#16 壮大なロマンの目覚め!

「オオオオオオンン!!」


 森中に湧き上がる巨大怪物の咆哮。


 それと共に、巨大な拳が玲央達へと振り下ろされていく。もちろん見ている訳にはいかず、玲央と夏樹を抱えた紗香がジャンプして回避。


 拳が地面へと陥没。さらには土を飛び散らせていく辺りが、その威力を物語らせる。


「グオオオオオオオ!!」

「!? 平野さんが人のいる場所に……!!」


 着地した後に驚愕する紗香。何と怪物と化した平野が、生徒が集まっている場所へと目指していったのだ。

 悲鳴も聞こえ出してくる上に、このままだと彼らが危ない。


「何とか食い止めなければ! 織笠さんはここで待ってて下さい!!」

「あっ、ちょっと紗香さん」


 夏樹に伝えた紗香が怪物へと向かった。すぐに後を追う玲央。

 今、怪物が女子生徒が集まっているテニスコートへと突入していた。逃げ惑う生徒達。しかし中には転んでしまい、恐怖で立ち上がれない者もいる。


 動けない獲物を放っておくはずがなく、鋭い牙の生えた口を開ける怪物。それに気付いた紗香が、右手のヤルングレイプを前に出した。


「我が敵を打撃を……《ロックキャノン》!!」


 ヤルングレイプから発生した魔法陣。そこから巨大な岩が射出され、怪物の頭部へと向かった。

 見事に頭部へと直撃し、のけ反っていく。その間に女子生徒が立ち上がって逃げていき、事なきを得るのだった。


「私が行きます」

「気を付けてね。見た目はアレだけど、相手はあくまでも人だから!!」


 先に玲央が突入する。右手から武器のハルベルトを召喚させ、怪物へと接近。

 怪物の方は玲央を認識するなり、右腕を振るった。対し玲央が跳躍で回避しつつ、巨体の上に着地。巨大な先端で殴りかかろうとする。


「……!?」


 しかし、玲央に襲い掛かる謎の影。


 影が攻撃するのを知った玲央が、ハルベルトで何とか防御。反動で地面へと下がってしまう。

 一方で、紗香がその目で敵を確認するのである。


「怪人……いやロボット?」


 玲央を攻撃した者――それは人間大のロボットであった。


 右目が赤く鋭いカメラアイで、左目が三個のカメラがあるターレット。全身が銀色の装甲で包まれており、所々にチューブが見える。

 手足が鉤爪のように鋭く、特に足が逆間接のようになっていた。それに唸り声なのか、「ギギギ……」と軋むような音が聞こえてくる。


「……どうもこいつだけじゃないみたいですよ」


 玲央が周りを見渡すと、辺り一面には無数のロボット。

 いつの間にか現れ、玲央達を囲んでいるのだ。しかも平野が変異した怪物が敵と判断していないようであり、ロボットに攻撃しようとする素振りを見せない。


「ギギギギ……!!」


 軋み音を上げながら迫り来るロボット軍団。

 玲央はハルベルトから光の刃 《Slashスラッシュ》を放出。棒術のように振り回しながら、自身に向かってくるロボットを次々と斬り裂く。


 紗香もヤルングレイプから《アイスニードル》を放ち、ロボットを串刺しにしていった。しかしこれ程に攻撃をしても、どこからか湧いて来て数が一向に減らない。


 その間にも怪物がどこかに行こうとしていく。このままでは更なる被害が被るばかりである。

 紗香に焦りの表情が出てくるのも無理はなかった。


「まずい、早く止めないと!!」

 



 ===




(彩光さん達が……!!)


 森の中に隠れ、戦いを見ていた夏樹。そんな彼女が、玲央達が手間取っているのを知る。 

 玲央達がロボットと戦っている間、平野だった怪物が興味ないとばかりに突き進んでいる。しかも方角は学校の校門──奥には住宅街もあり、被害が拡大する恐れがある。


「…………」

 

 あの時……平野が怪物になる前、夏樹は紗香に「普通に暮らしたい」と答えるつもりだったのだ。

 自分にはテニスがあるし、魔法少女でいられる勇気がなかった。しかし今はどうだ──その魔法少女がいなければいけない状況ではないか。


「……そうだな。そうだよね。君の言う通りだよ、彩光さん……」


 昨日、玲央が言っていた。『自分がやるべき事をやればいい』と。


 やるべき事。それは人を守る事。つまりは戦う事。


 ――もはや悩んでいる場合ではなかった。やれるかどうかは分からないが、それでも行くしかない。


「……変身」


 自然と口に出るその言葉。

 瞬間、夏樹の身体が電流に包まれていった。電流が徐々に形を変え、何と身体にフィットした青いスーツになる。


 さらに彼女の背後にも電流が流れた。今度はスーツではなく、何と巨大な物体へと変わって実体化をする。

 その姿はまさしく、鋼鉄の人型……。




 ===



 

