噛み付こうとするが、逆に牙を斬りながら回避。歯の破片が地面へと落ちる。
「ア゛アアアアアアアアア!!」
ダメージが相当痛いのか、アグレッサーが身体を叩き付けるように暴れてしまった。
しかも尻尾がメリュジーナへと直撃する。吹っ飛ばされるのだが、すぐに体勢を立て直す夏樹。
『こんなにも攻撃しているのにまだ死なないなんて……』
「もう本当にしつこいですね!!」
「……バラバラにする程に攻撃しろって事かな……」
七葉と紗香が愚痴るのも無理はない。今のアグレッサーは血だらけ、さらに触手が何本が斬られているが、ちっとも倒れそうな気配がない。
その巨体に秘めた生命力のせいか。こうなると強大な攻撃で、文字通り粉砕するしかないかもしれない。
『……一つだけ方法が出来たわよ』
「……! 方法?」
途端、無線機から手塚の声が聞こえてくる。
その間にアグレッサーが触手を伸ばす。これらを紗香達がかわしながら、手塚へと耳を傾ける。
『たった今、対怪獣用兵器が届いたわ。今トラックで向かっている途中だから、それまで持ちこたえて』
『対怪獣兵器……それされあれば……!!』
「そう言われて持ちこたえない理由はない!!」
何とか攻略の糸口が出来て、紗香も夏樹も嬉しくなる。手塚の言う対怪獣兵器が来れば、アグレッサーを倒せる事が出来るかもしれないのだ。
そんな彼女達だったが、さらに手塚が付け加える。しかし妙に嬉しそうな口調をしながらである。
『それといいニュースがあるわ。たった今あなたの元に向かっているわ』
「……その言い分……まさか……」
『あなたの元に向かっている』。それだけでも紗香は察した。
そして来たのだ、遠くから向かってくる青白い光線が。アグレッサーが気付いた時には胴体に直撃し、大きく怯む。
さらに直後、一つの人影が崩れた屋根へと飛び降りるのだった。
===
「お待たせしました」
「「……玲央ちゃん!!」」
マレキウム=玲央が、遂に戦場へと到着。彼女の登場に、紗香達に喜びが出てくる。
それだけじゃない、他魔法少女も戦いを忘れたように彼女を見ていた。月の光に照らされた白い鎧の魔法少女……これで注目しない訳がないのである。
「……あれが先生の姿……」
呆然と見つめる七葉。しかし彼女の元に迫り来るアグレッサーの触手。
気付いた玲央がすぐに屋根から飛び移り、彼女を抱きかえつつ触手を回避。瓦礫の山へと着地する。
「大丈夫ですか?」
「……あっ、はい……」
気のせいか、七葉の頬が赤くなったような気がした。
何の事か玲央には分からなかったが、それよりも問題はアグレッサーの方だ。今、その個体が玲央という敵を睨んでいる。
玲央もまた、七葉を降ろした後に振り返った。ハルベルトに《
『対怪獣兵器を持ってきたわ!! ただいま戦場から北度300メートル内にいるはずよ!!』
あらかじめマサユメからもらった無線機から、手塚の声がしてきた。
玲央は方角が分からなかったが、夏樹の方は分かっているのかある方向へと向いていた。暗くてよく分からないが、どうやらそこに赤い光(恐らく誘導灯)が見える。
『では僕が取りに行く。援護頼めるかな……?』
「もち」
夏樹の言葉に、玲央はおもむろに頷く。
メリュジーナがすぐに、トラックがある場所へと向かった。それに気付いたアグレッサーが触手を伸ばすも、玲央が《
何とかメリュジーナを、この場から離す事に成功。後は対怪獣兵器とやらが来るのを待つまで。
「気を付けて!! アグレッサーには火球を持っている!!」
「りょーかい」
怪獣には熱線や火球が付き物なので、紗香に言われても特に驚きはしなかった。
玲央がアグレッサーへとジャンプする。次々と触手を斬り裂き、さらに触手の上に乗ってまたジャンプする。
そうしてアグレッサーの首元へと着地した。《
「……っ!」
腕が降りかかってきたのだ。すぐに回避しようとジャンプをする。
しかしその時、アグレッサーが一歩下がってしまった。地面に降りてしまった玲央へと、鋭い牙が襲いかかる。
