#11 私の力よ、敵を薙ぎ払え!!
あれは数年前の事である。
当時九歳だった観月藍は、まだ魔法少女ではなかった。小学校に通う普通の少女であるが、それでも生来の頑固さであまり友達が出来なかった。
本人はその事にあまり気にせず、普段通りの生活を送っていたのである。そんな彼女であるが、ある日の朝食前にそれは起こった。
他に良い番組がないかと、そのチャンネルを変えたのがきっかけである。
「……おっ!?」
藍が目にした番組の名は、『魔法少女戦隊マジックジャー』。
その名通り五人の魔法少女を主人公とし、殺戮ゲームを好む古代怪人と戦う戦隊物だ。
後からの情報だが、この作品は戦隊シリーズの中でクオリティが高いとされ、名作とされている。その番組に藍は夢中になり、熱狂していた。
一年後に物語は終了してしまったが、藍は今でもその戦隊のファンでいる。故にオークションで売られているフィギュアを買ったり、限定品も手にしている。
だからだろうか、自分が管理課によって魔法少女だと知らされた時、自分はマジックジャーのヒーローになれると思っていた。ただそういった気持ちは年々経つたびに薄れていったのだが。
それよりも問題は、このマジックジャーの魅力を知っている者が周りにいなかった事だ。友達を作ってないので当たり前だが、それでもどこか歯がゆい感じを覚えてきたのである。
それがどうだ。今、一緒にいるパワードスーツの魔法少女が興味を持っている。それは藍にとって未知との遭遇であった。
===
「……お前、マジックジャーを知っているのか?」
今でもマジ君をマジマジと見ている玲央に、そう尋ねる藍。
すると玲央が振り向くなり、いきなり力説をするのだった。
「決まっているじゃないですか! 2010年に放送された戦隊シリーズの一作で、なおかつ記念すべき第二十作目!! 魔法を主題としているんですけど、子供向けとは言い難いシリアスなストーリー、そして視聴者に投げ掛けるようなテーマとかで、今でも名作とされているんです!!
あっ、ちなみに好きな怪人はルドガですね。ああいう武人キャラは本当に好みで……」
(……こいつ……マジだ……)
これだけ知っていると、もはやニワカとは言い難い。
これは本物である。藍と同様マジックジャーを愛し、誇りとしている人間。まさかこの目で確かめるとは思ってもみなかった。
藍は思わず呆然としてしまう。だがそこに玲央が不思議そうに見てくる。
「……どうしました?」
「……ああ、いや。とにかくもう一回巣に進む事にする。……今度はお前も付いて来い」
「ん? 了解……」
今度は許可にする事にした。再びネズミモンスターの巣に入る事にする。
穴から洞窟へと足を踏み入れる二人。例のモンスターは奥に行ったのか、影も形もどころか声すら聞こえてこない。
藍は玲央から返してもらった小型ライトを点灯し、再び奥へと進んでいった。
「お前も好きなのか? マジックジャー?」
「はいっす。兄が見てまして、それで一緒に見たら目覚めちゃったんですよ。観月さんもですか?」
「……まぁ、そんな所だな……。なぁ、マジックジャーのロボットの最強形態は……?」
「ん? アルティメイド?」
「……正解……。では四十話でマジックジャーが食べていた食べ物は?」
「芋長の芋羊羹」
「……お前、中々詳しいな」
「オタクですので」
今のマレキウム状態の玲央からは、表情は窺い知れない。しかしどうしてだろうか、そのフルフェイスの奥で笑顔になっているのが分かるような気がした。
――こいつは、今までの奴らとは違う。マジックジャーを知っている影響だからだろうか、不思議と彼女への警戒が薄れようとしていた。
しかしまだ安心は出来ない。まだ玲央に対して納得出来ない所もあったのだ。
「オタクか……では何故お前みたいなオタクが魔法少女になった? 別に魔法少女でいる事は強制ではないのだが……」
別に魔法少女の適性があるからと言って戦う必要はないのだ。それに気付かず生活している少女だってたくさんいる。
この彩光玲央は自らマレキウムとなって戦っている。藍はそこが分からなかったのだ。
「ん? まぁ、それは……」
玲央が答えようとした……瞬間。
「ギイイイ!!」
洞窟の奥から奇声が聞こえてきた。玲央と藍が思わず前を見る。
