#12 愛すべきオタク
玲央に襲い掛かる個体は二体となった。
まず迫り来る一体をハルベルトで跳ね飛ばす。転がりながら倒れる仲間に対して振り向くも、すぐに敵へと襲い掛かる別個体。
一方、玲央がハルベルトを地面に突き刺した。構えを取り、左足に青白いエネルギーを纏わせる。
「《
接近したモンスターへと、強烈な回し蹴り。
見事に胴体にヒットし、モンスターが悲鳴を上げながら吹っ飛んでいった。そのまま壁に激突――崩落した瓦礫の中へと消え去ってしまう。
これで敵は倒した事になった。玲央がハルベルトを引き抜くと、そこに藍がやって来る。
「観月さん、もう終わりましたか?」
「ああ、ここにはもう用はない。帰るぞ」
そう言って天井へと指を差す。見てみると、天井には埋もれた強化モンスターの姿があったのだ。
玲央は納得し、地上へと向かう藍の後を付いて行く事にした。直後にモンスターが地面へと落下、さらに天井が崩落をする。
ネズミモンスターの巣が瓦礫に埋もれていき、跡形もなくなってしまう。遂にそこは、ただの瓦礫だけの場所へとなり果てるのだった……。
===
――第六ウィッチ管理課。その休憩室。
自動販売機とソファーだけの簡素なルームに、ある二人が立ち寄った。マレキウム姿の玲央とアルティメア状態の藍である。
二人が同時に変身解除をする。マレキウムは小柄な女の子に、アルティメアはその黒コートが消え、今時の女子らしいラフな服装へと変わっていった。
「ほれっ」
「あっ、どうも」
買った缶ジュースを玲央へと渡す藍。
意外だったので、思わず玲央が缶ジュースを見下ろしてしまった。その間にも藍が自分用のジュースを飲み干していくも、何故か頬が徐々に赤に染まっていく。
「あ、あのな……。この奢りが誰にも言うんじゃないぞ? 他にした事がないんだから……」
「えっ? はぁ……」
ただそう返事するしかなかった。思わず玲央は戸惑ってしまう。
ジュースを飲み干す音が休憩室に響き渡る。やがて藍が全部飲んだ時、再び照れ臭そうに向いてきた。
「今日の所は……感謝する。それに同志がいてありがたい……」
「同志? ああ、マジックジャーっすね」
「そ、そうだ……! そこで名案なんだが、お前にマジックジャー劇場版BDを貸そう!! 高画質で鮮明、なおかつ劇場版ならではのクオリティーが……」
「あらぁ、お帰り二人とも!」
「ぬおおお!!?」
突如、身体を飛び上がらせる藍。
二人が振り返ると、そこには教職員である手塚が向かって来たのである。気のせいか顔がニヤけているようにも見え、どこか怪しい。
「手塚さん、驚かすな!!」
「ごめんなさいね、何か声がしたもんで。それよりも観月ちゃんが楽しそうに話してたような気がするけどぉ?」
「あ、いや、そんな訳じゃ……!! ああもう、どうでもいいや!!
と、とにかく私はもう帰るからな!! 彩光、後の事は任せたぞ!!」
「あっ、観月さん……」
玲央が何か言いそうだったが、それを聞かずに走り去ってしまう藍。
やがて彼女の靴音と怒声が徐々に消え、休憩室に静寂が増すのだった。
「……マジックジャーBDは持っているので別に大丈夫って言いたかったのに……」
「やっぱりその話をしていたみたいね。という事は無事に仲良くなれたたという事に……よかったよかった」
「……手塚さん、どういう事ですか?」
何やら納得をしている上司に対し、いまだ釈然としない。
そんな彼女に気付いたのか、手塚が耳打ちをするのだ。
「多分気付いているとは思うけど、あの子は敬遠されたりするから友達がいないのよ。その寂しさを紛らわす為に、あんなに強気になっているって訳。
だから同じ趣味を持つ彩光ちゃんに、心を許したんじゃないかしら?」
「……さいですか……」
そういう事ならば、あのような態度を取るのも無理はないだろう。
それにあの強気でいながらもここぞとばかりにデレる姿……まるであのジャンルみたいである。
「『ツンデレ』っぽいですね」
「まぁ、ツンデレね」
どうやら考えている事は一緒だったようである。
どうみてもそうにしか見えないのだ。最も本人が意識しているのかは分からないのだが……。
なおこの後、管理課に送られたネズミモンスターの死骸のデータから、十中八九エヴォ粒子で変異したネズミだと判明。
名前は『デビルラット』、そして藍と交戦した強化型は『デーモンラット』と呼称されるのだった。
===
暗くなっている部屋に、灯が付いていく。
そこに入っていく一人の少女。彼女がベッドへと寝転がり、一息を吐くのだった。
「……疲れた」
観月藍である。管理課から真っすぐ家に帰った彼女は今、あの時の強気はほとんど見られない。
いわゆる見栄っ張りなので、家族の前ではそういった面を見せる必要はないのだ。ただこういった見栄っ張りをどうにかしたいと思っているのだが。
しばらく呆然と天井を眺めていた彼女。だが不意に視線が動き、ある物を見つめるようになる。
テレビの横に置いてあるBDの束。そう、彼女が愛する魔法少女戦隊マジックジャーだ。
「…………」
気晴らし目的で、そのBDを手に取った。
映像はまず制作会社の提供シーン。次にご丁寧に書かれた『視聴する際には部屋を明るくして~』という注意書き。
それらを経て、やっと本編が始まった。
『殺戮ゲームを好む古代民族オーガが目覚めてしまう。彼らのゲームに怯える人々……しかし邪悪な敵を倒す為に、彼女達は立ち上がったのである!!』
『「人々をゲームの駒とするオーガを、私達が許さない!! 私達の名は、魔法少女戦隊マジックジャー」!!』
ナレーションが言い終わった直後である。次に出たマジックジャーの名乗り上げと共に、藍も叫んだのだった。
さらにご丁寧にポーズまで入れている。いわゆるその姿は『ノリノリである』と言うべきなのだが、本人に至っては清々しい表情だった。
しかし……
「藍ちゃん、そろそろ夕食…………」
「ウ、ウワアアアアアアアアアアアア!!?」
突然入って来た母親。ポーズを見られ、絶叫をする藍。
悲劇の咆哮は、一軒家の外まで響き渡る程であった……。
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