対しハルベルトで口を固定させる玲央。口が閉じられない隙に、紗香が呪文を唱える。
「《サンダーボルト》!!」
顔面へと落雷が直撃。怯んだ隙にハルベルトを振り上げる。
だが乱暴に首を振るアグレッサー。それによって叩き付けられた玲央が、木片の山へと吹っ飛んでしまう。
「玲央ちゃん!!」
紗香の叫びも空しく、木片の山へと突っ込んでしまった。
暗くて何も見えない中、玲央がぐったりするように倒れている。身体が妙に痛いのだが、それでも戦闘には支障はない。
それよりも知ったのだ。今のマレキウムだとアグレッサーに立ち向かえないと。この状態では力不足であると。
「……《
変身すら出来なかったデバイス更新状態。何故そうなったのかは、変身した時に分かっていた。
アグレッサーを倒す為に、仲間達を救う為に。早速玲央はそれを引き出そうと唱える。そうして純白の鎧を青白く輝き、そのまま木片の山から脱出する。
空高く、飛行をしながら。
「ガアア!?」
最初に気付いたのはアグレッサーだった。しかし呆気に取られる暇すら与えず、敵へと突進する玲央。
その時に彼女自身は意識してなかったが、青白い粒子が尾を引いている。まるでミサイルのようにアグレッサーの頬に激突し、大きく体を倒れさせる。
「……あれは……」
玲央が急停止して反転する。その姿に呆然とする紗香。
纏っているマレキウムの鎧が、大きく変わっていたのだ。全体に青みかがった白い装甲となって、肩当てがいくらか小さくなっている。
腕と腰を覆っていたパーツ、それに足が尖って刺々しい物になっていた。さらに緑色だった目が青色になっている。
「紗香さん達、ボォーとしないで早く倒しましょうよ」
「……えっ? あっ、うん!! 皆、一気に叩くよ!!」
「はいです!!」
「了解!!」
紗香の号令に七葉や他魔法少女が返事し、アグレッサーの周りへと飛んでいった。さらに七葉が《スターショット》を放ちながら逃げる為、徐々にアグレッサーが苛立ってくる。
気を引かせている間にも、玲央と紗香がそれぞれ腰スラスターとアイスボートを使って、足元へと接近。紗香はサンダーソードを左脚に突き刺して放電。
「《
玲央が腕甲から光の刃を生やし、右足に傷を作った。ついでにもう一本の足にも《
「グウウウ!!?」
玲央でも『グギャ』と骨が折れるような音が聞こえてくる。
足のダメージで大きく倒れるアグレッサー。相当激痛が走っているからか、足を動かそうにも出来ないようである。
そしてそうさせた玲央への怒りからか、数本の触手を向かわせた。しかし玲央は目に留まらぬ速さでかわし、触手を切断。
これによって触手全部が斬られ、アグレッサーは何も出来なくなった。
『皆離れて!! 今から『プラズマレーザーカノン』を発射する!!』
「!」
夏樹の声がしてきた。見てみると、メリュジーナがキャノン砲を持ちながら向かってくる。
どうも肩部装甲と連結して、担ぐように持っているようだ。さらに銃口から黄色の光が見えてくる。
しかしこれに気付かないアグレッサーではなかった。悪あがきとばかりに口を開け、赤い火球を放つ。
徐々に向かう火球を黙って見つめる夏樹。しかしこれは逃げれない訳ではない。
玲央が前に立ったからだ。
「《
ハルベルトで火球を吸収する。そしてすぐに青白い光球にして、放出した。
そっくりそのままアグレッサーの口へと突っ込ませ、中から破裂させる。頭部のあちこちから肉片が飛び散り、動きが止まってしまう。
そこを、夏樹がプラズマメーサーカノンを発射。黄色に光るレーザーがアグレッサーの身体を貫通――彼方まで飛ぶ。
「……ガア……」
一瞬、アグレッサーが小さい鳴き声を出す。
直後、顔が爆発音を上げながら粉砕した。それだけではなく身体まで粉々になっていき、戦場に飛び散る。
まるで巨大ヒーローの光線に当てられたような最期だ。そう玲央は思うのだった。
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