「ギギギギ……ギッ!!」


 ロボットの頭部を、玲央がハルベルトの先端で叩き潰す。 

 次に背後に迫って来たロボットに対し、カウンターの回し蹴り。吹っ飛んだロボットは校舎の壁に激突し、機能停止にさせた。


 だが未だ数が減らないし、巨大怪物に向かおうとしても邪魔が入る。まるでロボットが、怪物の破壊活動を促しているかのようだ。


「……本気でぶっ潰すしかないかも……」


 この際、一掃した方がいいに違いない。玲央は《Slashスラッシュ》の出力を上げ、なぎ倒そうとも考えた。

 ただ周りに被害を作りそうなので自重をしていた。しかしこの大群がいる以上、今はそんな事を思っている暇はなかったのである。


 玲央はハルベルトにエネルギーを与えようとして……


『ここは任せて!!』


 その瞬間、上から声が響き渡った。

 玲央が出力上昇をやめ、紗香と共に顔を上げた。すると頭上に巨大な物体が通りかかり、玲央達のいる場所に影を作り出す。


 物体を見て、玲央が声を上げた。それも嬉しそうに。


「ロボットだあぁ!!」


 正体は、四メートルも及ぶロボットであった。


 鋭角な頭部が特徴的で、カメラアイは金色。全身が角ばった装甲で包まれており、カラーリングは暗い青色をしていた。

 さらにフォルムは筋肉質な人型であるが、そこに翼や尻尾らしき物が付けられており、さながら竜人を思わせるプロポーションをしている。さらによく見ると背中には二本の剣、腰にはライフルが取り付けられている。


「グウウ!?」


 進行していた巨大怪物が気付く。対し翼からスラスターを噴出し、目標へと接近するロボット。

 殴りかかる怪物だが、その攻撃を回避しつつ飛び蹴りをかます。頬に直撃を喰らった怪物が地面に倒れ、砂塵を飛び散らせた。


「……あれに乗っているのはもしかして……?」

「どう見てもあの人ですな」


 あまりの迫力に、玲央達もロボット達も戦いを忘れて見つめてしまう。

 だが何体かの敵ロボットが目標を変えたのか、巨大ロボットへと急速に向かっていくのだった。それに気付いたロボットが腰からライフルを取り出し、発砲。


 思わず紗香が耳を塞ぐ程の銃音と共に、数体の敵ロボットへと着弾破壊。さらに飛び掛かって来た敵ロボットへと、背中の剣で両断。

 まさにロボットアニメのような重量感溢れる光景。しかしその直後、何故か吹っ飛んでいく巨大ロボット。


『グワッ!!』


 コンクリートの地面に激突し、破片を撒き散らした。すぐに頭部だけ振り返させると、もう既に巨大怪物が起き上がっていたのである。

 起き上がりざまに攻撃したのだろう。さらに倒れているロボットへと、もう一撃のパンチ。


『二度も同じ手を!!』


 ロボットの翼から青白いスラスターが噴いて飛行。巨大怪物の攻撃を回避し、背後へと回る。

 しかし反応速度がいいのか、すぐに振り返って拳を叩き付ける怪物。ロボットは両腕でガード――そして隙を付いて、頬にストレート。

 

「ガアア!?」


 さらにもう片方の腕で、腹に一発。口からよだれを垂らす怪物に、さらに蹴りをお見舞いした。


 巨体が地面へと倒れる。一連の攻撃が決め手となったのか、巨大怪物が痙攣しながらも力尽きていった。

 仰向けに力伏せた直後、徐々に小さくなる巨体。やがて異形だった姿から、全裸の平野勝へと元に戻る。


 つまり、ロボットの勝利であった。


「……凄い……」


 紗香の言葉通り、確かに凄かった。驚異的と言っても過言ではない。

 しかし驚いている暇はなかった。残りのロボットが玲央達へと襲い掛かろうと、軋み音を上げながら向かってくる。


 平野が倒れた以上、もう気を使う必要はないようだ。


「一気に片付けましょうか……」

「そうだね。我が敵を焼き切れ……《サンダーボルト》!!」

「《Slashスラッシュ》バースト」


 まず紗香が、ロボット達の頭上へと放電を発生。複数の落雷となって敵に直撃した。

 火花を上げながら次々と倒れる。さらに機械との相性もあって、直撃していない個体にも電流が走ってオーバーヒート。一帯のロボットをすぐに一掃させていった。


 一方で、玲央が《Slashスラッシュ》の出力を上昇。光の刃を二倍ほどリーチを上げ、大きく振るう。

 刃が光の波となって、目の前のロボット軍団を一掃粉砕。この際威力を抑えていたのだが、それでも地面を大きく抉ってしまった。


「……やば……」


 さすがの玲央も冷や汗をかいてしまう。しかしそのおかげで、敵は原形を留めてない鉄くずとなっていた。

 やがて今いる場所には二人の魔法少女と一機のロボット、築き上げられた敵ロボットの残骸しかいなくなった。戦いが終わった事に、一息を吐く玲央と紗香。


 そしてその時、ロボットの胸部が開いて、ある者が姿を現す。


「……彩光さん、やれたよ……」


 操縦席らしき場所から出してくる中性的な顔。そこにあったのは、勝ち誇った笑みだった。

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