二人が顔を見合わせた後、先に進むことにした。やがて道が広くなっているのを感じ、壁に寄って注意深く見てみる。
「ギィ……ギイイ……」
何とそこはネズミモンスターの広場だったのだ。
天井には複数の穴が開いており、光が零れている。恐らくはネズミモンスターが何らかの方法で穴を開けたと思われ、そのおかげで広場が洞窟と比べて非常に明るい。
そしてそこにネズミモンスターがたむろっている。雑魚寝している個体や爪を研いでいる個体、さらには魚を食べている個体まで。
「結構いるな、大体三十体程か……」
「
「ああ、それもそうだな。奴らには悪いが、ここで全滅させなければ被害が増える。洞窟も破壊するぞ」
そう作戦を立てた、その時だった。一体が突如としてこちらを見てきたのである。
外敵を発見した個体が大きな奇声を上げると、全個体が玲央達へと振り向いていく。そしてすかさず、敵意をもって襲い掛かってきたのだ。
「さっきの借りは返してもらう!!」
《双龍牙拳》を発動しつつ、ネズミモンスターの群れに突っ込む藍。
逆に玲央の方は突っ込む事はせず、自ら向かってくる個体を蹴散らしていく。武器のハルベルトを大きく振り回し、モンスターを次々と殴打。的確に頭を殴っている上にパワーがあるので、殴られたモンスターは絶命する事となった。
藍もまたエネルギーを纏った拳で殴り続けた。かつて悪と戦ったマジックジャーと同じように、人々の為に。正義の為に。
「私の力よ、敵を薙ぎ払え!!」
「おっ、それマジックブルーの名言」
思わずマジックジャーの台詞を引用するも、このままネズミモンスターの群れへと腕を突き出した。
するとエネルギーが波となって襲い掛かり、モンスターを一掃していった。吹っ飛ばされたネズミは黒焦げになり、動く事はない。
これで大分数は減った。しかしまだ残っており、油断は出来ない。
「そっちはどうなんだ、彩光?」
「大丈夫ですよ……っと」
玲央が迫り来る一体へと、ハルベルトを振り下ろした。その衝撃で地面に埋もれるモンスター。
だが、何か様子がおかしかった。地面に埋もれたモンスターが起き上がって……
「!? いかん、よけろ!!」
いや、起き上がったのではない。下から押されたからだ。
モンスターの下から現れる謎の影。玲央が咄嗟に腕でガードして受け止めると、それが瞬時に藍の前へと跳躍していった。
「グルルルル……グルルウウウ……」
「……こいつは……」
藍は驚くしかなかった。その個体は、ネズミモンスターとは全く別の姿をしていたのである。
おおよそのシルエットはネズミモンスターに酷似している。しかし人間のように二足歩行をしており、なおかつ表皮には毛が無い。代わりに剥き出しの筋肉と赤い筋があり、非常にグロテスクである。
顔つきもネズミモンスターがネズミらしさを残ってたのに対して、こちらは野獣を思わせる獰猛な物になっていた。そして両腕には刃物を思わせるような鋭い鉤爪。
「……何ですか、こいつ?」
「……先程私を攻撃した奴……。恐らくはエヴォ粒子の促進で、さらに突然変異したネズミだろう……」
このモンスターの正体は大体想像が付く。しかしそれは藍にとってはどうでもいい事――倒せればそれでよし。
「ギュアアアアアアア!!」
向かってくるネズミモンスターの強化型。その鋭い爪が藍へと襲う。
藍は寸前で回避。すると強化モンスターが地面に潜ってしまい、そのまま姿を消してしまったのである。
まるでモグラのような戦法に、思わず藍が舌打ち。しかしその時、自分の下から襲い掛かるモンスター。
「その手はもう乗らん!!」
最初は奇襲されたが、今度はそうはいかない。
ほんの少し下がって攻撃を回避。出てきたモンスターへとすかさず右ストレート――勢いよく吹っ飛ばす。
悲鳴を上げながら転がり込むモンスター。だがすぐに体勢を立て直し、藍へと鉤爪を乱暴に振るっていく。
でたらめな攻撃に対し、藍は平然と回避。さらに隙を付いて、腹へと潜り込んだ。
「トドメだ!!」
腹に目掛けて《双龍牙拳》の左アッパー。
この時のモンスターから、悲鳴にもならない声が出てきた。アッパーの力で上昇し、天井へと激突する。
音を上げながら埋め込まれる異形を、藍はアッパーの体勢のまま見届けていた。
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